2020年 8月

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「財産開示制度の改正」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

令和2年4月1日に改正民事執行法が施行され、「財産開示制度」が拡充された結果、債務者資産の調査が容易になりました。これまでは強制執行(差し押さえ)をする際は債権者側が債務者の資産調査をしなければならず、その調査が実は大変だったのです。今回の改正で、手続きはどのように変わったのか、要点を解説します。

改正前の問題点

財産開示手続

お金を貸したけれど返してもらえない、約束していた養育費がもらえない……。当事者で話し合いをしても解決できない場合、争いは裁判に持ち込まれます。その結果、債権者と債務者の間で和解が成立したり、債権者が勝訴を得たりしたとしても、債務者が約束や命令通りにすんなり支払ってくれるとは限りません。
こうした場合、次のステップで「強制執行」の手続きをとることになりますが、債務者がどこにどれだけ資産を持っているか分からず回収できないケースが往々にしてあります。
そこで2003年に民事執行法が改正され、「財産開示手続」という制度が設けられました。財産開示手続が利用できるのは相手にどのような財産があるのか全く分からない場合や、分かっていたとしても、その財産に対して強制執行を実施しても全額支払ってもらうことができないような場合です。

改正の背景

財産開示制度では、債務者を裁判所に呼び出して、「あなたが勤務している会社は?」「あなたはどの銀行の何支店に口座を持っていますか?」「株式や不動産はありますか?」などの質問ができます。ただし裁判所から呼び出しがあった期日に出頭しない債務者も多く、実効性が問題視されていました。せっかく勝訴判決をもらっても絵に描いた餅になるケースが後を絶たなかったのです。

強制執行とは

お金を貸した相手が返してくれないなど、債務者(借主)が債務の履行をしない場合に、国が強制的に債務の履行をさせる制度のことをいいます。強力な制度なので、強制執行が認められるためには、確定判決、和解調書、調停調書、強制執行認諾文言付き公正証書などの文書(これら公的機関が作成した文書のことを「債務名義」といいます)が必要となります。

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改正のポイント(1)「財産開示制度の拡充」

今回の改正で、財産開示制度の強化・拡充が行われました(改正民事執行法といいます)。具体的には次のとおりです。

申立権者の範囲の拡大

これまで財産開示制度を利用できる債権者には制限がありました。しかし、改正民事執行法では、確定判決や公正証書など「債務名義」を有する債権者は全て財産開示制度を利用できるようになりました。これにより、公正証書で養育費を定めている場合などでも財産開示手続の申し立てができるようになりました。ただし、信用状態を調査するための利用は改正前と同様、改正後も許されていません。

罰則の強化(刑事罰の導入)

次のようなケースでは、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰則が科せられるようになりました。

  • 開示義務者が、正当な理由なく、執行裁判所の呼び出しを受けた財産開示期日に出頭せず、
    または当該財産開示期日において宣誓を拒んだとき
  • 財産開示期日において宣誓した開示義務者が、陳述すべき事項について陳述をせず、
    または虚偽の陳述をしたとき

従来は「30万円以下の過料」という軽い「行政罰」でしたが、罰金額の上限が上がっただけでなく、場合によっては刑事罰(懲役刑)まで科せられ、厳罰化されました。

注意すべきポイント

財産開示手続の申し立ては、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に行うことになっています。ただ、財産開示手続では「公示送達の手続」(注1)を利用することができないので、相手方(債務者)が住民票上の住所地に居住していないなど住所不明の場合には、この手続きを利用することができません。

  • (注1)相手方を知ることができない場合や、相手方の住所・居所が分からないとき、相手方が海外に住んでいてその文書の交付の証明が取れないときなどに、法的に送達したものとみなす手続きのこと。

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改正のポイント(2)「情報取得手続」の創設

第三者からの情報取得手続

今回の改正で、「第三者からの情報取得手続」という制度が新設されました。確定判決や公正証書など「債務名義」を有する債権者等が裁判所に申し立てることによって、裁判所が関係機関に必要な情報を照会します。債務者名義の資産が明らかになることで、差し押さえなどの強制執行が可能になります。

情報取得手続は次の三つの対象ごとに行います。

不動産

裁判所が登記所に対して、債務者が登記名義人となっている不動産を網羅した形で情報の提供を命じる手続きです。施行時期は未定(2021年5月16日までに開始予定)です。

給与債権

裁判所が、市町村、日本年金機構、厚生年金の実施機関に対して、債務者の給与債権の情報(勤務先の情報等)の提供を命じる手続きです。ただし、給与債権の情報取得については、「養育費など」「人の生命または身体の侵害による損害賠償」の請求権を有する申立債権者のみに限定されます。

預貯金債権等

裁判所が銀行等の金融機関に対して、債務者名義の預貯金について口座番号、金額、口座のある支店名などの情報の提供を命じる手続きです。また株式や投資信託についても、債務者が利用している証券会社が不明な場合は、証券保管振替機構に照会をすることで、債務者がどの証券会社で株式を保有しているかという情報が分かります。この手続きについては財産開示手続を経る必要はありません。

なお、生命保険の解約返戻金は、今回の改正では第三者からの情報取得手続の対象外となっています。

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まとめ(財産調査の流れ)

取引先に不払い等があった場合など、裁判に訴えて勝訴しても相手の資産の所在が分からず強制執行できないとなれば、裁判をした意味がありません。今回の財産開示制度の改正で資産調査がしやすくなったことにより、「裁判⇒強制執行」という手段を選択しやすくなりました。債権者が泣き寝入りをしなくてはならないケースは大幅に減るものと考えられます。

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ライター紹介

梅原光彦

ライター歴30年超。新聞、雑誌、書籍、Web等、媒体を問わず多様なジャンルで書き続ける。その一つが米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に取り上げられたことが勲章。京都在住。

監修/堤世浩

プロフィール

東京弁護士会所属。1979年生まれ。堤半蔵門法律事務所代表。企業・個人にまつわる民事・商事案件、倒産・M&A案件、相続案件などを取り扱う。

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