この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
運送・物流の現場では何か起こっているのか
――なぜ政府は、人手不足が深刻化しているこのタイミングでトラックドライバーの残業時間の上限規制を実施するのでしょうか。
首藤 今回の規制は急な話というわけではありません。労働基準法改正に伴う残業規制自体は2008年にスタートしており、大手企業においてはまず、残業代を高くすることで残業を減らし、次に残業時間の上限を規制するという形で、政府は国民の働き方を変える取り組みを行ってきました。
ただ、トラックドライバーなど運送・物流業界で働く人の残業時間は政府が目指す上限からあまりにかけ離れていたことから、他の業界といきなり足並みをそろえるのは困難であるとして、猶予期間が設けられていたのです。
その猶予期間が終わり、ドライバーに対する残業時間の上限規制が適用されたのが2024年4月1日というわけです。
――運送・物流の現場では今、何が起こっているのでしょうか。
首藤 運送・物流業者においては、法的な規制がかかったことで、大手企業を中心に危機意識を持ってこれまでの問題を可視化し、対策を進める企業が増えています。
中小の運送・物流業者は少し腰が重い感もありますが、大手企業の対応が進めばその動きが徐々に波及していくのではないかと期待しています。
深刻なのは、現場で働くドライバーの問題です。ドライバーは、これまでの給与体系のまま残業が減ると収入が下がってしまうことになります。つまり、もともと人手が不足しているにもかかわらず、さらにドライバーがほかの仕事に移ってしまうリスクが高まっている。運送・物流業者は、給与体系の変更や賃金アップによって、ドライバーの収入を維持する必要に迫られています。
出典:取材を基にJapan Innovation Review編集部で作成
――トラックドライバーの残業時間が年間960時間に規制されたといっても、一般企業の上限である720時間に比べてまだ240時間も多い状態です。なぜ、これほどまでにトラックドライバーの残業は多いのでしょうか。
首藤 荷役(トラックに荷物を積み込む作業)や荷待ち(荷主の都合によるドライバーの待機)に時間がかかっているのが主な理由として挙げられます。
例えば荷役を行う際に、手積みで行っている現場はいまだに少なくありません。10トントラックに手作業で荷物を積み込むと2~3時間ほどかかってしまいます。
同じ量でもフォークリフトを使えば30分ほどで済むのですが、その際に使うパレット(荷物を載せるための荷役台)の回収が難しいなどといった問題から全面的な利用に至っていないのが実情です。
荷待ちもドライバーの労働時間に大きく影響しています。これは主に、荷主が大量の荷物を出荷する際に、複数のトラックを同時に集合させることによって起こります。
同じ時間に集合しても、荷役を行えるスペースが限られている場合には、ドライバーは順番待ちをしなければなりません。この荷待ちが1~2時間も発生するのが常態化しています。
荷主が集合時間をずらして伝えれば済む話なのですが、これまでの商習慣から「一斉集合が当たり前」だと思っている企業も少なくないため、なかなか改善されません。
このように、ドライバーの労働時間の問題は荷主の対応なしには解決できない面があるので、荷主が意識を変えることがとても重要です。
商習慣や労働環境の問題点を正しく認識するべき
――「一斉集合が当たり前」といった商習慣が問題の根幹にあるような気もしますね。