この記事は全2回シリーズの前編です。後編は下記よりご覧ください。
経営資源が限られる中小企業ではまず優先順位を明確に
――岡田先生は長年、中小企業の経営を研究されています。中小企業の経営者は、IT化やDXを進める以前に、自社の課題をどのように整理して理解すれば良いでしょうか。
岡田 中小企業に限らず、いつの時代も企業経営というものは厳しいものです。社会は常に変化しており、ビジネスを取り巻く環境が変われば、企業はそれに対応しなければなりません。特に昨今では、技術の急速な進化に伴って短いスパンでビジネスモデルが変わることも少なくないので、なおさらです。
こうした前提のもと、中小企業に共通する課題と言えるのは、「小規模であるがゆえに生じる問題」です。大企業に比べ、資金や人材などの経営資源が限られているため、変化への対応が難しい面があるからです。
制約がある状況下では、重要な課題から優先順位を付けて取り組む必要があります。そのためには「社内でどんな問題が起こっているのか」「その原因は何か」を考えることが必要です。
例えば、「商品が売れない」「顧客が増えない」といった課題があったときに、すぐに「どう改善するか」を考えるのではなく、「なぜその問題が発生しているのか」を掘り下げて原因を突き止めることが重要です。原因が明確になれば、どこから手をつけるべきかが見えてくるはずです。
――日本の中小企業はなぜ、さまざまな課題を解決できずにいるのでしょうか。
岡田 その理由は大きく二つあると考えています。
一つ目は、多くの企業が自社の持つ素晴らしい力に気付いていない点です。自分の会社の中では「当たり前のこと」が、実は第三者から見ると競争優位性のある大きな強みである場合も少なくありません。人が自分自身のことを客観的に把握しにくいように、企業も自社の潜在能力を見落としてしまうことが多いのです。
二つ目は、情報通信技術やデジタル技術を十分に使いこなせていない点です。せっかくITやデジタルツールを導入しても、その機能を十分に活用できていない企業が多く見られます。
また、経営者自身が「うちはITを導入する必要がない」と考えているケースもあります。現状では特に困っていないことから必要性を感じていないのでしょうが、これでは「ゆでガエル現象」、つまり変化に気付いた時に手遅れになってしまう危険性があります。
中小企業のDXは進んでいるのか
――岡田先生は、DXにおいて重要なのはデジタルではなく、トランスフォーメーションであるとお話しされています。中小企業の経営者はDXをどのようなものだと理解するべきでしょうか。