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働き方改革の要(かなめ)は「長時間労働の解消」
「長時間労働の解消」のために
我が国の総人口は、既に減少過程に入っています。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」 によると、2060年には8674万人になると推計されています。2010年の国勢調査では総人口1億2,806万人でしたから、それからの半世紀で人口のおよそ1/3を失うことになるのです。
当然ながら労働人口も減少していくため人手不足が起こります。最近では労働者を確保できずに、新規事業や出店を断念せざるを得ない例も増えています。人手不足を解消するには、子育てや介護など働きづらい事情を抱えた人も含めて、さまざまな人が働き手になれるようにすることが必要です。そのためにも「長時間労働の解消」は必須事項なのです。
労働時間の適正な把握が長時間労働解消の第一歩
働き方改革で焦点となるのは、いかに長時間労働を抑制するか、です。それには企業が労働時間をしっかり把握することが出発点となります。そこで政府は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を2017年1月に策定しました。
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「労働時間」について
まずは労働時間に関連する基本的な用語と法令について紹介しておきましょう。さらに労働時間管理にかかわる新たなルールや注意点についても「時間外労働の上限規制」「テレワークの労働時間管理」の項で続けて説明します。
「労働時間」とは
ガイドラインによると「労働時間」の定義は、「使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」とされています。単に仕事のために「働いている」時間だけでなく、例えば――
- 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為や、業務終了後の業務に関連した後始末を事業場内において行った時間
- お客様を待っている等、待機している中で使用者からの指示があった場合は即時に業務に従事することが求められている状態等のいわゆる「手待ち時間」
- 業務上参加が義務づけられている研修・教育訓練などの時間や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行った時間
などが労働時間とされます。
なお、労働基準法(32条)では労働時間について使用者が守るべき原則を次のように定めています。
- 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならない。
- 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならない。
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労働時間の適正な把握のために
そもそも労働時間を適正に把握し適切に管理するのは使用者(会社)の義務なのですが、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、労働時間を把握するために会社が講ずべき措置を具体的に示しています。
会社が講ずべき措置 その1「始業・終業時刻の確認と記録」
労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録しなければなりません。その方法は以下のように具体的に定められています。
1. 原則的な方法
- 使用者が、自ら現認することにより確認すること
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間等、客観的な記録を基礎として 確認し、適正に記録すること
2. やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合
- 自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等、ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと
- 自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離(かいり)がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
- 使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないか確認すること
【ポイント】
残業時間を労働者からの申請に基づいて管理している企業も、ここで言う「自己申告制」に該当します。
会社が講ずべき措置 その2「賃金台帳の適正な調製」
賃金台帳には、賃金額だけ記載すればよいというわけではありません。使用者は、労働者ごとに、次の事項を賃金台帳に適正に記入しなければなりません。
- 労働日数
- 労働時間数
- 休日労働時間数
- 時間外労働時間数
- 深夜労働時間数
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時間外労働の上限規制
時間外労働の規制について、これまで36協定(注)で締結できる時間外労働の限度(表)は「月45時間以内、かつ年360時間以内」と定められていました。ただし、その規定に罰則はなく、強制力はありませんでした。
さらに、労使合意をすれば、臨時的に限度時間を超える時間外労働が必要となる「特別の事情」が予想される場合には無制限で時間外労働を行わせることが可能となっています。
(注)労働基準法36条に基づく労使協定のことで、「さぶろくきょうてい」と呼ばれます。会社が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた時間外労働を命じる場合、労働組合などと書面による協定を結び、労働基準監督署に届け出なければなりません。
<36協定に定める時間外労働時間の限度時間>
期間 | 時間外労働時間の限度時間 |
---|
1週間 | 15時間 |
2週間 | 27時間 |
4週間 | 43時間 |
1カ月 | 45時間 |
2カ月 | 81時間 |
3カ月 | 120時間 |
1年 | 360時間 |
しかし、従来の規制では長時間労働の抑制が難しいということで、政府の改革案では、36協定による労使の合意があった場合でも、上回ることのできない上限を法律上設定し、さらに罰則を設けることによってより強制力を持たせる内容となっています。
なお、臨時的な特別の事情がある場合として労使の合意を得た場合でも、上回ることができない時間外労働時間を年720時間(=月平均60時間)とし、かつ、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合についても「最低限上回ることのできない上限」を設けることを検討しています。
この上限について、以下のように定められています。
a. 2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、6カ月の平均で
いずれにおいても、休日労働を含んで、80時間以内を満たさなければならない
b. 単月で
休日労働を含んで、100時間未満を満たさなければならない
c. 上記に加えて
時間外労働の限度の原則は、月45時間、かつ、年360時間を上回る特例の適用は、年半分を上回らないよう、年6回を上限とする
新たな残業規制のイメージ
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テレワークの労働時間管理
前回、「働き方改革」として注目されている働き方の一つである「テレワーク」についてご紹介しました。昨今、テレワーク=労働時間短縮といった議論が見受けられますが、必ずしもそうとは言えません。以下、テレワークにおける労働時間管理について説明します。
まず大前提として、テレワーク対象者にも当然ながら労働基準法等の労働関係法令が適用されます。従って、企業はテレワーク対象者の「始業、終業の時刻、休憩時間」を就業規則等に定めなければなりません。
と言っても、「時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができる」というテレワークの良さを失わせる規則になっては本末転倒です。テレワーク導入のメリットが生かせる労働時間管理の仕組みにはどういうものがあるのでしょうか。以下、四つの制度について説明します。
(1) 中抜け時間(業務の一時中断)
労働者の都合に応じて所定労働時間を変更することが可能な制度です。育児や介護などと仕事の両立が容易となります。
中抜け時間(業務の一時中断)
(2) テレワークと事業場外みなし労働時間制
テレワークでは、会社以外の場所(事業場外)で働くことから、「事業場外みなし労働時間」(労働基準法38条の2)の適用を検討する企業もあることでしょう。これについては、厚生労働省のガイドライン(注)が参考になります。
注:「情報通信機器を活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(2008年7月28日 基発第0728001号)
【「事業場外みなし労働時間」の対象となる場合】
ガイドラインでは、以下のいずれの要件も満たす「在宅勤務」(労働者が自宅で情報通信機器を用いて行う勤務形態)については、「事業場外みなし労働時間」の対象となるとしています。
- 当該業務が起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
- 当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
- 当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
ただし、労働したものとみなされる時間が、深夜もしくは休日の労働となった場合には法定の割増賃金を支払わなければならないことや健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があるとされています。
【「事業場外みなし労働時間」の対象外となる場合】
ガイドラインによると、労働者が働く「場所」を自宅以外の場所であるサテライトオフィスを選択する場合には、「事業場外みなし労働時間制」は適用できないことになります。とすれば当然、使用者は適正に「労働時間」を把握する必要があります。
(3) テレワークと時差勤務制度
時差勤務制度とは1日の所定労働時間を変えることなく、始業時刻を繰り上げまたは繰り下げする制度のことです。日ごとに所定労働時間の勤務をすることが求められますが、自分の都合により始業時刻を変更することができれば、効率的に1日の時間を利用できます。
例えば早起きをすることで始業時間を早めることができ、早く就業した時間分、終業時間も早めることができるのです。この場合、「中抜け時間」を利用することでさらに柔軟な制度となります。
時差出勤制の活用
(4) テレワークとフレックスタイム制
フレックスタイム制は、労働者の好きな時間に出社して、好きな時間に退社することができる制度です。労働者は「働く時間」と「働く空間」を自由に選択できるという点で、テレワークに適した労働時間制度と言えます。そのメリットや問題点を分かったうえで導入を検討するとよいでしょう。
【フレックスタイム制のメリット】
フレックスタイム制では、1日の所定労働時間にこだわることなく、1カ月の総労働時間の範囲内で、働く時間を自由に設定できます。コアタイム(必ず出勤していないといけない時間帯)の設定によっては、「中抜け時間」も労働者の自由に設定できるので、育児や介護を担う労働者にとって使いやすい制度と言えるでしょう。
【フレックスタイム制の注意点】
「働く時間」を自由に設定できる半面、業務が深夜にわたる恐れがあります。健康管理の観点からも配慮しなければならない問題です。深夜にメールを確認することも「労働時間」となりますので注意が必要です。この場合、フレキシブルタイム(労働者自身が選択できる労働時間帯)を設定することで、労働できる時間帯が深夜とならないようにすることが可能です。
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