「多様な人材」を見据えた職場の安全衛生確保
2025年7月1日から7月7日は、厚生労働省が実施する「全国安全週間」でした。98回目という歴史ある週間で、当年のスローガンは「多様な仲間と 築く安全 未来の職場」というものです。ダイバーシティ(多様性)への配慮が求められる時代というだけでなく、労働安全衛生については、特に「多様な人材」を前提にした配慮が必須であることも踏まえた、素晴らしいスローガンです。
今回は、職場の安全衛生を確保するための基礎知識について、分かりやすくお伝えしていきます。
原点としての「安全配慮義務」と「職場環境配慮義務」
企業(使用者)と従業員(労働者)は労働契約関係にあり、双方ともに権利を有し、義務を負っています。使用者は労働者に対してさまざまな配慮義務を負っていますが、職場の安全確保については「安全配慮義務」が原点となります。安全配慮義務とは、使用者が労働者の生命・身体の安全を確保するように配慮する義務のことです(労働契約法第5条)。
もともと、信義則(民法第1条第2項)を根拠に最高裁判所の判例でも認められてきた義務(陸上自衛隊八戸車両整備工場事件・最三小判昭和50・2・25)ですが、現在では労働契約法に明文で定められるに至っています。安全配慮義務は、労働者が心身の健康を害さないための義務でもありますので、より具体的に「健康配慮義務」とも呼ばれます。
職場の安全確保に関する配慮義務としては、もう一つ「職場環境配慮義務」もあります。職場環境配慮義務とは、使用者が労働者の人格が損なわれないよう働きやすい職場環境を整える義務のことです。この義務は信義則を根拠とした労働契約上の付随義務や不法行為法上の注意義務として認められています。近年は、ハラスメント事案において労働者が使用者の責任を追及する際の根拠として用いられることが多くなっています。ハラスメントは心身の健康を害することにつながることも多いため、この義務もまた、職場の安全確保にとって原点となります。
安全配慮義務 | 使用者が、労働者に対して生命、身体の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務(労働契約法第5条)。労働者の心身の健康に配慮するという観点から、健康配慮義務とも呼ばれる。 |
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職場環境配慮義務 | 使用者が、労働者の人格が損なわれないよう、働きやすい職場環境を整える配慮義務。 |
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「働き過ぎ」による健康被害の防止
使用者が安全配慮義務の観点から注意すべきことは多岐にわたりますが、中でも長時間労働による健康被害の防止は、その筆頭ともいえる事項です。労使協定(36協定)を締結すれば、時間外労働・休日労働(法定休日労働)を行わせることが可能となります(労働基準法第36条)。しかし、現在では「働き方改革」によって、法律上の絶対的な上限が設けられています。
原則的な上限(限度時間)は、月45時間以内、年360時間以内(労働基準法第36条第3項、第4項)です。さらに、特別条項付き労使協定を締結することで、(1)年間6カ月まで限度時間を超えることができ、(2)時間外労働は年間720時間以内、(3)時間外労働と休日労働の通算で1カ月100時間未満、かつ、2~6カ月の平均でいずれも月80時間以内が絶対的な上限となります(労働基準法第36条第5項、第6項)。