2020年 5月19日公開

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「賃貸借契約と改正民法」についての巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

2020年4月1日から改正民法が施行されました。これまでトラブルも多かった賃貸借契約は、どのように改められたのでしょうか。今回は賃貸借契約に関係する改正ポイントを解説していきます。

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賃貸借契約についての新たなルール

賃貸借契約とは

契約当事者の一方が物を使用することやそれにより収益を得ることを認め、相手方当事者がそれらの対価として賃料を支払うこと、および契約終了時にその物を返還することについて合意する契約をいいます(改正民法601条)。
今回の民法改正では、不動産の賃貸借契約への対応が重要となるので、ここでは主に不動産賃貸借契約に関するポイントについて紹介します。

賃貸借契約の期間の上限が20年から50年に

今回の改正では、民法が適用される賃貸借契約の期間の上限が、従来の20年から50年に延長されました(改正民法第604条)。長期にわたって利用する事業用地などの場合、賃貸借期間を50年とする賃貸借契約を結ぶことができるようになりました。
ただし、建物賃貸借契約や、建物所有目的の土地賃貸借契約については、借地借家法が適用されるので、改正の影響はありません。

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賃貸借継続中の新たなルール

賃貸借が継続中のルールは以下のように改められました。

(1)賃貸人の修繕義務

賃貸人(貸主)の修繕義務については次の2点がポイントです(改正民法第606条、第607条の2)。ここには賃借人(借主)の修繕行為も関係してきます。

場合によって貸主が修繕義務を負わない旨を明文化

賃貸借契約では、貸主は建物など目的物の修繕義務を負います。しかし改正民法では、修繕が必要となった理由について借主の側に責任がある場合、貸主は修繕義務を負わないことが明文化されました(改正民法第606条第1項ただし書)。例えば、借主が故意に建物の窓ガラスを割った場合などには、貸主は修繕義務を負わないということです。

場合によって借主が自ら修繕することが可能に

次の場合、借主が貸主の許可なく目的物を修繕したとしても、貸主から無断修繕をした責任を追及されることはなく、むしろその修繕費用を貸主に請求できることが明確になりました(改正民法第607条の2)。

  • 借主から貸主に対して通知しても貸主が修繕をしない場合
  • 急迫の事情がある場合

例えば賃貸マンションのエアコンや給湯器が故障した場合などは少しでも早く修理してもらいたいもの。オーナーに言ってもなかなか直してくれないときは借主が自分で修理を依頼し、修理できるということです。従来は借主が勝手に修理してしまうと、それを理由に貸主から契約違反を問われ、契約解除・損害賠償請求されるリスクがありました。改正により、こうした場合でも貸主から責任を追及されることはないということが明確になりました。

ただし、改正法には、本当にその修繕の必要性があるかないかについて、誰がどのような基準で判断をするかといった具体的な定めはありません。実際に借主側で修繕した場合、修繕の必要性や範囲、急迫性の有無、費用負担などで争いが生じることが予想されます。あらかじめ賃貸借契約書で、どのような場合に賃借人が修繕し、その代金を賃貸人に請求できるか、詳しく定めておくことも考えられます。

(2)賃貸不動産が譲渡された場合のルール

建物の賃貸借契約が続いている間に建物の所有者が代わった場合、その後は誰が賃貸人になるのか、新しい所有者は賃借人に賃料を請求できるのか、従来は規定がありませんでした。改正民法では、こうした場合、賃貸人としての地位は、原則として不動産の新たな所有者(譲受人)に移転するという規定が設けられました。また、不動産の新たな所有者が、賃借人に対して賃料を請求するためには、貸借物である不動産の所有権移転登記が必要である旨の規定も設けられています。

(3)賃貸物の滅失と使用収益不能

一部使用収益不能の場合にも賃料を減額

改正民法では、賃貸物件などの目的物が一部使用不能になった場合の賃料減額が定められました。例えば水害などによる浸水で賃貸スペースの一部が使えなくなるというケースは、「目的物の一部滅失」により「目的物の使用・収益が一部不能になった場合」に当たります。この場合、滅失した面積割合に応じて賃料が減額される旨が新たに条文化されました(改正民法第611条、第616条の2)。また、水道やガスが出なくなったという場合には、「目的物の一部滅失」ではありませんが、「目的物の使用・収益が一部不能になった場合」に当たり、その「不能」の程度に応じて賃料が減額されることになります。
従来は、一部滅失の場合のみ賃料の減額を請求できるものとされていましたが、改正民法では、一部滅失に限らず一部使用収益不能の場合にも、賃料が減額されることとなった点がポイントです。

なお、一部滅失または一部使用収益不能により、残りの部分では賃貸借契約を締結した目的が果たせない場合には、賃借人は、賃貸借契約の解除ができます(改正民法第611条第2項)。

全部滅失または使用不能の場合

目的物の全部が滅失または使用収益不能となった場合、賃貸借契約は当然に終了することが明文化されました(改正民法第616条の2)。

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賃貸借終了時の新たなルール

敷金の返還などトラブルの多かった賃貸借終了時のルールにも改正がありました。

(1)敷金に関するルール

従来は、敷金について、その定義や敷金返還請求権の発生時期などの規定はありませんでした。改正後は以下のように定められました。

敷金の定義

賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭

そのうえで、

  • 賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点で敷金返還債務が生じること
  • その額は受領した敷金の額からそれまでに生じた金銭債務の額を控除した残額であること

などのルールが明確化されました。

(2)原状回復

改正民法では、借主が通常損耗(普通に使ってできた損耗)や経年変化による劣化については原状回復義務を負わないことが明文化されました(改正民法621条)。

原状回復義務の対象外となる例(通常損耗や経年変化)

  • 家具の設置による床やカーペットのへこみ(設置跡)
  • テレビや冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ(電気ヤケ)
  • 地震で破損したガラス
  • 鍵の取り換え(借主による破損や鍵紛失のない場合)

原状回復義務の対象となる例(通常損耗や経年変化に当たらない)

  • 引っ越し作業で生じたひっかきキズ
  • 日常の不適切な手入れもしくは用途違反による設備などの毀損(きそん)
  • タバコのヤニや臭い
  • 借主が飼育するペットが付けた柱などのキズや臭い

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債務の保証に関する新たなルール

民法改正による「保証」についてのルール変更により、賃貸借契約から生ずる債務の保証に関しても次のように改められました。
*「保証」については過去記事(「民法改正で保証契約が変わる!」の巻)をご覧ください。

「民法改正で保証契約が変わる!」の巻

(1)極度額の定めのない個人の根保証契約は無効に

賃貸人が、賃貸借契約に当たり、個人の連帯保証人に、賃借人の一切の債務を連帯保証するよう求める契約(個人根保証契約)を結ばせる場合について、改正民法では、極度額(保証人が負担する上限額)を書面で定める必要がある、とされました(改正民法第465条の2第2項、第3項)。
従って賃貸借契約書には、この極度額を明記する、例えば「賃料○カ月分」などと記載する必要があります。

(2)賃借人・連帯保証人の死亡時点で債務確定

賃借人が死亡した場合

賃借人が死亡した場合でも賃貸借契約はそのまま継続しますが、連帯保証契約の元本がその時点で確定します(改正民法第465条の4第1項第3号)。従って連帯保証人は賃借人死亡時点の債務(賃料債務など)のみを保証し、それ以降に賃貸借契約から発生する債務は保証の範囲外となります。

連帯保証人が死亡した場合

連帯保証人が死亡した場合も同様に賃貸借契約はそのまま継続しますが、連帯保証契約の元本がその時点で確定します(改正民法第465条の4第1項第3号)。従って、連帯保証人の相続人は、保証人死亡時点の債務(賃料債務など)のみを保証し、それ以降に賃貸借契約から発生する債務は保証の範囲外となります。

(3)賃貸人の情報提供義務

賃貸人が保証人から賃借人の賃料滞納状況等について問い合わせを受けた場合の情報提供義務(改正民法第458条の2)、事業のための賃料債務を個人が連帯保証する場合の意思確認(改正民法第465条の6)などについても改正民法の新しいルールが適用されます。

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新旧民法の適用ルール

改正民法の施行日(2020年4月1日)より前に締結された賃貸借契約については改正前の民法が適用され、施行日後に締結された契約については改正民法が適用されるのが原則です。
しかし、改正民法の施行日よりも前に締結され、改正民法施行日後に合意更新(自動更新を含む)された賃貸借契約については、当事者は改正民法が適用されることを予測しているであろうということで改正民法が適用されます。ただし、改正民法の施行日前に締結された保証契約については、施行日後に賃貸借契約の合意更新がなされても影響を受けず、引き続き改正前民法が適用されます。賃貸借契約には改正民法が、保証契約には改正前民法が適用されるという複雑な関係になるので注意が必要です。

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まとめ

賃貸借契約については、これまで法律でルールが明確化されていない部分が多く、裁判例や国交省のガイドラインなどによって対処する形でした。今回の民法改正では、これまでの最高裁判例や実務の運用を明文化した新しい規定が設けられました。改正後の条文には依然としてあいまいな部分は残るものの、明文化されたこと自体は大きな前進といえるでしょう。

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ライター紹介

梅原光彦

ライター歴30年超。新聞、雑誌、書籍、Web等、媒体を問わず多様なジャンルで書き続ける。その一つが米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に取り上げられたことが勲章。京都在住。

監修/堤世浩

プロフィール

東京弁護士会所属。1979年生まれ。堤半蔵門法律事務所代表。企業・個人にまつわる民事・商事案件、倒産・M&A案件、相続案件などを取り扱う。

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