2025年 3月18日公開

有識者に聞く 今日から始める経営改革

「脱・勘と経験」に必須のデータサイエンス(後編)

企画・編集:JBpress

まずやるべきは「常にデータを意識すること」。その結果、データサイエンスから得られるものとは

データ分析の結果を元に、ビジネスの価値を生み出すためのストーリーを描くのに欠かせない学問として注目されているデータサイエンス。企業がビジネスにデータサイエンスを取り入れるためには、どこからどんな形で取り組めばよいのか、どんな点に注意すべきなのか。この領域の研究で知られる立正大学データサイエンス学部教授の渡辺美智子氏に聞いた。

この記事は全2回シリーズの後編です。前編は下記よりご覧ください。

データ分析から得た洞察で課題解決のストーリーを描く

――企業が経営にデータサイエンスを取り入れる場合、具体的にはどのように取り組みをスタートさせればよいのでしょうか。

渡辺 データサイエンスに取り組む際には、まずは身近な課題から取り組むことが大事です。課題が見えてきたら、他社の具体的なデータ活用の成功事例などを参考にしながら、自社に応用できるポイントを見つけるというアプローチが効果的です。そこから課題解決のためのストーリーを描き、実践につなげるのがよいでしょう。

身近な事例を見つけるのが難しい場合は、行政などが実施している統計グラフコンクールの入賞作品を参考にすると、課題解決のプロセスがイメージしやすいかもしれません。

例えば、統計グラフコンクールで入賞したある中学生の研究は、データの活用法として非常に示唆に富んでいます。この事例では、野球チームの勝敗データを分析し、相手投手が左投げか右投げか、また試合で先制点を取られたか否かといった要素が勝率に影響していることを発見しています。

この考え方を企業の営業活動に当てはめると、例えば成約率を曜日や顧客属性をベースに分析することで、これまでとは異なる営業戦略を立てられるかもしれません。単純なグラフを用いた分析であっても、多角的な視点でデータを解釈することで、ビジネスの改善に結び付く洞察を得ることができるのです。

具体的なデータ分析の進め方としては、PPDACサイクル(Problem:問題、Plan:計画、Data:データ、Analysis:分析、Conclusion:結論)を基盤とする手法が適しています。

具体的にはまず、問題を問いの形で明確に定義し、その解決に向けて必要なデータを想定しながら、データ収集方法や分析の方向性を計画します。次に、その計画に基づいてデータを収集・整理し、グラフなどの状態に可視化した情報を用いて特徴や傾向を分析し、そこから得られた洞察を基に結論を導き出して、結果を振り返って次のステップにつなげます。

このサイクルは、日本企業が得意としてきたPDCAサイクルに「データ」という要素を加えたもので、問題の特定からデータに基づく結論の導き方までを体系的に進めることが可能です。

一般に知られているPDCA(計画・実行・評価・改善のサイクル)と異なり、データ分析を重視して、データに基づいた意思決定を支援するサイクル。
出典:取材を元にJapan Innovation Review編集部で作成

――経営にデータサイエンスを取り入れるためには、データサイエンティストが必要なのでしょうか。そもそもデータサイエンティストはどのような役割を担っているのでしょうか。

渡辺 データサイエンティストは「データを使って課題を解決し、価値を生む」役割を担う人材です。ビジネスの文脈を理解し、分析結果を業務にどう落とし込むかを考える力が求められます。

データ人材を育てるには、データ分析がどのような形で業務に結び付くのかを「現場視点で読み解く力」を養うことや、BI(Business Intelligence)ツールを使って「プログラミングの知識がなくてもデータを活用できる環境」を整えることが欠かせません。

こうした環境の下で、小さな成功体験を積み重ねていくことが、データ活用への意識を高めることにつながるはずです。

大事なのは、業務の中で「常にデータを意識する」こと

――全社を挙げてデータサイエンスに取り組む場合、どのような啓発や育成が効果的なのでしょうか。