この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
データに基づいて採用を科学する新しい学問
――採用については「大企業の方が有利」という見方が一般的ですが、服部先生は著書「採用学」の中で、採用施策の工夫次第で、中小企業でも大企業と互角に戦える時代になったと指摘しています。どのような背景からこの考えに至ったのでしょうか。
服部 この10年ぐらいの間に、採用市場が大きく変化したことが挙げられます。
有名な企業や成長産業の人気が高いのは今も昔も変わりません。しかし、採用学を研究する中で新卒や第二新卒の学生に話を聞いてみると、昔に比べて、企業の規模や知名度、ブランド力よりも、「どんな人と出会えるか」「どんな経験ができそうか」「自身の成長につながる仕事ができるか」といったことを重視する割合が確実に増えていると感じます。
採用する企業側も、紋切り型の採用アプローチではなく、自社の価値観や文化を見つめ直したうえで、活躍できる人物像を可視化し、自社の魅力を最大限に伝える工夫をしている企業が増えています。
このように、採用する側とされる側の意識が大きく変わってきたことで、中小企業に有利に働くケースも出てきたと言えるでしょう。
実際に採用施策を工夫することで、自社が求める優秀な人材を獲得している地方の中小企業の事例も増えています。例えば新潟に本社を構える三幸製菓は、採用学を使って自社が必要とする人材の獲得に成功している一社です。
メールアドレスの入力だけでエントリーできる「日本一短いエントリーシート」をはじめ、採用担当者が出張して求職者に会いに行く「出前全員面接会」や、主力製品であるせんべいを愛する人を対象とする採用枠「おせんべい採用」といったユニークな取り組みで、応募者を増やすことに成功しています。
――採用学とはどのような学問なのでしょうか。
服部 採用学は、企業の採用活動をデータに基づいて分析し、企業が真に必要とする人材を採用するためのアプローチを考える学問です。採用は企業戦略の中核を成すものであることから、経営学に含まれます。
具体的には、社内に蓄積された面接時の映像や評価データ、面接官や求職者へのヒアリングデータなどを分析し、その企業に最適な採用手法は何かを探ります。
――採用学を研究しようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。
服部 従来型の画一的な採用が通用しなくなりつつあったことがきっかけでした。
採用学の研究を考え始めた2012年当時、新卒採用の解禁日を後ろ倒しにするという検討が始まり、企業が学生にアプローチできる期間が大幅に減る可能性が出てきました。
そうなると企業は、採用施策を工夫しなければなりません。新たな採用施策を考える際には、何かしらのよりどころが必要になると考えたのです。
その時に思い出したのが、米国の学会で目の当たりにした採用活動の議論でした。米国では当時既に、データに基づく採用手法の研究が始まっていました。研究者や企業の採用担当者が集まり、活発な議論が行われていたのです。
日本においても近い将来、このような議論が必要となり、採用を「科学」する取り組みが求められるようになるのではないか。そう考え、採用学の研究を始めました。
採用学は企業の採用をどう変えるのか
――採用学を取り入れることで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。