2025年 4月22日公開

社会保険労務士コラム

「賃上げ」に関する基礎知識

著者:有馬 美帆(ありま みほ)

長らく続いたデフレ経済の終焉(しゅうえん)や少子化の進行による人手不足などを受けて、各企業は「賃上げ」に向き合わなければならなくなっています。そこで今回は「ベースアップ」と「定期昇給」の違いや「最低賃金制度」など、「賃上げ」に関する基礎知識をお伝えします。

「賃上げ」に関する基礎知識

わが国は長らく続いたデフレ経済から脱却するとともに、深刻化する人手不足や円安・資源高などを背景とした物価高騰により「賃上げ」に関する関心が非常に高まっています。そこで、今回は「賃上げ」に関する基礎知識をお伝えします。

「賃上げ」に関する用語の整理

「賃上げ」とは、企業が従業員の賃金(給与)を引き上げることをいいます。賃金とは、法律的には労働の対償として事業主が労働者に支払う全てのもの(労働基準法第11条)をいいますが、賃上げというときには通常、「基本給」の引き上げを意味します。この基本給を厚生労働省は、次のとおり定義しています。

基本給毎月の賃金の中で最も根本的な部分を占め、年齢、学歴、勤続年数、経験、能力、資格、地位、職務、業績など労働者本人の属性又は労働者の従事する職務に伴う要素によって算定される賃金で、原則として同じ賃金体系が適用される労働者に全員支給されるものをいう。

かなり長い定義ですが、基本給とは毎月の賃金の中で最も根本的な部分で、手当などは含まないものということになります。この基本給の引き上げ方としては、「ベースアップ(ベア)」と「定期昇給(定昇)」の2種類があります。こちらも厚生労働省の定義は次のとおりです。

ベースアップ
(ベア)
賃金表(学歴、年齢、勤続年数、職務、職能などにより賃金がどのように定まっているかを表にしたもの)の改定により賃金水準を引き上げること。
定期昇給
(定昇)
あらかじめ労働協約、就業規則等で定められた制度に従って行われる昇給のことで、一定の時期に毎年増額すること。

ベースアップは賃金表自体を改定するため、賃上げが企業全体とひも付くことになります。一方、定期昇給は賃上げが個人とひも付いているため、人事評価の結果などによっては現状維持となる、あるいは降給する従業員が出ることもあり得ます。ただし降給の場合、多くは「賃金改定」という呼び方をされます。

2022年(令和4年)には9割超の企業が賃上げしている中で、「ベースアップを実施した」企業が約36%、「ベースアップ以外の賃上げ(定期昇給等)を実施した」企業が約57%となっています(厚生労働省「令和5年版 労働経済の分析」)。賃上げは避けられないものの、定期昇給を行い、ベースアップには及び腰という姿勢が統計からは見て取れます。

ベースアップと定期昇給に関する企業の姿勢について詳細に論じることはできませんが、この統計上の差についての一般的な理由とされているものを解説しておきます。ベースアップは企業の賃金水準そのものの引き上げであるため、一度引き上げると引き下げることは難しく、実施した場合の人件費アップは中長期的に大きな影響を及ぼします。それに対して、定期昇給は「定年制」と新卒一括採用との組み合わせにより、ある程度のバランスが取れる面があります。年齢などにより賃金が上昇しても定年がその限度であり、相対的に低い賃金の新入社員と入れ替わることで総人件費は変化しないかそれほど上昇しないことが想定されるからです。とはいえ、いわゆる「日本型雇用システム」(終身雇用・年功序列型賃金・企業別労働組合を特徴とする雇用のあり方)が変化しつつあることや、人手不足による初任給の大幅な引き上げなどのため、この説明がそのまま妥当しなくなっている場合が増えていることも事実です。

賃上げは通常、基本給アップを意味するとお伝えしましたが、基本給以外の賃金アップによって行われる場合もあります。特に近年の物価高対策として行われているものとして、「インフレ手当」や「インフレ一時金」があります。両者の違いは曖昧な場合もありますが、「一時金」の方がその名の通り1回限りでの支給で済ませやすい面があります。

「春闘」とは?

わが国の場合、賃上げは基本的には各企業単位で行われていますが、毎年春に産業別労働組合と企業の間で行われる「春闘」が大きな役割を果たしています。