――ハイテク産業の成長が、これまでにも増して国際政治の影響を大きく受ける時代です。特に米国と中国の関係の行方が、企業の事業戦略を一変させ、場合によっては存亡を決める要因にもなりかねない状況です。現在の米中関係をどのようにみていますか。
恩田達紀氏(以下、恩田) 今後、世界は米中が二極化した構図へと確実に向かっていくと考えています。もはや元の友好的な状態に戻ることはありません。
この状況が決定的になったのは、2021年3月18~19日の2日間、米国アラスカ州のアンカレッジで開催された、年初に発足したばかりのバイデン政権最初の米中外交直接交渉のことでした。バイデン政権の発足当時の中国は、強硬姿勢を打ち出していたトランプ前大統領の時代に対して融和に向かうのではないかと楽観していました。しかし、この交渉において中国は、まさに面子丸つぶれの状態となりました。
そもそも交渉に先立つ3月12日に「通信・半導体関連の中国5社制裁」を米連邦通信委員会が発表。さらには、新政権発足後の交渉日程自体が日本、韓国よりも後回しとなり、しかも交渉相手となったブリンケン国務長官は日本と韓国を訪問した後に、わざわざアンカレッジまで戻って中国の外交代表を呼び出しました。そして、やってきた中国外交代表と食事も共にしないまま最初の交渉に入ったのです。
これらは中国側から見れば明らかな非礼であり、米国の強硬姿勢がさらに強化されていることを実感できるものでした。そして交渉初日、両国の間でいきなり壮絶な非難の応酬があり、これを契機に両国の関係は急速に悪化したのです。交渉は経済・外交・軍事・先端技術・安全保障・人権問題といった広範な分野に渡ったものの、相容れない主張の表明に終始し、マスメディアの面前で反論に反論を重ねるという異例の展開。歩み寄りの姿勢もなく、合意事項無しという結果に終わったわけです。
私は長年に渡って外交の様子をウォッチしてきましたが、外交の場でこれほど露骨に激しい対立が起こるのを初めて見ました。そして「米中関係は、これからさらに難しいことになるな」と直感したのです。
これは、米国の世論も同じだったと思います。このあたりから米国では、中国が打ち出している先端技術をキャッチアップする取り組み「中国製造2025」の本質とは何か、それに続く「中国標準2035」とは何か、中国からの留学生がたくさん米国に来ているその背景を見極める必要があるのではないか、といった対立国として中国を見る機運が高まっていきました。
2023年は「米中経済のデカップリング元年」
――ご自身の近著「米中冷戦がもたらす経営の新常識15選(https://www.amazon.co.jp/dp/4296202561/)」の中で、