2014年 4月 1日公開

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「所変われば税率も変わる?」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

よく耳にするのが、地方のある都市は法人税が高いから工場や営業所を出すのは考えもの……という意見です。法人にかかる税は地域によって格差があるのでしょうか? 今回は地方税の税率について勉強してみましょう。

「所変われば税率も変わる?」の巻

地方税の税率に高低はある?

法人にかかる主な税には、法人税、消費税、法人住民税、法人事業税などがあります。そのうち、法人税、消費税が国税であるのに対して、法人住民税、法人事業税は、地方自治体(都道府県と市町村)に払う地方税です。また、このほかに特定の都市のみで課税される地方税もあります。

法人にかかる税の種類

国税

法人税、消費税、源泉税など

地方税

  1. 都道府県税…… 法人住民税法人事業税、自動車税、不動産取得税など
  2. 市町村税…… 法人住民税固定資産税、軽自動車税
  3. 指定都市税…… 都市計画税事業所税

地方税に関わる三つのキーワード

標準税率

企業に対してかかる地方税がいろいろある中で、○○県は税金が高い、安いなどといううわさを耳にすることがあります。確かに県や市町村の税金は、それぞれの議会が定める条例によって課税されるものですが、地方税法では、こうした条例を定めるときの基準を示しています。これが「標準税率」で、日本全国の自治体はこの標準税率に従って税率を定めているということになります。

制限税率

地方税法では、財政上その他の必要があるときは、標準税率によらなくてもよいとしているものの、地方団体が課税することのできる税率の最高限度を制限しています。これが「制限税率」です。従って、東京と地方とで多少の税率のばらつきはあっても、大きな違いはないということになります。

超過課税

超過課税とは、標準税率を超える税率によって自治体が課税を行うことを言います。近年は環境目的などを理由に、超過課税を行っている自治体が増えています。どの税目に対して超過課税を行うかは自治体によって異なります。

以上、地方税の税率は地域によって格差はあるものの、その差は最小限に抑えられていると言えます。ただし、税目そのものが都道府県や都市によってあったりなかったり、また税率も異なるので、企業にとっては地方により税負担が異なるというもの事実です。そんな地方税について具体的に見ていきましましょう。

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固定資産税と都市計画税

固定資産税はどんな自治体でも課されますが、都市計画税は都市計画事業または土地区画整理事業を行う市町村にある土地および家屋に対して生じる課税です。従って、そうした事業のない市町村で課税されることはありません。

固定資産税

固定資産税は、土地・家屋・償却資産(注)などの「固定資産」に対して課される市町村税です。

(注)償却資産とは会社や個人商店などが、その事業のために使用する機械・器具・備品などを言います。

納税義務者

固定資産税の納税義務者は次のとおりです。

  1. 土地または家屋の所有者

    毎年1月1日(賦課期日)現在の土地または家屋の所有者として、固定資産課税台帳に登録されている法人または個人。

  2. 償却資産の所有者

    毎年1月1日(賦課期日)現在の償却資産の所有者として、償却資産課税台帳に登録されている法人または個人事業主。

評価額の決め方

全国的な評価の公平性を図るため総務大臣が定めた「固定資産評価基準」に基づいて決定されます。評価額は、固定資産課税台帳または償却資産課税台帳に登録されています。

評価の方法は以下のとおりです。

[土地]
宅地の形態により評価方法は違いますが、一般的には地価公示価格等を基にして一定の補正率を乗じて計算した価格により評価します。

[家屋]
再建築価格(その家屋と同一の家屋を新築するものとした場合の価格)を基に、取得後の経過年数に応じた価格の減少を見て評価します。

[償却資産]
取得価額を基に、毎年度その取得後の経過年数に応じた価格の減少を見て評価します。

税率

地方税法により固定資産税の標準税率は1.4%と定められています。自治体によっては財政難などの理由で、やや高めに設定しているケースもありますが、前述のとおり、あまり大きな差はありません。ちなみに財政破たんした北海道夕張市の場合で、固定資産税の税率は「100分の1.45」。世田谷区を含む東京23区や兵庫県芦屋市などの「100分の1.40」と比べても、その差はわずかなものとなっています。

申告書の提出

固定資産税のうち土地または家屋については、次の場合を除いては、申告の必要はなく、賦課課税方式(注)により納税通知書・課税明細書が送られてきます。償却資産については毎年申告しなければなりません。

(注)賦課課税方式とは自治体が税額を決定し納税者に通知する方法。

  1. 土地または家屋について~税の軽減適用を受ける場合は申告を

    住宅用地については特例措置があり、税負担が軽減されます。新たに住宅を建築または増築、用途変更等があった場合には、「固定資産税の住宅用地等申告書」を自治体の税事務所に提出すると軽減適用を受けることができます。

  2. 償却資産について~該当する資産あれば毎年申告を

    償却資産税は、資産の所在する自治体で課税されます。支店や工場などが複数の自治体に散らばって存在する場合は、それぞれの自治体で課税されるので、資産の所在する自治体の税事務所に納税者が申告書を提出します。その後、賦課課税方式により納税通知書・課税明細書が送られてきます。該当する資産あれば毎年申告をすることになります。

都市計画税

都市整備などの費用に充てるための目的税です。都市計画法による市街化区域内に所在する土地・家屋の所有者に課税されます。都市計画税は市町村が条例で課すことのできる税金ですが、制限税率(上限)は0.3%となっています。実際に適用される税率は市町村ごとに異なります。

課税の対象となる資産

都市計画法による都市計画区域のうち、原則として市街化区域内に所在する土地および家屋です。従って償却資産は課税の対象にはなりません。

納税義務者

毎年1月1日(賦課期日)現在の土地または家屋の所有者として、固定資産課税台帳に登録されている法人または個人。

申告が必要な場合

固定資産税と同じように、住宅用地については特例措置があり税負担の軽減を受けたい場合は「固定資産税の住宅用地等申告書」を提出することになります。それ以外は賦課課税方式により納税通知書・課税明細書が送られてきます。

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法人住民税

法人住民税は、法人道府県民税(以下、省略して「法人県民税」)と法人市町村民税(以下、省略して「法人市民税」)を合わせた地方税です。
個人にかかる住民税の場合は、年末調整や所得税確定申告のデータに基づいて各地方自治体が課税額を算出し、納付書を送付する「賦課課税方式」を採用しています。対照的に法人住民税は法人が課税額を計算し自ら納付をする「申告納税方式」を採用しています。

[住民税の内訳]

個人法人
個人住民税(注)法人住民税法人県民税
法人市民税

(注)個人住民税の場合は、県民税と市民税を合わせて市町村から納付書が送られてきます。同様に、東京都23区についても両方を合わせた「都民税」として課税されます。

赤字でも課税される法人住民税

法人市民税と法人県民税の均等割部分(後述)は、たとえ決算が赤字であったとしても、納税しなければなりません。その自治体で事業を営む以上、道路や水道などさまざまな公共サービスを享受しているからです。

法人県民税

法人県民税は、法人税割額と均等割額と利子割額からなります。

  1. 法人税割額 → 会社の利益に応じてかかります
  2. 均等割額 → 会社の利益に関係なくかかります
  3. 利子割額 → 預貯金等の利子等にかかります

1.法人税割

法人税割は、法人税額を基礎として算出されます。
計算法は、「法人税額×税率」となっています。
税率は標準税率が5%、制限税率は6%となり各道府県で異なります。

2.均等割

均等割は、法人の「資本金・従業員数」などの法人の規模などに応じて税率が定められています。従って、たとえ赤字の会社であっても課税されます。
税額は資本金等の金額によって決まります。

また道府県内に事務所・事業所を持っていない法人でも、寮・宿泊所・クラブなどを持っている場合は均等割を納めなければなりません。

[法人県民税(均等割)の標準税率]

法人県民税
法人の資本金県民税
1,000万円以下2万円
1,000万円超~1億円以下5万円

3.利子割額

利子割額は、会社の預貯金(注)の利子等にかかります。
ただし、利子割額は、金融機関で既に源泉徴収されているので、申告する必要はありません。逆に、控除される額がある場合は、申告して控除を受けられます。
なお、法人市民税には利子割額はありません。

(注)法人名義の預貯金口座等

法人市民税

法人市民税は、法人税割額と均等割額からなります。

  1. 法人税割額 → 会社の利益に応じてかかります
  2. 均等割額 → 会社の利益に関係なくかかります

1.法人税割額

法人税割額は、会社の利益に応じてかかる部分です。
次の計算式で税額が決まります。

税額=法人税額×税率(注)

(注)税率は標準税率が17.3%、制限税率は20.7%となり、市区町村で異なります。

2.均等割額

均等割額は、会社の利益に関係なくかかる部分です。
税額は資本の金額と従業員数によって決まります。
法人県民税の均等割とは異なり、資本金と従業員数が基準になっています。

[法人市民税(均等割)の標準税率]

法人市民税
法人の資本金従業員数市民税
1,000万円以下50人以下5万円
50人超12万円
1,000万円超~1億円以下50人以下13万円
50人超15万円

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法人事業税

法人事業税は、企業の事業活動に対してかけられる都道府県税です。
法人事業税は企業の所得に対して課税されます。

納税義務者

  • 事務所または事業所を設けて事業を行っている法人(公益法人等は、収益事業を行っている場合)
  • 人格のない社団や財団で収益事業を行い、法人とみなされるもの

税額

法人事業税はその法人の形態により、税額計算方式が異なります。一般的な企業のほとんど(注)は、次の計算式で税額が決まります。税率は各自治体によって異なります。

税額=課税標準額(所得割)×一定税率

(注)電気・ガス供給業、または保険業を行う法人、資本金の額が1億円を超える普通法人は計算式が異なります。

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事業所税

事業所税は、政令指定都市等で、一定規模以上の事業を行っている事業主に課税される税金です。都市の行政サービスと、そこに所在する事業所等との受益関係に基づいて課税されるので、たとえ赤字の会社であっても納税しなければなりません。

事業所税の課税団体

事業所税は、人口30万人以上の都市等が道路、ごみ処理、上下水道、公害防止など都市環境の整備および改善に関する事業に要する費用に充てるために課せられる目的税です。近年の市町村合併により、国から事業所税の課税団体として政令指定を受ける自治体が増えています。

[課税団体]
事業所税が課せられるのは以下の自治体です。事業所税の課税団体は平成25年4月1日現在で全国に76団体あります。

  1. 東京都(特別区の存する区域)
  2. 政令指定都市(20市)
    札幌市、仙台市、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、相模原市、新潟市、静岡市、浜松市、名古屋市、京都市、大阪市、堺市、神戸市、岡山市、広島市、北九州市、福岡市、熊本市
  3. 首都圏整備法の既成市街地を有する市(3市)
    武蔵野市、三鷹市、川口市
  4. 近畿圏整備法の既成都市区域を有する市(5市)
    守口市、東大阪市、尼崎市、西宮市、芦屋市
  5. 人口30万以上の政令で指定する市(47市)
    旭川市、秋田市、郡山市、いわき市、宇都宮市、前橋市、高崎市、川越市、所沢市、越谷市、市川市、船橋市、松戸市、柏市、八王子市、町田市、横須賀市、藤沢市、富山市、金沢市、長野市、岐阜市、豊橋市、岡崎市、一宮市、春日井市、豊田市、四日市市、大津市、豊中市、吹田市、高槻市、枚方市、姫路市、奈良市、和歌山市、倉敷市、福山市、高松市、松山市、高知市、久留米市、長崎市、大分市、宮崎市、鹿児島市、那覇市

事業税の仕組み

事業所税は、資産割と従業者割からなっています。

1.資産割

事業所等の床面積を対象とします。

納税義務者
市内または区内で、使用する事業所等の床面積の合計が1000平方メートルを超える規模で事業を行う法人または個人事業者。

課税標準
事業所床面積(借り受けている分を含む)。

税額
次の計算式で税額が決まります。

税額=事業所床面積(注)(平方メートル)×600円(一定税率)

(注)延べ床面積1000m2以下の規模の事業者には課税されません。

2.従業者割

従業者の給与総額を対象とします。

納税義務者
市内または区内で、従業者数の合計が100人を超える規模で事業を行う法人。従業者数100人以下には課税されません。

従業者には、一般の従業員のほか役員、臨時従業者、出向者等も含まれます。
従業者を数え、100人を超えた場合には、算定期間(事業年度等)中においてアルバイトやパートタイマー等を含むすべての従業者に支払った給与等(注)が従業者給与総額になります。

(注)障がい者等に対して支払った給与等は除かれます。

課税標準
従業者給与総額(賞与を含み、退職金は除く)。

税額
次の計算式で税額が決まります。

税額=従業者給与総額×0.25%(一定税率)

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