この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。
「社員が幸せな会社」をつくるために経営層がすべきこと
――著書「幸せな職場の経営学」の中に「創業者や経営トップの理念、ビジョンが組織全体に浸透している会社の社員には幸福度の高い人が多い」とありました。それを示す事例があればお教えください。
前野 人材育成を手掛ける100人規模の企業が2年間、ウェルビーイング第一主義を徹底して実践したところ、2億円だった売上が8億円に伸びたという事例があります。
この企業は、経営トップが「ウェルビーイング第一主義を本気で実践する」と社内に宣言して、コーチングや1on1を通じてこの考え方を社内に浸透させたところ、社員が「熱く燃える集団」に変わったのです。
「幸せを第一に考える」という考え方が浸透すると、社員が顧客の幸せを考えて行動するようになり、顧客満足度が上がります。社内においても、無駄ないざこざが減って、目標を達成するために一丸となって動くチームに変わります。この企業も、このような効果で業績が伸びたと聞いています。
――ウェルビーイングを実践するには、まずトップが変わるべきなのでしょうか。
前野 全社にウェルビーイングの考え方を浸透させるためには、経営トップ自らが考え方を変え、指揮をとるのがベストです。利益優先から幸せ優先にマインドを変え、正しいコーチングや1on1を実践していくのは大きな変化ですから、トップダウンのほうが浸透はしやすいです。その意味ではオーナー企業は実践しやすいと思いますね。
一方で、部門のトップや若手のチームリーダーが社内を変えていった事例もたくさんあります。まずは自分が所属するチーム、部門で実践し、その実績を持って他の部門に広げていくというのも一つのやり方です。
――前野先生は、これからの時代のリーダーには「愛」が大事だと話しておられます。科学や統計とはかけ離れた抽象的な考え方のように思われますが、あえてこの言葉を使うのには深い意味があるのでしょうか。
前野 幸福学そのものはデータに基づいた分析から生まれたものですが、その施策は「幸せ」を扱うだけに、心をこめて実践する必要があります。それを愛という言葉で表現しています。
インボイス制度の導入を進めるとか、ChatGPTを社内で使えるようにするとか、こうした施策は愛がなくてもできるのですが、ウェルビーイングの施策を他の施策と同じ感覚で進めてしまうと、なかなかうまくいかないのです。
「ウェルビーイングの施策は、愛がある会社がうまくいく」と説明すると、普段、会社の中ではあまり出てこない愛という言葉に驚く人もいます。ここで、「どうして愛という言葉を使っているのか」を考えてもらうことで、「ウェルビーイングの施策が他の施策と同じではないこと」が伝われば、と思っています。
昔は社員旅行や運動会など、企業の中にも「家族愛」を感じさせる取り組みがありましたが、働き方が変化するに従って次第にロボットみたいに働く世の中になってきて、愛が置き去りになっているんです。そこに愛を注入するのがウェルビーイング経営なのです。
幸せな職場をつくるために、今日からできること
――職場ですぐに実践できる「幸せのレッスン」にはどのようなものがありますか。