2024年11月19日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

独裁型リーダー時代の終焉。人的資本経営の本質とは(後編)

企画・編集:JBpress

「働く人が主役」の会社に変わるために経営者がすべきこととは? 人的資本経営に欠かせない五つのポイント

人的資本経営において、リーダーの役割は社員を「管理」することではなく、社員の能力を最大限に引き出す「支援者」になることである――。こう話すのは、明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科の教授で、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の組織や働き方の研究で知られる野田稔氏だ。社員が人としての成長を実感しながら、生き生きと働ける職場をつくるために、経営者はどのような取り組みを進めるべきなのか。野田氏に話を聞いた。

この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。

人的資本経営を実践する際の課題とは

――人的資本経営を実践するには大きな改革が必要です。改革を進める際、どのような課題があるのでしょうか。

野田 改革を進める中でよく耳にする課題の一つが、「社員を信じられない」という経営者の声です。多くの経営者が「社員に任せても、新しいものを生み出せるとは思えない」と考えています。

しかし、社員に主体性がないと感じるのは、経営者自身がそうした環境を作り出してきた結果です。社員が主体性を失い、新しい価値を生み出せなくなっているのは、「とにかくやれ」という指示型のマネジメントが長く続いてきたことで、社員が新しい価値を生み出す力を失ってしまったことが根幹にあります。

企業がこの状況を打破するためには、「組織文化の改革」と「社員一人一人の意識改革」を進めることが不可欠です。この両輪が相互に作用し合うことで、初めて組織全体が変わり始めるのです。

人的資本経営のポイントは「組織」と「社員」の両方を変えること

――中小企業が「組織文化の改革」と「社員一人一人の意識改革」に取り組むに当たり、どこから着手すれば良いのでしょうか。

野田 組織に関しては、全ての社員の能力を引き出す仕組みを整えることが重要です。また、各メンバーの能力を引き出すリーダーシップを組織全体に浸透させることが求められます。

個々の社員については、「自分で自分の仕事を主体的につくっていく」というマインドを身につけてもらう必要があります。ただ指示を待つのではなく、自分で自分の仕事を面白くしようという姿勢が重要です。

組織に対する施策と個人に対する施策のどちらから始めるべきかというと、私はまず「個人」に焦点を当てるべきだと考えています。

具体的には、キャリア自立研修が効果的です。この研修では、社員が自分自身を見つめ直し、自分の強みや関心を再確認し、自分が何をやるべきかを考える機会を提供します。そして、それを実際の行動に移せるよう支援するのです。ただ、この研修そのものが「やらされ」にならないように注意深く進める必要はあります。

行動や結果が伴い、自信を持つ社員が増えると、組織の文化も変わりやすくなります。ここで大切なのは、リーダーが「管理」ではなく「支援」を意識することです。リーダーには、社員の強みを引き出すキャリアコンサルタントのような役割が求められます。

このように、まずは社員の意識を高め、職場を活性化させることが重要です。こうした取り組みを続けることで、社員はストレスなく自分の力を発揮し、組織を変えるための新しいアイデアを生み出すことができるようになります。

組織の改革と社員(個人)の意識改革を両輪で進める必要がある。まずはリーダーが支援しながら個人の意識改革を進めると成果につながりやすい。
出典:野田稔氏提供の資料を基にJapan Innovation Review編集部で作成

人的資本経営に欠かせない五つのポイント

――野田先生は、組織が理想の状態に向かっているかどうかを把握するためには「見える化」が重要だと指摘されています。組織の状態を「見える化」する際、どのようなポイントを考慮すべきでしょうか。

野田 「働く人が主役」の組織に変わっているかどうかを可視化する際のポイントは次の五つです。