2024年 2月 6日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

生産性10倍も可能? AI活用の始め方(前編)

企画・編集:JBpress

中小企業こそ使ってほしい。企業の競争力を高めるAI活用の始め方

2022年12月にChatGPTのテスト版が登場して以降、AIが社会的に注目されている。その登場を契機に、業務やサービスにAIを活用しようという企業も増えてきた。こうした中、「導入のハードルが下がった今、中小企業こそAIを活用するチャンス」と話すのが、武蔵野大学データサイエンス学部准教授の中西崇文氏だ。AIは中小企業のビジネスにどのような形で役立つのか、自社のビジネスに取り入れるためにはどのような準備が必要なのか――。中西氏に話を聞いた。

この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。

AIを活用しているか否かで企業の生産性の差は歴然

――AIの進化に伴ってビジネス環境はどのように変化しているのでしょうか。

中西 2022年12月にテスト版が登場するやいなや、「これからの社会を大きく変えるテクノロジー」だと世界中で大きな話題となったChatGPTの例が分かりやすいと思います。

ChatGPTは生成AIの一つとして登場したサービスで、質問をすると、人と話すのと同じような自然な言葉で答えを返してくれます。ほかにも、身近なところではExcelのマクロを書いてもらうこともできますし、文書の要約、定型文の作成、データ集計、プログラミングなど、さまざまな用途に対応しています。

ときどき間違った答えを返すこともあるなど、まだ不完全なところもありますが、それを補って余りある利便性の高さから、導入する企業が急増しています。

実際に使ってみると分かると思うのですが、生産性は10倍くらい違う印象です。ChatGPTを使っている企業と使っていない企業を見比べてみても、ここ半年ほどで差が大きく開いているのを感じています。

要約や分類、分析といった作業をAIに任せることで、社員は「人ならではの創造性が必要な領域」に時間を使えるようになるので、こうした点でもAIを使わない手はないと思っています。

――セキュリティ面などのリスクはないのでしょうか。

リスクについてはしっかり認識することが重要です。例えばChatGPTは、利用者が入力した情報を、ChatGPTの開発元であるOpenAIがサービス向上のための学習データとして使う仕組みになっています。うかつに自社の機密情報を入力すると、その情報が利用者の回答として使われる可能性があるので、学習しない設定をするのは不可欠です。

――AI活用のメリットについて伺います。多くの中小企業では、人手不足や技術継承の断絶など深刻な課題を抱えています。AIはこれらの課題の解決にも貢献できるのでしょうか。

中西 2018年にコンサルティング会社のアクセンチュアが行った調査では、AIを最大限に活用した場合、2035年の日本の経済成長率は、AIの活用が進まなかった場合に比べて三倍になると予測するなど、労働人口の減少が課題となっている日本においては大きな効果があるとしています。

AIを使うことで人の生産性が大幅に向上すれば、その分、人手は少なくて済みますから、AIが人手不足の解消に貢献するのは間違いないでしょう。

技術継承については、技術の断絶が危惧される現場で、ベテランの勘や経験をAIに学習させる取り組みが既に始まっています。センサーやカメラを駆使して動きを数値化して再現するとともに、「勘やコツとは一体、なんなのか」をAIで読み解く研究も進んでいます。

この領域では、私が今まさに取り組んでいる「XAI(説明可能なAI)」が役に立つはずです。XAIとは、「AIがなぜ、このような予測や推定に至ったのか」という経緯や判断基準のプロセスを説明できるAIを指します。とかくブラックボックスになりがちなアウトプットのプロセスが明確になるので、AIの信頼性が高まるというメリットがあります。XAIによって、技術継承における勘やコツを形作る要素が明らかになると考えています。

導入のハードルが下がってきた今こそ活用のチャンス

――身近なAIの活用事例にはどのようなものがありますか。