2025年 9月24日公開

社会保険労務士コラム

フレックスタイム制の導入と運用のポイント

著者:有馬 美帆(ありま みほ)

政府の「働き方改革」により、企業が「個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方」を提供することへの関心が高まっています。今回は、多様な働き方のうち、「フレックスタイム制」について概要を紹介した上で、導入と運用のポイントを分かりやすくご説明します。

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制とは、3カ月以内の一定期間についてあらかじめ総労働時間を定めておき、労働者がその範囲内で確実の始業および終業の時刻を自ら定めることのできる制度です(労働基準法第32条の3)。この定義に「時間」や「時刻」とあるとおり、フレックスタイム制は「労働時間」に関する制度です。

労働基準法(以下「労基法」)は「柔軟な労働時間制度」として変形労働時間制を複数用意しています。変形労働時間制とは、一定の期間内で法定労働時間の原則である週40時間、1日8時間(労基法第32条)について例外を認める制度で、1カ月単位の変形労働時間制(労基法第32の2)、フレックスタイム制、1年単位の変形労働時間制(労基法第32条の4)、1週間単位の変形労働時間制(労基法第32条の5)があります。いずれも、法定労働時間の「枠」を弾力的に変形させる制度なのですが、中でもフレックスタイム制は究極的に柔軟な変形が可能という特徴があります。

従業員(労働者)にとっては、あらかじめ決められた働く時間の総量(総労働時間)の中で、日々の出退勤時間や働く時間の長さを自由に決められることから、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)を実現しやすいという大きな利点がある制度です。しかし、厚生労働省の「令和6年就労条件総合調査」によりますと、フレックスタイム制を導入している企業の割合は7.2%にとどまっています(前年度は6.8%)。全企業の1割未満しか導入していないわけですが、企業規模別では従業員1,000人以上の企業ですと導入率が34.9%に達しています。それに対して従業員が30人から99人までの企業では導入率が4.4%にとどまっています。

フレックスタイム制の導入が進んでいない理由としては、勤怠管理の複雑さ、生産性低下、企業内コミュニケーション不足、顧客対応の難しさなどが主なものといえます。一方で人材採用においてはフレックスタイム制を導入していることが大きな訴求力となっており、ワークライフバランス達成の点などから従業員満足度の向上のメリットにも役立っています。このような点から、「導入に関心はあるけれど、自社では無理だろう」と考える企業が多いのも事実です。しかし、フレックスタイム制についての詳細を知って、制度導入に至ったという例も近時は増えています。特に、全社的に導入しなくても部門別の導入で構わないことや、勤怠管理システムの対応がかなりの段階まで進んでいることへの理解が深まった場合に、導入に結びついています。

フレックスタイム制の導入に必要な事項

フレックスタイム制の導入の基本的な流れとしては、企業と従業員代表との間でのフレックスタイム制に関する労使協定の締結および就業規則への記載が必要となります。さらに、締結した労使協定の所轄労働基準監督署長への届け出が必要となる場合があります(清算期間が1カ月を超える場合)。次の表は、フレックスタイム制導入に必要な事項を表で整理したものです。

1労使協定(注1)(1)対象となる労働者の範囲「全従業員」や特定の部署などの対象範囲
(2)清算期間労働契約上労働者が労働すべき時間を定める3カ月以内の期間
(3)清算期間の起算日どの期間が清算期間か明確にするため必要
(4)清算期間中の総労働時間清算期間中のいわゆる所定労働時間
(5)標準となる1日の労働時間年次有給休暇を取得した際の賃金計算に必要
(6)コアタイム(任意)1日のうち必ず働かなければならない時間帯を設ける場合に必要
(7)フレキシブルタイム(任意)労働者が選択により働くことができる時間帯に制限を設ける場合に必要
2就業規則(注2)始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を記載
  • (注1)清算期間が1カ月を超える場合は所轄労働基準監督署長への届け出が必要
  • (注2)就業規則に準じるものでも可

労使協定に定めるべき事項

労使協定に定めるべき事項を前掲の表に基づいて順に説明します。(1)の「対象となる労働者の範囲」は、「全従業員」としても「○○部に属する従業員」としても、さらには、「○○部に属する従業員のうち、○○業務を担当する者」という限定をしても構いません。企業の実情に応じて、労使合意ができる範囲で定めてください。