2024年11月26日公開

社会保険労務士コラム

「社会保険の適用拡大」の現状と対応策

著者:有馬 美帆(ありま みほ)

「社会保険の適用拡大」の現状と対応策について解説します。

2024年10月から、新たに社会保険の適用拡大の対象となる企業が増大しました。今回は社会保険の加入要件などの基礎的事項や、パートタイマー・アルバイトなどの短時間労働者が社会保険に加入することになる際の注意点などについて詳細に解説します。

「社会保険」についての基礎知識

「社会保険」とは?

「社会保険」という用語は、広い意味(広義)と狭い意味(狭義)とで用いられる場合があります。広義の社会保険とは、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労働者災害補償保険(労災保険)の五つを意味します。そのうち、健康保険、厚生年金保険、介護保険を狭義の社会保険といいます。なお、残りの雇用保険、労災保険はあわせて「労働保険」といわれます。

社会保険
(広義)
健康保険(被用者保険)社会保険
(狭義)
厚生年金保険
介護保険
雇用保険労働保険
労災保険

「健康保険と国民健康保険」、「厚生年金保険と国民年金」の違い

念のため、「健康保険と国民健康保険」、「厚生年金保険と国民年金」の違いについてもご説明しておきます。健康保険と厚生年金保険は、どちらも国や地方自治体、民間企業などに雇用されている方を主に対象にした制度です(特に健康保険に関しては「被用者保険」と言われることもあります)。それに対して、国民健康保険と国民年金は、自営業やフリーランス、無職の方を対象としています。

今回のテーマである「社会保険の適用拡大」(以下主に「適用拡大」とします)とは、狭義の社会保険の適用対象者を拡大することを意味します。

「社会保険の適用拡大」とは?

適用拡大の取り組み

1980年に当時の厚生省(現在の厚生労働省)が定めた、パートタイマー・アルバイト(以下主に「短時間労働者」とします)の社会保険に関する原則的な加入基準が、2016年に厳格化されて「週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上」となりました。これを「4分の3基準」といいます。常用雇用者とは「フルタイムで働く従業員」のことを意味します。

加えて同年には、4分の3基準を満たさない短時間労働者でも、一定の要件を満たすと社会保険の加入義務を生じる法改正も行われました。以来政府は、短時間労働者に対する適用拡大の取り組みを進めてきました。