――日本ファクトチェックセンターに参画された経緯を教えてください。
古田大輔氏(以下、古田) 2020年2月に総務省で有識者会議「総務省プラットフォームサービスに関する研究会」が開催され、ネット上の誤情報・偽情報の問題は法規制ではなく民間による取り組みの推進が必要とする報告書が発表されました。それを受け、ネット関連企業などでつくる一般社団法人セーファーインターネット協会(SIA)が「Disinformaiton対策フォーラム」を立ち上げました。そこで1年半にわたって誤情報・偽情報対策について議論され、ファクトチェック(事実の検証)をする機関が必要だという話になりました。
問題はファクトチェックを誰がするかでした。ファクトチェックの経験のある人、加えてそうした組織をつくったことがある人はほとんどいなかったんです。私は2015年に朝日新聞を退社後、オンラインメディアの「BuzzFeed Japan」創刊編集長を務めてファクトチェックを始め、その後もGoogle News Labで情報検証の技術などをジャーナリストに教えてきた経験があったため、22年10月にセーファーインターネット協会内に設立された日本ファクトチェックセンターの編集長に就任しました。
古田大輔氏 ジャーナリスト/メディアコラボ代表
1977年福岡生まれ。早稲田大政経学部卒、2002年朝日新聞入社。社会部、アジア総局、シンガポール支局長などを経て、デジタル版編集を担当。2015年10月に退社し、BuzzFeed Japan創刊編集長に就任。2019年6月に独立し、株式会社メディアコラボを設立。2020年秋にGoogle News Labティーチングフェローに就任。2022年10月に日本ファクトチェックセンター編集長
(撮影:長坂 邦宏)
生成AIの登場により、溢れかえる誤情報・偽情報
――ネット上の誤情報・偽情報のファクトチェックを行い、日本ファクトチェックセンターのサイトでその記事を公開していますが、記事化する基準は?
古田 JFCはファクトチェックを「言説に含まれる事実について、客観的な事実により検証し、正確性を評価すること」と定義しています。その上で、「透明性の確保」「政府、政党及び政治家との関係」「資金源との関係」など詳しく定めたガイドラインをサイト上に公開しています。
私自身は編集部のメンバーに「情報が持つ深さ、広さ、近さを考えよう」と常に言っています。広さは影響する範囲で、何十万人が見ているというレベルのことです。深さは、例えば人々の命に関係したり、誰かの利益に影響を及ぼしたりするといったことですね。そして近さとは、例えば英国と日本に関する話題があれば、日本の話題を優先した方がいいということ。こうした基準のもとに選んでいます。
アップする記事は現状では月に10数本です。フルタイムの編集部員は私と副編集長の2人、フレキシブルに勤務する編集者が2人います。いずれもプロのジャーナリストです。ほかに学生や若手社会人のインターンが現在8人います。読者層は配信先のプラットフォームによります。20~30代から中高年層まで幅広いです。
――ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、どんな変化が生じていますか。
古田 生成AIで文章や画像が無尽蔵につくれるようになったことです。これが非常に厄介なところです。もともと世の中に誤情報・偽情報が溢れているのに、それがさらに溢れかえってしまうのが生成AIが登場してからの問題です。
情報が最初から間違っていると判断できるものはまだいい。一番困るのは、正しい情報かどうか判断しにくいパターンです。それらは検証しなければいけません。そういった情報が簡単に無尽蔵につくれてしまうのが生成AIの怖いところです。
しかも、それを完璧に自動で検知する技術は今のところ開発されていません。
ファクトチェックの4ステップと「横読み」
――生成AIを使った偽情報について、日本の事例を紹介していただけますか。