EVと連携してエネルギーを融通し合える
2015年創業のARTHが開発した「WEAZER」は、オフグリッド型居住モジュールだ。オフグリッドとは、もともとは送電網(グリッド)につながっていない(オフ)状態を指す言葉だが、電力に限らず既存のインフラから独立して資源を自給するという意味でも使われる。WEAZERは後者に該当する。
オフグリッド型居住モジュール「WEAZER」のコンセプト写真
(出所:ARTH)
「電力やガス、上下水道といった公共インフラから完全に独立して居住空間を提供します。インフラが整備されていないへき地や無人島、山あいの湖畔などでも、そこに置くだけで環境に負荷をかけることなく快適に過ごせるようになります」と、同社代表取締役社長の高野由之氏は説明する。
ARTH代表取締役社長の高野由之氏。戦略系コンサルティングファーム、内閣府の地方創生ファンド(REVIC)を経て、2015年にARTHを創業。専門はホテル・旅館の再生および運営、古民家再生、歴史的建築物の利活用、地域活性化事業。
(出所:ARTH)
WEAZERの外観は極めてシンプルな直方体。20フィートコンテナ(高さと奥行きが約2.5メートル、横幅が約6メートル)ほどの大きさのユニット6台で構成されている。鉄骨造の躯体上部に太陽光発電パネルを備え、内部は大きく「居住」「発電・蓄電」「浄水・貯水」のスペースで仕切られている。
WEAZERは、「発電・蓄熱」「浄水・貯水」「居住」の3つのスペースで構成される。
居住スペースは60~70平米(ベースモデル)とコンパクトだが、壁の一面に強化ガラスがはめ込まれており開放感は抜群だ。照明、空調、調理設備など一通りの家電も揃っていて、その電力は100%太陽光のみでまかなう。当然ながらCO2排出量はゼロだ。通常の太陽光パネル付き住宅の電力自給率は約3割で、7割は既存インフラに依存していることを考えると、画期的な性能といえるだろう。
飲み水やシャワーには、雨水をろ過・滅菌した水を使う。東京都の衛生基準をクリアするほどのきれいな水だ。また、トイレを含めた排水は土壌ろ過を活用した特殊な装置で浄化するので、環境に害を及ぼさない。
これら居住・発電・給排水の機能をユニット化。工場で製造したものを現地に置くだけで運用をスタートできる手軽さも特徴で、災害などで停電や断水が起きた際の緊急避難施設としての需要も見込まれる。
「CO2や汚水を排出しないだけでなく、エネルギー資源を確保するためのインフラやバリューチェーンそのものが不要になります」と高野氏。こうしたオフグリッド型居住モジュールは世界に類を見ないとのことで、普及すれば脱炭素社会の実現に寄与することは間違いない。
EV(電気自動車)との親和性が高いこともポイントだ。WEAZERで作った余剰電力をEVに供給することもできるし、EVに蓄えた電力をWEAZERに送ることも可能。モビリティと居住空間であるWEAZERが連携してシームレスにエネルギーをマネジメントし合うことで、移動も居住も合わせてカーボンゼロを実現できるという。
スペックを算出するプログラムを4年がかりで開発
WEAZER開発のきっかけは、2018年に高野氏がアフリカのウガンダを訪れたことにあるそうだ。