2014年 8月 1日公開

【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

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「外国人労働者の社会保険」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

外国人社員を採用する日本企業は年々増加しています。外国人であっても社会保険や労災保険等への加入手続は日本人と同様に必要。また外国人労働者には入管法も関わってきます。雇用に当たって、どんな注意が必要か、基本から勉強することにしましょう。

「外国人労働者の社会保険」の巻

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外国人労働者の社会保険について

社会保険の仕組み

一口に社会保険と言っても「狭義の社会保険」……健康保険・厚生年金保険と、「労働保険」……労災保険・雇用保険に分かれています。

<社会保険の仕組み>

社会保険の仕組み

【外国人労働者の社会保険(狭義)】

社会保険の適用事業所に使用される者は、その者の意思・地位・性別・年齢・収入・国籍を問わず、例外的に除かれる者(注)以外のすべての者が社会保険(健康保険、厚生年金保険)の被保険者となります。
従って、使用者は、外国人であっても日本国内の事業所で働く限りは、その者の加入の意思を問わず、社会保険加入の手続きを行う義務があります。

(注)臨時に使用される者や短時間で働く者など。

「使用される者」とは?

ここで言う、「使用される者」というのは、日本の事業所に対して労務を提供しているか、その対価を日本の事業所から得ているか、また、日本の事業所の就業規則の適用を受けるべき関係にあるか、などの実態から総合的に判断されます。

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外国人労働者の健康保険について

外国人労働者が健康保険に加入するメリット

健康保険の加入は義務なのですが、これに納得できないという外国人労働者も出てくることでしょう。使用者はもちろん制度について説明する必要がありますが、そのときに健康保険に加入するメリットを話し、理解してもらうとよいでしょう。

【メリット1】

労働者本人のけがや病気に対する備えとなります。

【メリット2】

海外に住んでいる外国人労働者の親族を健康保険で「被扶養者」として加入させることができます。
「被扶養者」として認定される親族の範囲は、以下の図のとおりとなります。

<「被扶養者」として認定される親族の範囲>

「被扶養者」として認定される親族の範囲

上記範囲の親族のうち、「主として被保険者に生計を維持されている者」が「被扶養者」となり得るのです。

「主として被保険者に生計を維持されている者」とは?

「主として被保険者に生計を維持されている者」とは、被保険者の収入により、その人の暮らしが成り立っていることを言い、必ずしも被保険者と一緒に生活をしていなくても構いません。

収入についての要件

「被扶養者」として認定されるには、加えて、年収130万円(60歳以上の場合は180万円)未満等、収入額の要件もあります。これらの要件に確実に該当していなければ「被扶養者」として認定されないことも理解してもらう必要があります。

【メリット3】

医療費だけではなく、例えば本国に残してきた配偶者が出産する場合なども、健康保険から出産一時金の給付を受けることができます。

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外国人労働者の厚生年金について

会社や事業所が厚生年金に加入している場合は、その事業所に雇用されている従業員はすべて厚生年金に加入させなければならないのが原則です。

外国人従業員に対する厚生年金加入の問題

外国人従業員の出身国が、日本と社会保障協定を結んでいるかどうかで取り扱いが変わります。「外国人を採用した場合の注意点」の項をご参照ください。

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外国人労働者の労災保険について

日本では、公務員などの例外を除き、すべての労働者は労災保険の適応対象となります。従って日本国内の事業所で使用(雇用)される労働者であれば、国籍を問わず労災保険が適用されることになります。

労災保険の手続き

労災保険については、外国人であっても日本人であっても入社のつど手続きを取る必要はありません。労働保険料を申告する際に、外国人労働者の賃金も含めて納付することで、外国人労働者も労災保険の対象となります。

雇用保険との適用上の違い

雇用保険は不法就労の場合、加入することはできませんが、労災保険は、業務起因性、遂行性および労働者性が認められれば、不法就労であっても、労働者保護の観点から労災保険の給付の対象となります。
日本で働く場合、国籍を問わずに、労働基準法も適用されます。従って、労働基準法の災害補償の金銭的裏付けとなる労災保険も適用となるのです。

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外国人労働者の雇用保険について

雇用保険についても国籍を問わず日本人と同様に適用されます(注)。

(注)外国公務員および外国の失業補償制度の適用を受けていることが明らかである者を除きます。また、「ワーキングホリデー制度」による入国者についても雇用保険の適用除外となります。

雇用保険被保険者資格取得届

雇用保険の被保険者となるべき従業員を採用したときに提出します。手続きは日本人と同じです。

<雇用保険被保険者資格取得届 申請書>

雇用保険被保険者資格取得届 申請書

資格取得届は「ハローワークインターネットサービス」Webサイトからダウンロードできます。

「外国人雇用状況の届出」にも使える!

資格取得届は、「外国人雇用状況の届出」に代えることができます。下記のように「18.備考」欄に国籍、在留資格、在留期間等を記載することによって、「外国人雇用状況の届出」とすることができます。

<資格取得届「18.備考」欄 記入例>

資格取得届「18.備考」欄 記入例

【主な添付書類(注)】

雇用保険適用事業所台帳
労働者名簿
出勤簿(タイムカード)
賃金台帳
雇用契約書
辞令など

(注)下記提出期限までに提出した場合、労働者名簿、出勤簿、賃金台帳等一部のものについては添付が不要となりました(平成22年4月改正)。

【提出期限】

被保険者となった翌月の10日まで

【提出場所】

事業所の所在地を管轄する公共職業安定所

注意! 義務化された「外国人雇用状況の届出」

すべての事業主には、外国人労働者(注)の雇い入れまたは離職の際に、当該外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間等について確認し、厚生労働大臣(ハローワーク)へ届け出ることが義務づけられました。届け出を怠ったり、虚偽の届け出を行ったりした場合には、30万円以下の罰金の対象となります。

(注)雇用保険未加入の場合や上記備考欄に記載しない場合も含む。

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外国人を採用した場合の注意点

外国人を採用した場合に注意すべき点は次の三つです。

  1. 社会保障協定
  2. 脱退一時金
  3. 外国人雇用状況届出

以下、詳しく説明しましょう。

a.社会保障協定

外国の企業から日本へ派遣されてきた場合は、日本の社会保障制度に加入する必要があるため、自国の社会保障制度の保険料と二重に負担しなければならない問題が生じています。

また、それぞれの国で年金を受給するには、一定の期間その国の年金制度に加入する必要があるため、一時的な派遣などでは保険料の掛け捨てになってしまう問題も生じています。これらの問題を防止することを目的に諸外国との間で社会保障協定が締結されています。

【協定締結国】

2014年1月現在、社会保障協定の発効状況は以下のとおりです。日本は17カ国と協定を署名済みで、うち15カ国分(注)は発効しています。「保険料の二重負担防止」「年金加入期間の通算」は、日本とこれらの国の間のみで有効であることにご注意ください。

(注)イギリス、韓国およびイタリアについては、「保険料の二重負担防止」のみです。

協定が発効済みの国ドイツ イギリス 韓国 アメリカ ベルギー フランス カナダ オーストラリア
オランダ チェコ スペイン アイルランド ブラジル スイス ハンガリー
署名済み未発効の国イタリア インド

この協定締結国から、日本において雇用される場合、原則として5年以内と見込まれる一時的な派遣であれば日本の年金制度への加入を免除し、自国の年金制度に継続して加入することが認められるのです。

ただし、5年を超えると見込まれる長期派遣の場合には、日本の社会保険の適用を受けることになります。なお、この社会保障協定の内容が協定の相手国によって異なっているため、制度の内容や手続きの詳細については、日本年金機構または協定相手国の関係機関などにお問い合わせください。

日本年金機構Webサイト - 社会保障協定

b.脱退一時金

日本で就労する外国人が日本との社会保障協定締結国以外から来ている場合や、社会保障協定締結国から来ている場合でも5年を超える長期派遣などの場合は、厚生年金保険に加入することになります。この場合に、6カ月以上厚生年金保険に加入している者については「脱退一時金」を請求することができます。

【請求手続き】

脱退一時金は、厚生年金保険の被保険者資格を喪失し、日本に住所を有していない外国人が、日本を出国して2年以内に請求した場合に支給されます。請求は、日本を出国後に、「日本年金機構本部」宛てに請求書を郵送します。なお、請求書は、出国前に日本年金機構のWebサイトなどから入手しておくとよいでしょう。各国の言語による請求書がダウンロードできるようになっています。

日本年金機構Webサイト - 短期在留外国人の脱退一時金

c.外国人雇用状況届出

外国人の雇い入れおよび離職の際には、事業所の所在地を管轄するハローワークへ「外国人雇用状況届出書」の提出が義務づけられています。

【届出方法】

雇用保険の被保険者である者については、雇用保険被保険者資格届または雇用保険被保険者資格喪失届の備考欄に記載して届け出ることになっています。
雇用保険の被保険者でない者については、「外国人雇用状況届出」を、雇い入れ時においては、「雇い入れ日の属する月の翌月末日まで」に、離職時においては、「離職日の属する月の翌月末日まで」に届け出なければなりません。

なお、記載する内容は、外国人労働者の氏名、在留資格、在留期限等となっており、その内容は、「外国人登録証明書」(平成24年7月以降順次在留カードに変更)または「旅券(パスポート)」により確認します。

【外国人雇用状況届出書】

外国人雇用状況届出書は「厚生労働省のWebサイト」よりダウンロードできます。

厚生労働省Webサイト

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その他の留意点

在留資格があることが保険加入の前提条件

外国人を日本で採用する場合は、原則として、日本人と同様に社会保険および労働保険諸法令が適用されるため、それぞれの制度の被保険者としての加入手続きが必要となります。しかし、その前提として日本での就労が認められている者でなければなりません。日本に在留する外国人は、入国の際に与えられた在留資格の範囲内でのみ就労が認められているのです。

従って、外国人を採用する場合、就労させようとする仕事の内容が在留資格の範囲内であるか、在留期間が過ぎていないかを確認する必要があります。

なお、在留資格で就労が認められていない(不法就労)者を就労させた事業主は、「不法就労助長罪」として、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金の処罰を受けますが、不法就労と知らずに就労させた場合は、処罰されることはありません。

以下のWebサイトに就労可能な在留資格の一覧表が掲載されています。
東京外国人雇用サービスセンターWebサイト

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