2023年 9月12日公開

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「所有者不明土地に関するルールが大きく変わった!」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

所有者不明の土地が近年、社会問題化しています。そのため所有者不明土地の扱いに関する民事基本法制が令和3年に改正され、令和5年4月から段階的に施行されています。改正によって基本的なルールはどう変わったのでしょう。今回は改正の概要とルール変更の主なポイントについて解説します。

1. 改正の背景

令和3年4月21日、「民法等の一部を改正する法律」と「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立しました。これら二つの法律では、所有者不明土地の「発生の予防」と「利用の円滑化」の観点から総合的な見直しが行われました。

所有者不明土地とは

相続登記がされないこと等により、以下のいずれかの状態となっている土地を「所有者不明土地」といいます。

  • 不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地
  • 所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地

改正の背景

所有者が不明で、管理されずに放置された土地は、周辺の環境や治安の悪化を招いたり、防災対策や開発などの妨げになったりします。今後、高齢化のさらなる進展による死亡者数の増加等で、所有者不明土地はまだまだ増えていく見通しです。このまま所有者不明土地を放置すれば、各地で社会問題が広がり、ますます深刻化する恐れがあることから今回の法改正に至りました。

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2. 改正の概要

改正の概要は「発生の予防」と「利用の円滑化」の観点から、次の三つのポイントに整理できます。

発生予防の観点から

Point-1

【登記がされるようにするための不動産登記制度の見直し】

  • 相続登記・住所等の変更登記の申請義務化
  • 相続登記・住所等の変更登記の手続きの簡素化・合理化

Point-2

【土地を手放すための制度(相続土地国庫帰属制度)の創設】

相続等によって土地の所有権を取得した者が、法務大臣の承認を受けて、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度が創設されました。

土地利用の円滑化の観点から

Point-3

【土地利用に関連する民法のルールの見直し】

  • 土地・建物に特化した財産管理制度の創設
  • 共有地の利用の円滑化などの共有制度の見直し
  • 遺産分割に関する新たなルールの導入
  • 相隣関係の見直し

以上、三つのポイントを個別に紹介していきます。

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3. 不動産登記制度の見直し

相続登記の申請の義務化(令和6年4月1日施行)

相続による土地や建物の所有権の移転の登記はこれまで任意でした。しかし、今回の改正により、相続登記の申請が義務化されることになりました。

注意!

施行日(令和6年4月1日)前に相続の開始があった場合についても相続登記の義務化は適用されるので対応しなければなりません。

「相続人申告登記」制度の創設(令和6年4月1日施行)

不動産の遺産分割がまとまらず、相続登記を申請できない場合は、自分が相続人であることを法務局の登記官に申し出ることで相続登記の申請義務を果たすことができる「相続人申告登記」の制度が創設されました。この制度を利用すれば、自分が相続人であることが分かる戸籍謄本等を提出するだけで相続登記を申請できるようになります。

住所等の変更登記の申請の義務化(令和8年4月までに施行)

登記簿上の不動産の所有者は、所有者の氏名や住所を変更した日から2年以内に住所等の変更登記の申請を行う義務があります。

その他の新たな制度

以上のほか、不動産登記に関連して次の制度が新たに設けられています。

  1. 親の不動産がどこにあるか調べられる「所有不動産記録証明制度」(令和8年4月までに施行)
  2. 他の公的機関との情報連携により所有権の登記名義人の住所等が変わったら不動産登記にも反映されるようになる仕組み(令和8年4月までに施行)
  3. DV被害者等を保護するため登記事項証明書等に現住所に代わる事項を記載する特例(令和6年4月1日施行)

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4. 相続土地国庫帰属制度の創設

相続土地国庫帰属制度とは

土地を相続した人が、一定の要件(注1)を満たす場合には、不要な土地を手放して国に引き渡すことができる制度です(令和5年4月27日施行)。

  • (注1)a. 対象は相続で取得した土地のみ、b. 共有している場合、全員の合意が必要、c. 抵当権等の設定や争いがなく建物もない更地であること……という要件があるほかに負担金も生じるので、国に引き取ってもらうハードルはそれなりに高いといえます。

申請者について

基本的には、相続や遺贈によって土地の所有権を取得した相続人。土地が共有地の場合は、共有者全員で申請する必要があります。

費用について

1筆(注2)の土地当たり1万4000円の審査手数料を納付。法務局による審査を経て承認されると、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額の負担金を納付することになります(下表を参照)。

  • (注2)登記上の土地の個数を表す単位
宅地
面積にかかわらず、20万円
* 一部の市街地の宅地については、面積に応じ算定
田、畑
面積にかかわらず、20万円
* 一部の市街地、農用地区域の田、畑については、面積に応じて算定
森林
面積に応じ算定
その他
雑種地、原野等
面積にかかわらず、20万円

法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」

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5. 民法のルールの見直し

既に発生している所有者不明土地を円滑に利用するために、次のようなルールの見直しが行われました。

土地・建物に特化した財産管理制度の創設(令和5年4月1日施行)

調査を尽くしても所有者やその所在を知ることができない場合、所有者による管理がされないことによって他人の権利・利益が侵害される場合には、利害関係人が地方裁判所に申し立てることで、その土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらえるようになりました。

共有制度の見直し(令和5年4月1日施行)

共有状態にある不動産については、共有物の利用や共有関係の解消をしやすくできるように共有制度全般で必要な要件が緩和され、次のような見直しがされました。

軽微な変更をしやすく

共有物に軽微な変更を加えるために全員の同意は不要となり、持ち分の過半数で決定することが可能となりました。

共有者の管理をしやすく

所在等が不明な共有者がいるときは、他の共有者が地方裁判所に申し立て、その決定を得て、残りの共有者による管理行為や変更行為が可能となりました。

共有関係の解消をしやすく

所在等が不明な共有者がいる場合は、他の共有者は地方裁判所に申し立て、その決定を得て、所在等が不明な共有者の持ち分を取得したり、その持ち分を含めて不動産全体を第三者に譲渡したりすることが可能となりました。

遺産分割に関する新たなルール(令和5年4月1日施行)

遺産分割がされずに長期間放置されるケースの解消を促進するための新たなルールです。被相続人の死亡から10年を経過した後の遺産分割は、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分(または指定相続分)によって画一的に行うこととされました。つまり、遺産分割の際、「兄は生前贈与を受けているから兄の相続分は減らすべきだ」などと争われることがよくありますが(こうした生前贈与等を考慮した相続分を具体的相続分といいます)、もしこのような主張をしたいのであれば被相続人の死亡から10年以内に遺産分割をしなさいということです。

相隣関係の見直し(令和5年4月1日施行)

隣地の所有者やその所在が分からない場合も、隣地を円滑・適正に使用できるように次のようなルールの見直しがされました。

ライフラインの設備の設置・使用権のルールの整備

ライフラインを自己の土地に引き込むための設備を隣地に設置する権利が明確化されました。

越境した竹木の枝の切り取りのルールの見直し

(隣地が所有者不明土地の場合)越境した枝の切除を自らできる権利が創設されました。

注意!

以上、土地利用に関する民法の規律の見直し(財産管理制度、共有制度、相隣関係等)については相続登記の義務化より1年早い、令和5年4月1日から施行されています。

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6. まとめ

全国にある所有者不明土地の面積を合計すると九州本島の広さを超えて、国土の約22%(平成29年度国土交通省調べ)にもおよぶといわれます。こうした所有者不明土地が、不動産取引や不動産管理を行う際に問題となる事例が年々増えてきています。所有者不明土地の中には長期にわたり放置されているものも多く、相続の際、予期しない問題に直面する可能性も高いといえます。今回の改正を機に、身近な不動産について、共有制度、財産管理制度、相続制度や相隣関係がどう変わったか……などなど再確認してみることをお勧めします。

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