2023年 1月31日公開

特集・企画

まっさらから理解するメタバース 3 Web3超基礎篇

メタバースについてさらに一歩踏み込んだ理解をするには、セットで語られることの多い「Web3(ウェブスリー)」を知ることが近道です。

「Web3」の到来

昨今、先進ICT技術のトレンドワードに必ず上がる「ブロックチェーン」「NFT(非代替性トークン)」「DeFi(分散型金融)」「DAO(分散型自律組織)」といった先進技術を包括する概念として、一般の新聞報道でもWeb3という用語を見かける機会が増えました。しかしこれらの用語はバラバラのバズワードではありません。根幹では、ある「現代的な価値観」を共有しているのです。

インターネットの普及と同時に始まった、企業・組織のWebサイト(静的コンテンツによるホームページ)開設の動きは、情報の発信者と受信者(閲覧者・消費者)という一方通行の関係性を持っていました。この構造に革命が起こったのは2000年代半ば。「Web2.0」と総称される、ユーザー同士の双方向性コミュニケーションを特徴とするサービス群がこの時期に相次いで登場しました。

Web2.0の象徴といえば、写真や動画といったリッチなコンテンツを扱えるSNSの爆発的拡大、ユーザーデータの取得と活用によるマーケティングの変革、そしてITインフラのクラウド化でしょう。

一方でWeb2.0の持つもう一つの側面は、プラットフォーマー企業が圧倒的な影響力と支配力を持って君臨する、中央集権化した時代であるという点です。GAFAMと称される、世界に冠たる五大テック企業の動きが世界経済に影響を与えない日はありません。Google(現Alphabet)、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple、Microsoftの頭文字を並べたGAFAMの製品・サービスを使わずに、今日の企業経営や業務を成り立たせることはできないという点は読者の皆さんにも実感があるはずです。

このWeb2.0の揺り戻しとして、中央集権的な仕組みを確立した企業・プラットフォームから脱却できないかという試み(非中央集権化=分散化)こそがWeb3につながる第一のテーマだといえます。

Web2.0の課題の解決へ

2017年、世界的な経済誌『The Economist』は、今日において最も重要な資産は石油ではなくデータであると指摘し、ビジネス界に衝撃を与えました。(*1)

そして2021年、アメリカ議会の下院は、大きなデータ資産を持つ大企業がその優越的地位を利用して、自社に有利な価格設定や取引ルールを決めていると、独占禁止法(反トラスト法)に基づく批判を行いました。(*2)

事実としてビッグ・テック企業は顧客や消費者のデータを活用するビジネスモデルを確立しています。私たちユーザーは自分たちの属性情報や行動データを提供する見返りに、利便性の高いさまざまなサービスを(おおむね)無料で利用しているわけです。しかしこの状態が続くことは自然なことでしょうか。何か、問題点はないのでしょうか。

ここには、先述した分散化とともにWeb3の登場に関わる二つの大きな疑念があります。第一が「不透明性」、第二が「所有権」です。

透明性とは主に、収集したデータをどのように利用しているのか、その説明責任の所在やプライバシー保護に関する問題です。所有権とは、ユーザーの生み出したコンテンツやクリエイティブ、あるいはデータの所有権がテック企業側の占有物となっている現実を指します。ユーザーは投稿したコンテンツだけでなく、そのSNSで築いたネットワーク(フォロー/フォロワー関係など)の所有権さえありません。また、運営企業の判断一つでアカウントの削除や利用停止に見舞われることもあります。

非中央集権モデルは「個」の時代の象徴

Web2.0時代に確立されたビジネスモデルの完成度と市場評価の高さは、GAFAMの時価総額を見れば明らかです。しかし上述の通り、現代社会ではプラットフォーマーからの脱却が模索されています。ここでのポイントは「個人」です。日本でも、デジタル庁の研究会ではWeb3をWeb2.0へのアンチテーゼとして位置付け、「中央集権的ではなく、個と個をつなぐものが純粋な理想」として議論しています(令和4(2022)年「Web3.0研究会(第1回)」)。

このようにWeb3は、Web2.0のサービスとは価値観からして異なっています。一方で、Web3の時代であるからといってWeb2.0のサービスが突然終焉することはなく、両者の併存する時代が当面は続くでしょう。Web3の概念や思想的背景を踏まえることが、各トレンド技術を把握するうえで不可欠です。

なお、Web3と「Web3.0」は同一の概念であると多くの報道では扱われていますが、「Web3 Foundation」創設者であり、イーサリアム(ブロックチェーンによるネットワークやプラットフォームの総称)の生みの親の一人でもあるギャビン・ウッドによると「Web3は、ブロックチェーンに基づく分散型オンラインエコシステム」を示す言葉であると具体的に示されています。よって本連載でもWeb3と表記をしています。

Web3の代表的なテクノロジー

ここまでは総論としてWeb3を概観してきました。しかしビジネスで実際にWeb3の導入を検討する際は、誰かが統合してくれたわけではない個々の技術やサービスを選択し利用することになります。代表的なWeb3の技術をユースケースとともに見ていきましょう。

ブロックチェーン

機密情報は一般的に厳重に秘匿されることでセキュリティを担保しますが、ブロックチェーンはそうしたアプローチとは異なります。暗号化した取引データを時系列で連鎖させた状態で記録し、ユーザーが共有することで追跡や確認を可能にします。これは記録の改ざん・不正コピーを防ぐアプローチとして、広く認められるものになりました。

プラットフォーム企業による一元的管理ではなく、ネットワーク内のコンピューターそれぞれがノード(結節点)となって暗号化データを分散して共有・管理することから、ブロックチェーンは「分散型台帳(ディストリビューテッド・レッジャー)」とも呼ばれます。各ノードは取引データを記録するだけでなく、処理が正しく実行されているかの検証も担い、ブロックチェーン全体の信頼性を担保します。

ブロックチェーンは、Web2.0時代の課題であった不透明性を「分散・共有・追跡可能性・検証可能性」によって解決するとともに、プラットフォームに吸収されていたデータ所有権をユーザー自身が獲得できる仕組みの提供に貢献します。

例えばブロックチェーンによって、SDGsの取り組みにも影響するトレーサビリティ(履歴情報の追跡)の高度化、社会保障などに利用できる認証技術への応用、決済や契約の自動化(スマートコントラクト)といったことが可能となります。

NFT(非代替性トークン)

物理的なモノと違い、デジタルデータには複製にかかるコストがゼロに近いという特性があります。そのため、データ化された創作物の価値のあり方は長らく議論の的となってきました。しかしブロックチェーン技術を利用すれば、その創作物(アート作品やキャラクターといった知的財産)の権利(所有権等)を証明できます。デジタルアートであってもコピーかどうかを判定でき、オリジナル作品に係る権利の譲渡や付与、売買を確実に行えるようになるのです。

NFTによってバーチャル空間の資産に固有性を担保したり、クリエーター自身が作品の資産価値を適正に扱ったりできることで、前回の記事で紹介したVR空間でのコンテンツ販売や投資といった経済性の創出につながっています。

例えば、あるアパレル企業ではメタバース内で利用できるファッションアイテムやアート作品をNFTで販売して億単位の売り上げを実現したり、ブランド戦略強化のためのマーケティング活動に利用したりといった取り組みを推進しています。日本の中小企業においても、NFTで自社の新たな価値づくりを目指すことは時流に合っているといえるでしょう。

DeFi(分散型金融)

金融業務は金融機関が一手に引き受けて行うものという考え方がこれまでの社会の常識でした。しかしこれもブロックチェーンを利用することで、既存の金融機関の仲介・管理を必要としない、新しい金融エコシステムが実現します。

特にスマートコントラクト(各種の取り引き自動化技術)は、ユーザー同士の直接取引を可能にします。これは結果として、手数料コストなどを抑制します。また、金融機関の中間コストが省かれることで運用の利回りを高められるといった特徴を持っています。ここにも個と個をつなぐWeb3の特性がよく現れているといえるでしょう。

DeFiは具体的なサービスが急増している分野です。暗号資産の取引をDeFiで具体化した「DEX(分散型取引所サービスの総称)」や「レンディング(保有する暗号資産を担保として別の暗号資産を借り入れるサービスの総称)」などが登場しており、成長や変化の特に著しい領域となっています。

DAO(分散型自律組織)

DAOは文字通り、トップに君臨する管理者や中央機関が存在せず、その組織の参加者同士の連携によって意思決定される組織を指します。いわゆるトップダウン型組織とはまったく異なる民主主義的な意思決定モデルです。前回紹介したディセントラランドは、このDAOによって運営されているサービスです。

では具体的にはどのようにして参加者同士の意思決定を全体へと反映するのでしょうか。使われるのは、ブロックチェーン技術を用いて意思決定時の投票権を実現した「ガバナンストークン」です。NFTでもあるガバナンストークンを使い、なりすましや不正を排除しながら分散・自律的な意思決定を行い、サービス運用を実現します。

Web3が切り開くメタバースと社会の未来

最後に、Web3とメタバースとの関わり方を見てみましょう。

Web3とメタバースが融合していく過程では、経済活動を可能にする「価値交換の仕組み」が不可欠です。そのため、メタバース内での価値経済の明確化と、それを運用する新しい金融サービスが急速に接近していくと見られます。暗号資産やNFTによって、独占的かつ中央集権的なプラットフォーマーの介入できない価値交換の仕組みが確立されつつあるのはその証拠です。とっぴな想像かもしれませんが、それはある種で現実世界での「現金」に近いといえそうです。メタバース内で経済活動を始めた各自の間だけで完結し、安心して、匿名で、その場でやりとりできる価値交換の仕組みが実現するとすれば、それはある意味で「新・現金」の誕生なのかもしれません。

分散化に象徴されるWeb3の仕組みは、今後さまざまな商品・サービスの企画開発、アイデア出しの出発点になると予想されます。まずはデジタルマーケティング領域での活用などは容易に想像できる分野です。もはやWeb3を知らずしてインターネット関連ビジネスの未来は語れないのです。

新しいビジネスモデルの具現化へ向けて、自社ならばWeb3とメタバースをどのように活用できるかを考え、ごくごく小さくてもまず一歩を踏み出してみることが大切だといえるでしょう。

  • *1

https://www.economist.com/leaders/2017/05/06/the-worlds-most-valuable-resource-is-no-longer-oil-but-data(英語記事)

  • *2

https://japan.zdnet.com/article/35172283/

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