2014年 2月 1日公開

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「中小企業でもできる税務申告の延長」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

社長に病気や何かのトラブルがあったり、事務所が火事に遭って税務関係の資料が作れなかったり、紛失してしまうなど「万が一の事態」は起こりえます。こんなときに助かるのが税務申告の延長という制度。今回は意外に知られていない、その手続きについて取り上げてみました。

「中小企業でもできる税務申告の延長」の巻

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申告書を期限内に提出すべき理由は?

確定申告が提出期限を過ぎてしまう「期限後申告」は、法人にとってかなりのマイナスイメージとなるだけでなく、実際にもダメージをこうむります。「うちは赤字だから申告しなくていい」などと安易に考えていてはいけません。法人税の申告書を提出しないと、翌期の税金が大きく増えてしまう可能性もあるのです。

さらに大きなリスクとして、次のようなペナルティが課される場合があります。

  1. 無申告加算税が課される
  2. 青色申告の承認が取り消される

a. 無申告加算税が課される

法人税に限らず、消費税・住民税・事業税の申告書は1日でも提出が遅れると、原則として無申告加算税の対象となります。

注意! 無申告加算税の対象となると?

本来納める税額の5%~20%分のペナルティが無申告加算税として課されることになります。
ただし、申告期限内に申告書を提出する意思があったと認定された場合には、申告書の提出が多少遅れても無申告加算税が課されないケースがあります。

b. 青色申告の承認が取り消される

2年連続して、法人税の申告書を期限内に提出しなかった場合には、青色申告が取り消されます。個人の場合は青色も白色もあまり変わらない印象がありますが、法人の場合、取り消されたことによるダメージは非常に大きいと言えます。青色申告から白色申告になるということは、何らかの不正や著しい怠慢があったと見なされるからです。その結果、会社の信用が損なわれ、銀行からの借り入れが難しくなることもあります。

注意! 青色申告でなくなると?

具体的には次のようなデメリットがあり、結果として税負担が重くなったり、節税がしづらくなったりします。

  • 欠損金の繰越控除の適用が除外となります(赤字を次期以降に繰り越すことができません)
  • 中小企業者等に限りますが、当期が赤字で前期が黒字であった場合に前期に支払った法人税の還付請求ができる欠損金の繰戻し還付制度の適用が除外となります
  • 中小企業者等に限りますが、30万円未満のパソコン等を買った場合の一括損金処理の適用が除外となります
  • その他税額控除等の規定について適用の除外となります

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申告書の提出期限は延長できる

確定申告書の提出期限は税務署に申請することで延長することができます。

法人税法と会社法の期日のズレ

確定申告の提出期限は、法人税法の規定により事業年度終了の日の翌日から2カ月以内と定められています。しかし、この提出期限は延長することが可能です。

こうした「締め切り」の定めがありながら「延長」が許されるのはなぜでしょうか。実は、会社法で、事業年度終了の日の翌日から3カ月以内に定時株主総会を開けばよいとされていることが関係しています。

決算報告書には株主総会の承認が必要

法人税の確定申告を行うためには、その前に定時株主総会を開催して、決算書について株主の承認を受けておかなければなりません。確定申告書の計算の基礎となる当期利益は、定時株主総会で承認確定した決算報告書に基づくものだからです。

しかし、株主総会の開催が事業年度終了の日の翌日から3カ月以内でよいということになると、法人税法が定める2カ月以内とは矛盾が生じます。その期間に株主総会が開かれず決算の承認が間に合わないケースもありえるのです。

申告期限の延長の特例の申請

もちろん定時株主総会の開催時期を税務申告の時期に合わせて「毎事業年度の終了後2カ月以内」にできればいいのですが、開催時期がそれより遅くなったり、たとえ間に合っても決算書を作成するのに時間がかかったりすると、提出期限に遅れてしまいます。

こういう場合、「申告期限の延長の特例の申請」という手続きをすることで、法人税の申告期限を1カ月延長することができます。

会社法に優先する定款の規定

ただし、会社の定款に定時株主総会の開催時期を記載しているのであれば、会社法の定めよりも、その定款の規定が優先します。例えば、定款で「定時株主総会の開催時期は毎事業年度の終了後2カ月以内」と定めていた場合には、延長は受けられません。

中小企業も延長申請でリスク軽減

中小企業については、株主総会の開催時期よりも、「社長がケガ等をして入院してしまった」「何かの事情で確定しない売上があるために当期の売上が過少に計上されてしまう」など、何らかの理由で決算が確定しなかったとして申告期限の延長を申請するケースが多いと言えます。

ただし、実際に延長を申請している中小企業はまだまだ少数派です。延長という制度の存在があまり知られていないことに原因があるようです。中小企業でも、申告期限の延長を申請しておけば、「期限後申告」という万が一のリスクは防げるので、検討するとよいでしょう。

注意1 消費税の申告については延長手続きの規定はありません!

消費税の申告を提出すべき法人については、消費税の延長期限の規定がないため事業年度終了の日の翌日から2カ月以内に所轄する税務署に確定申告書を提出しなければいけません。

後日、確定し承認を受けた決算書に基づいて計算した課税区分において差異があった場合には、修正申告または更正の請求により税額を調整する必要があります。

なお、税務署の調査を受ける前に自主的に修正申告をすれば、追加納税部分に係る過少申告加算税はかかりません。

注意2 納税は2カ月以内に!

今回の説明は「申告書の提出期限」についてです。納税については、国税および地方税を問わず、予定通り事業年度終了の日の翌日から2カ月以内に見込みで行ってください。

後日、確定した納税額と見込み納税額の差異については、追加で納税または還付処理されます。なお、追加で納める税額がある場合には、その部分について利子税という税金が別途発生しますので見込み納付額は少し多めにしておくことをお勧めします。

注意3 災害により提出できない場合は?

今回は定時株主総会にて決算報告の承認が制度上できない場合の申告書の延長について説明しています。これとは別に地震等の災害により確定申告書を提出できない理由がある場合には、災害等による延長の申請制度があります。災害等により申告できない正当な理由がある場合には、事前に所轄する税務署に相談して手続きをとりましょう。

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申告期限の延長手続き

法人税の申告書の提出期限の延長は、所轄する税務署に対して「申告期限の延長の特例の申請書」を提出することで適用を受けることができます。

申請書の提出を受けて税務署は審査のうえ、延長を承認するかどうかを判定します。一度承認されれば、翌期以降は申請する必要はありません。

a. 所轄税務署への申請

[提出時期]

最初に適用を受けようとする事業年度終了の日まで。

[提出方法]

申請書を2部作成(1部は会社控え用)のうえ、所轄の税務署に持参または送付します。
提出先は納税地の所轄税務署長となります。
郵送する場合には、会社宛の返信用封筒に切手を貼って一緒に送らないと控えは返ってきません。注意が必要です。

[申請書様式・記載要領]

申告期限の延長の特例の申請書は以下からダウンロードできます。

国税庁Webサイト 申告期限の延長の特例の申請書(PDF)

[添付書類]

申告書の提出期限の延長の承認を受けようとする理由を証する書類(定款・寄付行為・規約等の写し、その他)のコピーを添付します。

b. 地方公共団体への届出申請

法人税は国税ですが、地方税として法人住民税、法人事業税があります。これら法人の地方税については、各地方公共団体に対して別途、延長の申請または届出を行う必要があります。

[申告書の提出期限]

法人住民税については、法人税で申告期限の延長が承認され、税務署から提出期限が指定された場合は、その指定された日が法人住民税の申告期限となります。すなわち税務署に認められた期限と地方公共団体で認められる期限は同じということになります。

[届出・申請]

  1. 法人住民税については延長の届出、
  2. 法人事業税については延長の申請を行います。

1. 法人住民税の延長届出

最初に適用を受けようとする事業年度の終了の日から22日以内に、都道府県税を管理する税事務所に「法人税に係る確定申告書又は連結確定申告書の提出期限の延長の処分等の届出書」を提出します。
「届出」なので審査はありません。

2. 法人事業税の延長申請

最初に適用を受けようとする事業年度終了の日までに都道府県税を管理する税事務所に「申告書の提出期限の延長承認申請書」を提出します。

申請なので審査はありますが、記載事項や添付書類に不備がない限り受理されます。

法人税と同じで、事業年度末までに提出しなければなりません。

[申請書様式]

上記1と2の内容が一緒になった「申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書」(同規則第13号の2様式)をダウンロードして2部作成(1部は会社控え用)し、提出します。

東京都の場合

東京都主税局Webサイト 申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書(PDF)
*書式は各都道府県で異なりますので、最寄りの税事務所Webサイトからダウンロードしてください。

[記入例]

見本のように必要事項を記入します。

申告書の提出期限の延長の処分等の届出書・承認申請書

「法人税に係る申告書の提出期限の延長の処分等の届出」の項では、

1. 延長を希望する事業年度の期首と期末の年月日を記入します。
→今年度分から延長を希望するのだとすると、「平成25年4月1日からの事業年度分から法人税の確定申告書の提出期限の延長について」と記入します。

【 見本 】

「法人税に係る申告書の提出期限の延長の処分等の届出」

2. 「・下記のとおり延長の処分があった」にマルをつけます。また、見本のように、該当しない部分を線で消します。

【 見本 】

「・下記のとおり延長の処分があった」

3. 「確定申告書又は連結確定申告書の提出期限の延長期間」では( )内に「1」と記入します。
→2カ月延長ができるのは特殊な法人のみです。

【 見本 】

「確定申告書又は連結確定申告書の提出期限の延長期間」

4. 「法人税に係る申告期限の延長の特例の申請書の提出の有無」の項では、「有」にマルをつけ、税務署に提出をした「申告期限の延長の特例の申請書」の控えを参考にして月数、申請書提出年月日を記入します。

【 見本 】

「法人税に係る申告期限の延長の特例の申請書の提出の有無」

「事業税等に係る申告書の提出期限の延長の承認申請」の項では、

1. 延長を希望する事業年度の期首と期末の年月日を記入します。

【 見本 】

「事業税等に係る申告書の提出期限の延長の承認申請」

2. 延長の申請理由、例えば「定款○条によって定期株主総会が3カ月以内に召集するために延長を希望します」、または、会計監査を受けている場合には「会計監査により決算確定が遅れるため」などと記入します。

【 見本 】

延長の申請理由

[ 添付書類 ]

税務署に提出した「申告期限の延長の特例の申請書」の控え*のコピーと延長理由の書類(定款等)のコピーを添付します。

*法人事業税の延期申請は「事業年度末」までにしなければなりません。例えば3月決算の場合だと、3月31日までに提出しなければならないので、実務的には2月末までに税務署に提出しておくことになります。そうすると申請書の控えが3月初旬に返送されてくるので、そのコピーを添付して3月31日までに市町村の税事務所に提出することになります。

注意! 東京23区以外の地域では

東京都23区にある法人では、税務署と都税事務所の2カ所に申告期限の延長の申請・届出をするだけですが、それ以外の地域では、税務署、道府県税事務所、市町村税事務所の3カ所に申請・届出することが必要です。

なお、市町村によっては申告期限の延長の申請・届出のみを行うための書式を定めていないところもあるので、Webサイト等で確認してください。

大阪市の場合

ちなみに、大阪市の場合は以下のように「法人・事務所等異動届」という名称の書式となっています。

大阪市Webサイト 法人・事務所等異動届(PDF)

[記入要領(大阪市の場合)]

  1. 「6 その他」欄に、「申告期限の延長」と記入します。
  2. 「異動後」欄に、法人税(国税)において認められた延長月数および延長が開始する事業年度を記入します。
  3. 「異動年月日」欄に、税務署に申告期限の延長の申請を行った日を記入します。
  4. 税務署に提出した「申告期限の延長の特例の申請書」控えのコピー、または都道府県に提出した「法人税に係る確定申告書または連結確定申告書の提出期限の延長の処分等の届出書」のコピー、延長理由の書類(定款等)のコピーを添付します。

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