2015年10月 1日公開

【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

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「労働時間の管理」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

毎年11月は「過労死等防止啓発月間」。この時期は労働基準監督署が労働時間に関する法令違反を重点的に指導するようです。平成27年8月20日に公表された平成26年の定期監督等の実施結果からも、労働時間に関する指導が2066件あり、内容別順位で一位となっていたことが分かります。そこで今回は「労働時間の管理」についての基本知識を解説します。

参照:厚生労働省 東京労働局Webサイト「東京労働局における平成26年定期監督等概要」

「労働時間の管理」の巻

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労働時間の管理の基本

法定労働時間とは

労働基準法(以下、労基法)には、労働時間についての規定が設けられています。その中で、使用者は、「1週間について40時間」「1日について8時間」を超えて労働させてはならないと定められています(労基法第32条)。
この時間を「法定労働時間」と言い、使用者は法定労働時間を超える所定労働時間(注)を定めることはできません。

(注)就業規則や雇用契約書で定められた労働者の労働時間

労働時間の管理責任は使用者に

使用者には「労働時間を正確に把握するなど、労働時間を適切に管理する義務」があると労基法では定めています。具体的には、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。そのために労基法では使用者に次の原則を求めています。

  1. 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること
  2. タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること

つまり、「会社は労働者の長時間労働を知らなかった」「会社は長時間労働を命じておらず、労働者が勝手にやっている」などという言い逃れはできないのです。

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法定労働時間を超える労働が許される場合

原則として、法定労働時間を超える労働は、労基法第32条違反であり、許されません。しかしながら、所定の手続きを経ることによってそれが可能となるのです。

残業を可能にする「36協定」

法定労働時間を超えて労働させるには、「36(サブロク)協定」の締結が必要となります。

「36協定」とは、労働者の過半数で組織する労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者との協定において、時間外・休日労働について定め、所轄の労働基準監督署(以下、労基署)に届け出た場合には、その範囲において法定の労働時間を超える時間外労働、法定の休日における休日労働が認められます。

この時間外労働についての協定は、労基法第36条の規定に基づく協定なので「36協定」と呼ばれています。労働時間の延長にはもちろん限度があります。

<36協定に定める延長時間の限度>

期間時間外労働時間
1週間15時間
2週間27時間
4週間43時間
1カ月45時間
2カ月81時間
3カ月120時間
1年360時間

時間外協定書は新たに締結したとき、または更新したときに所轄の労基署に届け出ることが義務づけられています。この届出によって、時間外労働が労基法第32条違反とはならなくなります。

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特別条項付き36協定

法定時間を超えて労働をさせる場合には「36協定」が必要で、そこでは「延長時間の限度」について定められています。しかし、「延長時間の限度」を超える労働はいっさい認められていないというわけではなく、ここにも例外があります。

「特別条項付き36協定」による延長

36協定において「延長時間の限度」以内の延長時間を定めたうえで、限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない「特別の事情」(注)が生じたときに限って、限度時間を超える時間外労働が認められています。この労働時間延長を、「特別条項付き36協定」と言います。

(注)「特別の事情」とは「臨時的なもの」に限られ、一時的または突発的に時間外労働を行わせる必要があるものであり、全体として年の半分を超えないことが見込まれるものとされています。具体的には、ボーナス商戦など通常時を大幅に超える受注による業務の繁忙、予算・決算業務、機械の故障や不具合に伴う業務の繁忙の場合がそれに該当します。ただし、単に「業務の都合上必要なとき」または「業務上やむを得ないとき」と定めるような「恒常的な長時間労働を招く恐れ」があるものについては「臨時的なもの」に該当するとは言えません。

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多様な労働時間制度

適正な労働時間管理を行うためにも、労働時間制度について知っておく必要があります。
労働時間制度には次のようなものがあります。

変形労働時間制

法定労働時間の原則は、あくまでも「1週」「1日」ごとに規定されているため、ある週の労働時間が40時間を超える、またはある日の労働時間が8時間を超えることは、たとえ他の週や日の労働時間が著しく短い場合であっても認められません。
しかし、これを可能とするのが「変形労働時間制」です。

変形労働時間制は、業務の繁閑に応じて労働時間を配分することによって、労働時間の短縮を図るための制度です。つまり繁忙期には労働時間を長めに配分し、閑散期はその分労働時間を短く配分することによって労働時間の総枠を減少させることを目的としています。

特定の日や週の所定労働時間が1日8時間、週40時間ではないものの、ある一定期間でならしてみると週40時間に収まることで許される労働時間制度です。
例えば、繁忙期は1日10時間、週50時間働かせるものの、閑散期は1日6時間労働、週30時間とすることによって、平均すると週40時間に収まるといったかたちです。

変形労働時間は対象期間が異なる三つの制度があります。

  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1カ月単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制(30人未満の小売業・旅館・飲食店のみ適用)

<変形労働時間制:変形労働時間における労働時間の総枠>

変形期間の暦日数 ÷ 7 × 40H により算出します。

変形期間の暦日数労働時間の総枠
28日160時間
30日171時間25分
31日177時間8分
92日525時間42分
181日1034時間17分
365日2085時間42分
366日2091時間24分

フレックスタイム制

「働きたい時間に出社して、帰りたい時間に帰る」というように、始業、終業の時刻を労働者の決定に委ねる制度です。
労働者は、清算期間(1カ月以内)における総労働時間の枠を自らの意志により満たしていけばよいことになっています(労基法第32条の3)。
自由に出社、退社することが可能な時間帯(フレキシブルタイム)と必ず勤務しなければならない時間帯(コアタイム)を任意に定めて管理するのが一般的です。

<フレックスタイム制>

フレックスタイム制の解説図

時差出勤制

所定労働時間は変えずに、始業の時刻を繰り上げたり、繰り下げたりする制度のことで、始業時刻のみを労働者に選択させます。最近、大手企業で導入されている「朝型勤務」へのシフトも時差出勤制の一部と言えます。

<時差出勤制>

時差出勤制の解説図

時差出勤制は労基法に定められている制度ではありませんが、就業規則で一般的な「業務の都合により始業、終業の時刻を変更することがある」という定めを労働時間制度として取り入れるものです。

例えば、就業規則に次のように定めます。

始業9:00、終業18:00(休憩正午より1時間)とする。ただし、業務の状況等を勘案して、事前に所属長の許可を得たうえで1日の所定労働時間を変えることなく、始業時刻を8:00から10:00までの間に繰り上げまたは繰り下げることができる。

時差出勤制は、フレックスタイム制を導入する前の移行段階で、労働者に労働時間についての裁量意識を持たせるのに適した制度と言えます。

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労働時間のカウント

労働時間とは

労働時間のカウントは、ストップウオッチで計っていると考えます。つまり、仕事を始めましたでストップウオッチをスタートさせて、休憩時間に入るところで一度止め、休憩から再び仕事についたところでストップウオッチを動かし、最後に仕事が終了したところでストップウオッチを止めます。このときに表示されている時間をもって労働時間となるわけです。

労働時間の算定が難しい事業場外労働の場合は

「ストップウオッチの原則」の例外もまた労基法によって定められています。外回りの営業職や内勤職でも出張したときなどのように、使用者の具体的な指示が及ばず労働時間の算定が難しい事業場外での労働の場合は、実際に働いた時間をカウントするのではなく、「うちの会社の外回りはだいたい○時間くらい必要だから、1日○時間働いたとみなすことにしましょう」などのように「特定の時間」(みなし労働時間)を労働したとみなすことのできる制度です。

この「みなし労働時間」は、実際に働いた時間をカウントするのではなく、次の三つの方法のいずれかで算定するよう定められています。対象となる労働時間が所定労働時間以内か、所定労働時間を超えるときとで、みなし労働時間は異なります。

【対象となる労働時間が所定労働時間以内のとき】

→ (1) 所定労働時間

【対象となる労働時間が所定労働時間を超えるとき】

→ (2) 事業場外での業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間(注)

→ (3) 事業場外の業務の遂行に通常必要とする時間が労使協定により定められている場合は労使協定で定められた時間

(注)「通常必要とされる時間」とは、通常の状態でその業務を遂行するために 客観的に必要とされる時間です。 この時間は、突発的に生じるものは別として、事業場外労働が常態として行われ、労働時間の算定が困難な場合には、出来る限り労使協定により定めておくことが望ましいとされています。

ただし、みなし労働時間の算定の対象となる時間は、「事業場外労働」の部分だけであり、事業場内での労働時間については別途「把握」する必要があります。

また、労働時間の全部が労働時間の算定が困難な事業場外労働である場合と、一部だけの場合とで算定方法は異なります。

【労働時間の全部が労働時間の算定が困難な事業場外労働である場合の一日の労働時間】

所定労働時間 ≧ 事業場外の労働時間

→ (1) 所定労働時間

所定労働時間 < 事業場外の労働時間

→ (2) 通常必要とされる時間、または (3) 労使協定に定めた時間

【労働時間の一部が労働時間の算定が困難な事業場外労働である場合の一日の労働時間】

所定労働時間 ≧ 事業場外の労働時間+事業場内の労働時間

→ (1) 所定労働時間

所定労働時間 < 事業場外の労働時間+事業場内の労働時間

→ (2) 通常必要とされる時間、または (3) 労使協定に定めた時間+事業場内の労働時間

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労働基準監督署による臨検

「臨検」とは、労働基準監督官による事業所への立ち入り検査のことです。前もってFAX等により日時の連絡がある場合もあれば、全く通告なしに抜き打ち検査が行われる場合もあります。

臨検の実態(1) 違反事項の多くは労働時間関連

東京労働局管内の労基署においては、臨検は毎年9,000件前後行われています。単純計算すると、平均40件弱の臨検が毎日行われていることになるのです。
この臨検の結果、何らかの労働基準関係法令の違反が指摘された企業は、率にすると70%前後となっています。そして、違反事項の多くが労働時間に関する違反となっています。

<定期監督等における労働基準法に関する主要な法違反(東京労働局)>

 15条
労働条件
明示
24条
賃金
不払
32条
労働
時間
35条
休日
37条
割増
賃金
89条
就業
規則
108条
賃金
台帳
24年1,2245202,3371491,7491,303837
25年1,4734752,6231462,0471,291975
26年1,1244552,0661311,681900849

出所:厚生労働省 東京労働局Webサイト「東京労働局における平成26年定期監督等概要」及び「平成25年の定期監督等の実施結果」

臨検の実態(2) 毎年11月は「過労死等防止啓発月間」に

例年、厚生労働省は「過重労働等の対策」として11月に重点的に臨検を実施してきました。さらに2014年、「過労死等防止対策推進法」が施行され、毎年11月を「過労死等防止啓発月間」にすると定められたことから、今後もこの時期により一層の指導が行われることが予想されます。実際、2014年11月には、「過重労働解消キャンペーン月間」として、著しい過重労働や悪質な賃金不払残業などの撲滅に向けた監督指導が重点的に行われました。
こうした臨検があるからということではなく、普段から適切な労働時間の管理に努めることが大切です。

参照: 2014年10月「今年も労働基準監督署が動き出す!」の巻

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適正な労働時間管理とは

効率よく働いて、効率よく休む

今や、適正な労働時間管理とは、労働者の出退勤を把握して正しく賃金を支払うことだけにとどまりません。無駄な時間外労働を削減しめりはりのある働き方を実現し、企業の生産性を高めることを目的とするべきです。効率よく働いて、効率よく休む。それこそが、労働者の活力につながるのです。

長時間労働の解消は、労使が協力して、取り組まなければ達成できません。もちろん、トップのメッセージとして掲げることは大事なことですが、まずは長時間労働が「問題行為」であるという認識を会社全体で共有していくことが重要です。そのうえで、慢性的な長時間労働を「企業はさせないように、労働者もしないように」お互いに意識できる環境をつくっていくことが大切だと言えるでしょう。

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