2025年 5月27日公開

社会保険労務士コラム

「高年齢者」の雇用確保と安全確保のポイント

著者:有馬 美帆(ありま みほ)

2025年(令和7年)4月1日から、高年齢者雇用安定法の経過措置終了により、希望者全員の65歳までの雇用が完全義務化されました。今回は企業が高年齢の人材を活用するために注意すべきポイントについて、雇用確保と安全確保の二つの側面から解説します。

「高齢者」と「高年齢者」

今回は「高年齢者」雇用に関する基本事項についてお伝えしますが、「高年齢者」は「高齢者」と何が違うのか疑問に思われる方もいらっしゃると思いますので、その違いからご説明します。

実はわが国には何歳から「高齢者」とするかについての一律の法的定義は存在しません。世界保健機関(WHO)が65歳以上を高齢者としていることから、一般的には65歳以上とされてはいますが、道路交通法では70歳以上が高齢者とされているなど、法的定義が各種存在します。労務管理に関連する法律としては「高齢者の医療の確保に関する法律」があります。こちらは65歳以上を高齢者とした上で、65歳から74歳までを前期高齢者、75歳以降を後期高齢者とさらに分けています。

そして、今回のテーマである「高年齢者」という用語もさまざまな定義が見られます。「高年齢者の雇用の安定の確保に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」または「高年法」)」で「高年齢者」は55歳以上とされています(高年法第2条第1項、高年法施行規則第1条)。さらに、厚生労働省の「高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル」では「50歳以上の高年齢労働者」という表記も見られます。

このように「高齢者」や「高年齢者」など高めの年齢の方々に関する用語は多数存在します。今回のコラムでは高年齢者雇用安定法にいう「高年齢者」である55歳以上の方の雇用確保と安全確保に関するポイントをご説明することとします。

「定年制」とは?

高年齢者雇用安定法の中身を理解する際に必要となる「定年制」について、先にご説明します。定年制とは、労働者が一定の年齢(定年)に達したときに労働契約を終了させる制度のことです。厳密に言えば、「定年退職制」と「定年解雇制」に分かれます。前者は定年到達で自動的にそれまでの労働契約が終了するのに対して、後者は企業側から解雇の意思表示が必要になります。どちらも有効で、企業の就業規則などの定めによることになります。

定年制は、いわゆる日本型雇用システム(終身雇用、年功序列、企業別労働組合を特徴とする雇用のあり方)がその必要性の主な根拠です。終身雇用といっても、文字通りの終身ではなく、企業内人材の新陳代謝を図る必要があり、定年という一定の年齢で雇用の終了時期を設ける長期雇用慣行が形成されてきたのです。

定年の定めを設けること自体は法的には問題ありませんが、後でご説明するように高年齢者雇用安定法で定年年齢には制限が設けられています。なお、アメリカでは雇用における年齢制限禁止法(AEDA)で定年制は原則として禁止されています。

定年制の歴史は、明治時代に一部の企業で55歳定年制が設けられたことに始まります。その後、高度経済成長期には55歳定年制が定着し、1980年代半ばまで標準であり続けましたが、平均寿命の延びなどを受けて60歳定年制へと定年延長に踏み切る企業が出始めました。高年齢者雇用安定法はその流れを反映して、1986年(昭和61年)にそれまでの「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が全面的に改正され成立したものです。