2023年10月 3日公開

【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

「中小企業のための“リスキリング事始め”」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

リスキリングという言葉を最近よく耳にします。ただ、実際に取り組みを始めている中小企業はまだまだ少数派といえそうです。今回は中小企業がリスキリングに取り組むに当たって、知っておきたいポイントを解説します。

1. 中小企業とリスキリング

リスキリングは労使が協働で

新しいビジネスに対応していくために不可欠な知識や技術を獲得すること、それが「リスキリング」です。企業・労働者を取り巻く環境があわただしく変化し、労働者の職業人生は長期化しています。こんな変化の時代、労働者のリスキリングが重要になってきます。リスキリングの基本は労働者の「自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直し」にあるのですが、これを後押しし、支えるのが企業の役割です。すなわちリスキリングには「労使の協働」が欠かせないのです。

こうした考えに立って、厚生労働省は「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を策定しています。そこには労働者と企業が取り組むべき13の項目が掲げられています。

労使が取り組むべき事項

  1. 経営者による経営戦略・ビジョンと人材開発の方向性の提示、共有
  2. 役割の明確化と合わせ、職務に必要な能力・スキル等の明確化
  3. 学ぶ意欲の向上に向けた節目ごとのキャリアの棚卸し
  4. 学び・学び直しの方向性・目標の擦り合わせ、共有
  5. 学び・学び直しの教育訓練プログラムや教育訓練機会の確保
  6. 労働者が相互に学び合う環境の整備
  7. 学び・学び直しのための時間の確保
  8. 学び・学び直しのための費用の支援
  9. 学びが継続できるような伴走支援
  10. 身に付けた能力・スキルを発揮することができる実践の場の提供
  11. 身に付けた能力・スキルについての適切な評価
  12. 学び・学び直しの場面における、現場のリーダーの役割と取組
  13. 現場のリーダーのマネジメント能力の向上・企業による支援

参照:厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」

13項目もあって大変と感じる人は多いかもしれません。特に中小企業の場合、人手や時間、資金面の制約があって、そこに割けるリソースもノウハウもないというのが現実です。では、中小企業は具体的にどんなことから取り組んでいけばよいのでしょうか。次からは、社内でできること、外部の支援制度を活用すること、という二つのアプローチでリスキリングのポイントを紹介していきます。

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2. 社内でできる取り組み例

リスキリングといっても、何から始めてよいのか分からない、といった経営者も多いのではないでしょうか。まずは比較的簡単に、社内でできることをご紹介しましょう。例えば、次のような取り組みが挙げられます。

勉強会を開催

(1)社内の先輩(熟練者・経験者)を講師として招き、自主的な勉強会を開催する

(2)労働者が有識者を招いて自主的に開く勉強会に対し、
場所の提供や費用の助成などの便宜を図る

(3)労働者が集う自主的な勉強会の開催に当たり、企業も社内への周知に協力し、
開催案内について社内の掲示板へ掲載することを可能とする

(4)自主的な勉強会をオンラインで実況中継する

勉強会にプラスα

(5)勉強会の概要を作成し、後日共有する

(6)勉強会で読んだ本の内容、ポイントを企業内の掲示板に掲載する

(7)社外から専門家を招いた勉強会の様子を動画撮影し、
後日社内のイントラネットで共有する

社員の学習意欲を後押し

(8)労働者が、自己啓発として民間教育訓練機関等の仕事や業務に資する講座を受講する場合には、その受講費用を補助する

(9)労働者が、自己啓発として仕事や業務に資する大学等の講座を受講するために休暇を取得する場合には、有給の教育訓練休暇とする

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3. 公的支援制度をフルに活用

中小企業のリスキリングを支援するため、国は「生産性向上支援訓練」を設けています。生産性向上に関わる職業訓練で、近年はデジタル技術活用に関わるコースも大幅に拡充しています。こうした公的な仕組みを活用するのも有効です。

先に紹介した「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」にも掲載されていますが、リスキリングも含めて、人材育成を支援するための総合窓口や制度には次のようなものがあります。

生産性向上人材育成支援センター

企業の人材育成に関する相談支援から、課題に合わせた人材育成プランの提案、職業訓練の実施まで、企業の人材育成に必要な支援を一貫して行っています。生産性向上に必要な知識、技能、技術を習得できる在職者向けの訓練など、さまざまな支援策を提供しています。

支援の流れ(「生産性向上人材育成支援センター」より)

中小企業等DX人材育成支援コーナー

中小企業のDX人材育成を推進するために設置されています。生産性向上人材育成支援センターが提供する訓練等を継続的に受講することで、DX人材育成に関する課題解決に結び付けられるよう、計画的な支援を行っています。

教育訓練給付

労働者が主体的に職業能力開発に取り組むことを支援し、雇用の安定等を図るための雇用保険給付制度です。労働者が自ら費用を負担して一定の教育訓練を受けた場合に、その教育訓練に要した費用の一部に相当する額が支給されます。以下の4種類があります。

  1. 一般教育訓練給付金
  2. 専門実践教育訓練給付金
  3. 特定一般教育訓練給付金
  4. 教育訓練支援給付金(令和7年3月31日までの時限措置)
    ※支給手続きは、原則本人が本人の住所を管轄するハローワークで行います。

参照:厚生労働省「教育訓練給付制度」

人材開発支援助成金

企業が、労働者の専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合などに、その訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成するものです。

参照:厚生労働省「人材開発支援助成金」

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4. まとめ

大企業がやるのは分かるけれど、「ウチにはリスキリングはまだ早い、必要ない」と考えている中小企業の経営者も多いかもしれません。しかし、今後、労働者不足はますます深刻化していきます。中途採用するにしても優秀な人材、特にデジタル人材を中小企業が採用するのは難しいといえます。それならば現在いる従業員に教育機会を提供することで、新たな能力を身につけてもらってはどうでしょうか。生産性アップはもちろん、優秀な人材の定着率が上がり、会社としての成長につながることが期待できます。

「リスキリングで転職を」といった切り口で語られることの多いリスキリングですが、経営者が考えるべきは、リスキリングをいかに「社内のやる気につなげるか」です。従業員一人ひとりに、まずは「時代の変化に応じて自分たちも変化しなければならない」という危機感を持ってもらうと同時に、会社がリスキリングを全力でバックアップしていくという姿勢を示すことが大切といえるでしょう。

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ライター紹介

梅原光彦

ライター歴30年超。新聞、雑誌、書籍、Web等、媒体を問わず多様なジャンルで書き続ける。その一つが米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に取り上げられたことが勲章。京都在住。

監修/飯野正明(いいの・まさあき)

プロフィール

東京都社会保険労務士会中央支部所属。1969年生まれ。社労士業務歴32年目の経験と知識を活用して、労務問題における「相談者の用心棒」として活動中。

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