2023年 8月 1日公開

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「課税? 非課税? 税額は? 気になる印紙税の基本ルール」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

契約書を作成したけれど、さて印紙は貼るべきなのか? 貼るとしていくらの印紙を貼るべきか? と悩んだ経験のある人は多いはず。今回は課税・非課税に関する疑問も含めて印紙税にまつわる基礎知識を紹介します。

1. 印紙税制度の概要

印紙税とは

印紙税とは、契約書、領収書、手形、証書など、特定の文書に対して課される税金のことです。具体的には、印紙税額一覧表(注1)に掲げられている第1号文書から第20号文書までの文書が課税対象と定められています。なお、現行の税法では電子媒体による契約等はそもそも想定されていないため、電子契約の場合に印紙税が課税されることはありません。

  • (注1)以下国税庁Webサイトを参照ください。

国税庁「印紙税額一覧表」

納税方法

税相当額の収入印紙を課税文書に貼付し、消印(割り印)することによって納付します。その文書が課税文書に該当するか否かは作成者自らが判定しなければなりません。

注意!
課税文書に適切な印紙が貼られていないことが税務調査などで指摘されると、ペナルティーとして本来貼るべき印紙の3倍の額の印紙税が課されることになります。

課税対象と課税対象外の区別


印紙税は、上記のように「印紙税法別表第1の課税物件表」に掲げる20種類の文書に課税されることとされています。これが「課税文書」(印紙を貼るべき文書)です。
一方、課税対象外として二つの文書があります。まず課税物件表に該当しない文書が「不課税文書」、そして課税物件表に該当しても印紙税が課税されない「非課税文書」です。

  1. 課税文書→印紙を貼らなければいけない文書
  2. 不課税文書→印紙を貼らなくてよい文書(a.c.以外の文書)
  3. 非課税文書→本来は課税文書だが、限定列挙された非課税の要件を満たした文書

それぞれの代表的な例は次の通りです。

課税文書の例

「課税物件表」に掲げられる20種類の文書のなかで、実務上重要性が高い文書は次の通りです。

  1. 不動産売買契約書、土地賃貸借契約書(注2)、金銭消費貸借契約書など→第1号文書
  2. 請負契約書(工事請負契約書、業務委託契約書、広告契約書など)→第2号文書
  3. 継続的取引の基本となる契約書→第7号文書
  4. 売上代金に係る金銭又は有価証券の受取書(領収書など)→第17号文書
  • (注2)土地賃貸借は課税対象ですが、建物賃貸借については非課税です。一般には建物賃貸借についての契約が多いので、土地賃貸借と混同しないよう注意が必要です。

非課税文書の例

  • 印紙税額一覧表の非課税物件の欄に掲げられた文書

(受取金額が5万円未満の領収書、弁護士などが作成する領収書)

  • 外国大使館等の作成した文書
  • 国や地方公共団体などが作成した文書

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2. 判定にあたって/課税事項に注意

課税 or 非課税? 判定までの流れ

前述の3文書は次のチャートに沿って判定していきます。

課税事項が重複する場合

上のチャートでは「課税事項」を証する文書であるかどうかがポイントとなっています。しかし、一つの文書に二つ以上の課税事項が記載されている場合もあります。このように課税事項が重複した場合の所属の決定の仕方を、印紙税法では明示しています。

例)
第1号または第2号文書と第3号から第17号までの文書とに該当する文書の場合は、原則として1号文書または2号文書となります。

ただし、1号または2号文書と17号の1に該当する場合は、金額によって17号の1に該当する場合があります。

よくある事例

実務上、よく出てくるのが2号文書と7号文書に該当する場合です。第2号文書(請負契約書・契約金額記載あり)と第7号(継続的な取引契約書)に該当する場合は2号文書となります。

ただし、2号文書で「契約金額の記載がないもの」と7号文書に該当する場合は7号文書になります。

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3. 判定にあたって/契約金額に注意

契約金額の記載

契約金額の記載の有無によっても税額が変わります。従って契約書の作成時には契約金額の記載方法によってどのように判定されるかを知っておく必要があります。

記載金額の特例

1号文書または2号文書でその文書に具体的な契約金額の記載がないものであっても、その文書に契約金額または単価、数量、記号その他の記載のある見積書、注文書その他これらに類する文書等があり、当事者間において契約金額を明らかにすることができる時は、その金額がその文書の記載金額になります。

例)
請負契約書に「月額50万円 契約期間1年間」と記載されている場合
→記載金額600万円の第2号文書 印紙は5,000円となります。

上記の例で契約期間の記載がない場合は、「契約金額の記載なし」と判定され、印紙は200円となります。

記載金額と消費税

1号文書、2号文書、17号文書については、契約金額に消費税額が区分して記載されている場合は、記載金額に消費税を含めないこととされています。消費税額を明記するかどうかで印紙税額が異なるので注意が必要です。

例1)
「請負金額 1億1,000万円 税抜金額1億円 消費税額等1,000万円」と記載されたもの
→記載金額1億円の2号文書 印紙は6万円となります。

例2)
「請負金額 1億1,000万円(税込)」と記載された場合
→記載金額1億1,000万円 印紙10万円となります。

例3)
「領収金額 55,000円(うち消費税等5,000円)と記載した場合
→非課税となります。

例4)
「領収金額 55,000円(税込)と記載した場合
→印紙200円となります。

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4. Q&A事例集

Q. 印紙税を貼らなくてよい文書の具体例を教えてください。

A. よくある文書は次の通りです。

  • 5万円未満の領収書
  • クレジットカードで払ったことを明記した領収書
  • PDFやファクスで発行した領収書
  • 請求書、注文書、注文請け書(注3)
  • 電子契約書
  • 建物賃貸借契約書

なお、書類のタイトルに関係なく、内容が契約書や領収書である場合は課税文書とみなされるケースがあります。

  • (注3)双方で押印するなどして、契約が成立する書面の場合はそのタイトルにかかわらず契約書(課税文書)とみなされる場合があります。

Q. 契約書の記載金額を増減させた場合の印紙代は?

当社は当初1,000万円の請負契約書を作成していましたが、この度契約金額を500万円増やすことになり、変更契約書を作成することになりました。その場合、いくらの印紙を貼付すればよいでしょうか? また、1,000万円から900万円へ減額変更した場合はどうなるでしょうか?

A. 変更後の記載金額で判定します

変更契約書に変更金額(500万円)が記載されている場合は、増加金額である500万円が記載金額となります。従って記載金額500万円の2号文書となり、印紙は2,000円です。
一方、減額する場合、記載金額はないものとなります。従って、2号文書で記載金額なしとなり、印紙は200円となります。

ちなみに、変更契約書に変更後の契約金額1,500万円のみ記載され、変更金額が明らかでない場合は、変更後の契約金額が記載金額となります。従って、2号文書で契約金額1,500万円となり、印紙は2万円となります。

Q. 印紙代を負担するのはどちら?

契約当事者である甲と乙が署名押印する方式の請負契約書を作成しました。記載金額は1億円なので、印紙は6万円を貼付する予定です。この印紙代は甲乙どちらが負担するのでしょうか。また1通作成した場合と、2通作成した場合でどうなるか教えてください。

A. どちらが負担すべきかについて定めはありません

印紙税法では、「一の課税文書を二以上の者が共同作成した場合には、当該二以上の者はその作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。」と規定しています。つまり、甲乙それぞれに全額の印紙税納付義務を負わせ、一方の者がこれを履行した時に、他の者の負う義務も含めて消滅するという連帯納税義務を負わせているのです。

従って、印紙代の納税義務は甲乙それぞれにあります。国としては、契約書に6万円の印紙が貼付されてさえいれば、6万円をどちらが負担してもよいし、あるいは折半してもよいし、そこまでは関知しないということです。

1通作成した場合は、6万円の印紙を貼付しますが、2通作成した場合は、さらに6万円の印紙を貼付する必要があります。甲が正本を保管し、乙が写しを保管するというように定めた場合は、印紙は6万円で済むことになります。

Q. 自治体が作成する契約書は非課税?

当社は地方自治体と請負契約書(契約金額:5億円)を作成する予定です。国等が作成する文書は非課税文書であると思いますが、この場合、印紙はどうすればよいでしょうか。

A. 企業が作成した契約書は課税文書に

共同作成した文書は作成者全員の連帯納税義務となるのですが、その共同作成者の1人に課税されないものがいる場合の取り扱いについて印紙税法では以下のように定めています。

共同作成される文書はおおむね当事者が1通ずつ所持するという実態をとらえて、国等が所持する文書は他の者が作成して国等に交付したもの、他の者が所持する文書は国等が作成し他の者に交付したものと仮定して、国等が所持するものについてだけ課税することとする。

従って、企業が保管する請負契約書は国等が作成したものとされ、非課税文書となります。また、地方自治体が所持する請負契約書は企業が作成したものとされるので課税文書となり、10万円の印紙を貼付する必要があります。

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5. まとめ

印紙税についてはまずその文書が課税文書なのか、非課税文書なのかを判定し、次に記載金額がいくらになるのかを判断しなければなりません。一つの契約書で複数の号の課税文書が記載されている場合も少なくなく、記載金額も書き方によって印紙の額が変わってくるので、文書の注意深い見極めが必要といえるでしょう。
なお、誤った額の印紙を貼った場合は税務署で還付してもらったり、未使用の印紙を無関係の文書に貼ったりした場合などは郵便局で交換してもらうことが可能です。
印紙税は身近に目にするもの、その詳細は意外に知られていません。迷った時は最寄りの税務署、税理士などに相談するとよいでしょう。

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