2024年 9月17日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

リスクではなくチャンス? カーボンニュートラル(後編)

企画・編集:JBpress

まずは温室効果ガス排出量の算定を。できること、やるべきことから始めるカーボンニュートラル

「カーボンニュートラル(以下、CN)は環境だけの問題ではありません。企業がビジネスを続けるために今すぐ動き出すべき重要な課題です」と話すのは、サステナビリティ経営の専門家であるニューラルのCEO、夫馬賢治氏だ。これから中小企業がCNを進めるには、どのような視点を持ち、どこから始めるべきなのか。また、経営者はどのような考え方でCNを社内に広めれば良いのか。夫馬氏にポイントを解説してもらった。

この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。

CNに向けた経営で意識するべき四つのポイント

――中小企業が排出量を削減するに当たり、どこからどのように進めるべきなのでしょうか。

夫馬 まず、社内でどこからどれくらいの温室効果ガスを排出しているかを算定する必要があります。自社の温室効果ガス排出状況を把握しなければ、どこから手をつけるべきかを判断できません。例えるなら、財務諸表がなければ的確な経営判断ができないのと同じです。

ただし、温室効果ガス排出量の算定を独力で行うのは簡単ではありません。財務諸表の作成でも税理士や会計士のサポートを受けて実施するのと同じように、専門家に頼るのが無難です。最近では算定支援ツールやアドバイスする機関も増えてきているので、自社に合う専門家を探して相談してみましょう。

図はサプライチェーン全体の事業者の温室効果ガス排出のイメージ。中小企業の場合、自社の「燃料の燃焼」と「電気の使用」の温室効果ガス排出量が主な算出の対象となる。大企業の場合、原材料から廃棄までサプライチェーン全体の事業者の温室効果ガス排出量を把握する必要があるため、中小企業に協力を要請することになる。
出典:経済産業省関東経済産業局「カーボンニュートラルと地域企業の対応<事業環境の変化と取組の方向性>」を基にJapan Innovation Review編集部で作成

次に、排出量を減らす施策がコスト増(多大な先行投資が必要等)になる部分と、コスト減につながる部分を区別します。コスト減になる施策で、すぐに実行できるものがあれば、そこから始めるのが良いでしょう。

コスト増となるなど自社にとってハードルが高い施策については、業界団体や地元の商工会で話し合ってみるのもおすすめです。CNのテーマでは、同じ業界の企業が似たような課題を抱えていることが少なくありません。同業他社から学ぶことで、効率的に対策できますし、場合によっては他社と協力して課題の解決に取り組む選択肢も考えられます。

――夫馬さんは著書の中で、実際にCNに取り組む際に重要な要素として「リーダーシップ」「研究開発」「資金」「人材」の四つを挙げています。

夫馬 CNの取り組みには、一貫してリーダーシップが重要です。これまでお話ししてきたように、CNは、長期的かつ継続的に取り組む必要があります。経営者が自らリーダーシップを持って取り組まなければ、なかなかうまく進みません。

日本の企業運営においては、中間管理職が大きな役割を果たしており、経営者がCNの施策を任せたくなる気持ちは分かります。しかし、中間管理職は売上や顧客の獲得といったノルマに対する重責を負っているため、その他の業務の優先順位はどうしても下がってしまいます。

だからこそ、CNは人任せにせず、経営者が責任を持って進めることが重要です。実際に、排出量の大幅な削減に成功し始めている企業の多くは、経営者が積極的に関与しています。

――研究開発に大きな投資をするのは、企業の規模や業界によっては難しいかもしれません。

夫馬 研究開発は全ての業種で重視するべき項目というわけではありませんが、重工業や食品などの製造業、あるいは建設業といった一部の業種にとっては有力な選択肢です。競争力を高めるために、従来の手法を変える必要があると考える企業にとって、研究開発は重要なテーマになります。

社内だけで研究開発の体制を整備することが困難な場合には、地元の大学との共同研究をおすすめします。大学の研究者との共同研究というと、実現可能性が低そうに感じるかもしれません。

ただ実際には、いまや大学の研究者は政府などから社会に役に立つことを強く求められています。地元の企業や産業の活性化につながる実例が得られれば、大学の研究者にとってもメリットがあります。にもかかわらず、大学の研究者は、どの企業が共同研究をしたがっているかを把握できていません。企業側からすれば、積極的にアプローチをしたもの勝ちなのです。

――資金についてはどんな選択肢があるのでしょうか。

夫馬 CNに向けた研究開発やビジネスモデルの転換には資金が必要になります。これまでは、設備投資や実践に必要な費用を捻出できず、諦める企業も少なくありませんでした。

しかし、最近では、CNの分野では金融機関が積極的に融資をするようになりました。地方銀行、第二地方銀行、信用金庫でも、融資金額目標を定める金融機関が増えています。国や自治体でも補助金の整備が進んできました。今は「CNに着手しない口実がなくなった」と言えるほど、さまざまな資金面のサポートが充実しています。

――CNに本腰を入れるためには、人材も重要なポイントです。必要となる人材は、どう確保すれば良いのでしょうか。

夫馬 CNについて詳しく理解し、会社の施策をリードできる人を求めがちですが、そういう人はなかなか見つかりません。基本的には、社内で有望な人を見つけて育成することになります。世の中にはCNに関心がある人とない人がいるので、まずは社内でCNについて話題にし、関心を持った人を募ると良いでしょう。

人手不足の中で、CNの専任者を配置するのは難しいとも思います。ですので、まずはCNプロジェクトを立ち上げて兼務とし、社員が互いに学び合い、自社の課題について話せる場をつくることから始めます。自社の温室効果ガス排出量をプロの支援を受けながら算定する業務を、このチームにやらせてみるのも一つの手です。

チーム内で「同業他社に話を聞いてみよう」「どの金融機関がCNに融資しているか調べてみよう」という話題が出てくるようになればしめたものです。

CNとDXは表裏一体、合わせて取り組むべき

――CNを進めるには、デジタルの活用も重要になりそうです。