2024年 2月20日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

生産性10倍も可能? AI活用の始め方(後編)

企画・編集:JBpress

AI導入は難しくない? 実現への一歩は「三つの自動化」を知るところから

導入のハードルが下がった今こそ、中小企業にとってAI活用をスタートするチャンス――。こう話すのが、武蔵野大学のデータサイエンス学部で准教授を務める中西崇文氏だ。「自社のビジネスをスケールさせるAI活用」の第一歩を踏み出すためには、どんなマインドのもと、どのようなITパートナーとどんなプロセスでプロジェクトを進めればよいのか。中西氏に話を聞いた。

この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。

まずは四段階のプロセスと三つの自動化を理解する

――中西先生はAIを活用するためのプロセスとして「表出化」「要件化」「データ化」「指標化」を挙げています。それぞれ、どのようなものなのでしょうか。

中西 「表出化」は、日々仕事をする中で、問題があると感じていることを書き出し、可視化することを指します。例えばここでは「1時間に1回、コーヒーを自動で運んできてほしい」とします。

「要件化」は、表出化することで見えてきた課題を解決するために「何が必要なのか」を考えることです。コーヒーの問題を解決するためにロボットを使うとしたら、私の居場所を把握するためのセンサーや、大学内のマップなどが必要になります。このように、準備すべきものを全てピックアップすることが要件化です。

「データ化」は、課題を解決するためのデータを取得できるかどうかということです。コーヒーを運ぶために必要な私の居場所や予定を取得できるかどうかがこれに当たります。

「プライバシー上、居場所や予定が分かってしまうのは困る」ということであればデータの取得は難しいですし、「コーヒーを持ってきてくれるなら居場所も予定もオープンにしていい」ということであれば、コーヒーロボットによるサービスの実現に一歩近づきます。居場所や予定は公開できないけれど、「自分の席にいるかどうかは公開できる」というように、代わりのデータを考えることも、このデータ化に含まれます。

「指標化」は、データをどのように使うのか、データをどのように評価するのかを決めることです。コーヒーロボットの例で言うと、「私がオフィスの席についてから、ちょうど1時間経過したらコーヒーを運ぶ」といった仕組みを考えることがこれに当たります。

これらの四つがそろっていれば、AI技術者がスムーズにサービスを実装することができます。

四段階のプロセスの整理は、現場の業務を熟知した社員が行うべき。以降の技術的な部分は、社内での対応が難しければパートナーに相談するなど、柔軟に対応する。
資料提供:中西崇文氏

――実際のビジネスの現場では、AIを使ってできることとそうでないことがありそうです。より実現度の高い課題を表出化させるために、知っておくべきことはありますか。

中西 いくつかありますが、特に「分類」「回帰」「クラスタリング」という三つの自動化の観点が大事になると思います。

「分類」というのは、過去のデータから学習し、判別することです。製品チェックであればデータに基づいてOKかNGかを判断するというもので、例えば私の顔の特徴データに基づいてAIが「中西崇文かどうか」を判断するのも分類になります。

「回帰」というのは、過去のデータから目的となる数値を導き出すことです。例えばこれまで入力した売上データから、将来どれぐらいの売上を上げられるのかを予測するのは、これに当たります。

「クラスタリング」は、似た者同士をグルーピングすることです。例えば学生一人一人の属性から得意なことを抽出して、同じ領域が得意な人同士でグルーピングする、というのがクラスタリングになります。

この三つの自動化を理解することで、自社の課題のどの部分をどのAIで自動化すればいいのかが見えてくると思います。

AIで何をすべきかを考え、恐れず使ってみること

――AI導入に関するパートナーにはどのような選択肢があるのでしょうか。また、自社に合ったパートナーの選び方のコツがありましたらご紹介ください。