2024年 8月20日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

中小企業を強くする「身の丈BCP」(後編)

企画・編集:JBpress

「身の丈BCP」を策定するために、まずは正しい理解と具体的なイメージを

自然災害が起こるたびに、その重要性が説かれるBCP(事業継続計画)。しかし、BCPを策定している、または策定を検討しているという中小企業は、全体の20%前後しかない。「できるところから始めて、徐々に精度を高めていけば良い」と語る事業継続研究所代表/中小企業診断士の京盛眞信氏に、「身の丈BCP」策定の取り組み方や注意すべき点などについて聞いた。

この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。

防災対策とBCPは別物だが、まずは災害を想定するところから

――実際にBCPを策定するに当たっては、「BCPの基本方針」の設定や「中核業務と重要業務」の整理など、聞き慣れない用語や慣れない作業が多数出てきますね。

京盛 BCPの基本方針は、中核業務が停止する事態が発生しても、主要顧客離れが起きないよう、目標復旧時間内に中核業務を復旧するための施策を事前に整理・準備を進め、被災した場合、迅速に生産活動・サービス提供を再開させるためのものです。

もし中核業務が停止し、顧客離れが懸念される状態に陥った時は、経営者がBCPを発動し、中核業務の復旧活動をスタートします。その活動に必要な要員の食糧や機材を準備しておく備蓄計画も必要です。

このような定義や専門用語は、自社なりのものに置き換えて、解釈しても問題ありません。重要なのは、中核業務の継続や復旧の実現性が高い策がきちんと講じられているかどうかです。

とはいえ、最初は分からないことだらけだと思います。よく「BCPを策定したいのですが、どうしたらいいですか」という相談を受けますが、まずは商工会議所や商工組合が主催しているようなセミナーを受講することを薦めています。

東日本大震災以降、どこの自治体でもBCPセミナーを頻繁に行っています。参加するのはどのセミナーでもかまいません。自社の所在地でも、自宅の近くでも、気軽に行けるセミナーに参加してみましょう。まずは専門家の話を聞いて、自社のBCPのイメージを作ることが取っ掛かりとなるのです。

――大地震や水害、感染症など、想定すべき事象はさまざまあります。リソースが限られている中で、事象をどう整理し、優先順位を付けていくべきでしょうか。

京盛 BCPは自然災害だけに対応するものではありません。サプライチェーンの途絶や重要な仕入れ先の突然の倒産なども対象となります。

そもそもBCPと防災計画を混同してしまうケースがよくあるのですが、それは誤りです。防災計画はあくまで人命と資産の保護が目的で、BCPは中核業務の停止を回避することが目的です。そのため、中核業務停止に影響を与える事象の発生確率と影響度を整理し、対策を講じることから始めます。

しかしながら、「なかなかイメージが湧かない」という声も多くあります。そういう時、私は「台風の発生によってライフラインがストップするケースを考えてみましょう」と助言します。台風のように多くの人が過去に経験したことがある事象であれば、イメージが湧きやすいためです。

ただし、履き違えてはいけないのが、「台風への対策」を作るという意味では決してないということです。あくまで「ライフラインのストップ」という事象が起こった時に、どう対処するかを定めるのがBCPです。その事象によって起こり得る、中核業務が止まる要因を洗い出し、優先順位を付けていきます。

すし店を例にイメージしてみましょう。営業を再開するには、魚が傷まないよう、冷蔵庫を稼働させる必要があります。生魚を洗うための水も要ります。一方で、みそ汁を作るためのガスはどうでしょうか。ガスが止まっていても最低限の熱源は電気で代用できるかもしれません。このように考えていくと、ガスは後回しで、電気・水道の停止回避が最優先であるということが見えてきます。

目的を正しく理解し、明文化してみれば、防災対策とBCPは別物であることが明確になる。
出典:京盛眞信氏提供の資料を基にJapan Innovation Review編集部で作成

BCPを策定した後、必ずすべきこととは

――BCPを策定しても、めったに起こらない緊急事態の発生時においては、うまく機能するかなかなか確信が持てません。社内全体にどのように理解・浸透させていけば良いのでしょうか。