社内の「IT資産」、把握できていますか?
IT資産とは、企業が業務に利用する情報機器やソフトウェア類を指します。例えばパソコンやスマートフォン、タブレットといったモバイル端末をはじめ、サーバー機器やライセンス契約している業務ソフト、クラウドサービス、さらにルーターなどの周辺機器まで、対象範囲は多岐にわたります。
これらのIT資産を一元的に把握・整理し、その利用状況や状態を継続的に管理する業務が「IT資産管理」です。
IT資産管理は、業務の効率化やセキュリティの強化、コストの最適化といった観点から、「いつ・どこで・誰が・どのように」使用しているのかを明確にしておくことが重要です。
近年は、クラウドサービスやテレワークの普及に伴い、社内外で利用されるIT資産の管理はより複雑になっています。単に「購入履歴がある」「倉庫に保管されている」といった情報だけでは不十分で、実際の稼働状況、ソフトウェアのバージョンや種類、ライセンス契約の有無までを含めた、精度の高い管理体制が求められています。
IT資産の種類と管理対象
IT資産管理を行う際は、社内に存在する資産を大きく「ソフトウェア」「ハードウェア」「ライセンス」の三つに分類し、それぞれ把握・管理するのが一般的です。各分類に該当するのは、次のような項目です。
<ソフトウェア資産>
業務で使用するアプリケーションやシステム、OS(オペレーティングシステム)など、端末にインストールされた各種プログラムを指します。
(一例)
- 業務用アプリケーション(Officeソフト、会計ソフトなど)
- セキュリティソフト
- オペレーティングシステム(Windows、macOSなど)
- ブラウザーや業務支援ツール(Zoom、Teams、Slackなど)
<ハードウェア資産>
実体のある物理機器であり、使用者や設置場所、使用年数なども管理対象に含まれます。
(一例)
- ノートパソコン、デスクトップパソコン
- スマートフォン、タブレット
- サーバー機器、NAS(ネットワークストレージ)
- プリンター、複合機
- ルーター、スイッチ、アクセスポイントなどのネットワーク機器
<ライセンス資産>
ソフトウェアやクラウドサービスの利用に関する契約・権利情報全般を指し、契約状況や利用人数などを正確に把握しておくことが不可欠です。
(一例)
- ソフトウェアのライセンスキーや契約情報
- クラウドサービス(SaaSなど)のアカウントおよび契約状況
- 年間契約ソフトの更新期限やライセンス数
IT資産は種類ごとに管理項目や更新タイミングが異なるため、あらかじめ分類を明確にした上で、それぞれに応じた管理手法を準備することが重要です。
IT資産が管理できていないとどうなる? よくあるトラブル
IT資産の把握や管理が不十分な状態が続くと、予期せぬトラブルやリスクにつながる恐れがあります。「うちは大丈夫」と油断していると、気づかぬうちにコストやセキュリティ面で大きな課題を抱えてしまうこともあるため、注意が必要です。
ここでは、企業の現場で実際に起こり得る代表的なトラブルをいくつかご紹介します。
情報セキュリティがおろそかになり、サイバー攻撃に遭ってしまった!
ある企業では、社内のIT資産管理が十分に行われておらず、各端末やソフトウェアの更新状況も把握できていないまま放置されていました。
その結果、古いバージョンの業務ソフトに存在していた脆弱性を突かれ、外部からウイルスが侵入。社内ネットワーク全体に被害が広がり、業務停止や顧客情報の流出といった深刻なインシデントへと発展してしまいました。
このようにIT資産を適切に管理できていないと「最新のセキュリティパッチが適用されない」「不要な機器やソフトが放置される」といった状況を招き、サイバー攻撃のリスクが大きくなってしまいます。
ソフトウェアライセンス違反で、罰金を支払うはめに……
ある企業では、使用中のソフトウェアとライセンス数の管理が不十分でした。
その結果、契約しているライセンス数を超過して利用してしまったことが後に発覚し、著作権法違反として罰金の支払いを命じられる事態となりました。企業としても大きな信用の損失を被ることとなりました。
このようなライセンス管理の不備は、決して人ごとではありません。放置すれば、知らぬ間に法令違反に該当し、思わぬ罰則や金銭的ダメージにつながるリスクがあるのです。
ITコストがかさみ、新しいソフトウェアが購入できない
ある企業の従業員が新たな業務効率化ソフトの導入を提案したところ、経営層からは「ITコストが膨らんでいるため、導入は見送りたい」と却下されてしまいました。
実はその企業では、すでに不要となったソフトウェアの契約や、使われていないハードウェアの維持管理が続いており、無駄な支出が積み重なっていたのです。
このように、IT資産を適切に管理していないと、実態を把握しないままコストだけが膨らみ、本当に必要なタイミングで投資できなくなるケースがあります。
モバイル端末の管理が甘く、社用スマホの私的利用が常態化
ある企業では、全従業員に社用スマートフォンを支給していました。
ところが、端末の使用状況や管理ルールが徹底されておらず、業務とは無関係な私的利用が常態化。動画視聴やゲームアプリのインストール、さらには個人のSNS利用など、本来の業務目的から逸脱した使い方が横行していたことが後に発覚しました。
こうした管理の甘さは、通信費の増大といったコスト面にとどまらず、情報漏洩やセキュリティインシデントといった重大なリスクにも直結しかねません。
IT資産を効率よく管理する方法
IT資産の管理不足によって生じるトラブルを未然に防ぐには、社内に存在するIT資産を正確に洗い出し、計画的に管理できる体制を整えることが重要です。ここでは、IT資産を効率よく管理するための基本的なステップを四つに分けてご紹介します。
(1)管理すべきIT資産を明確化
IT資産管理の第一歩は、「何を管理するのか」を明確にすることです。
社内にはパソコンやスマートフォンなどの端末をはじめ、業務用ソフトやクラウドサービス、ネットワーク機器など、多種多様なIT資産が存在します。このようなIT資産を漏れなく洗い出し、管理の対象範囲を整理することが欠かせません。特に部門ごとに保有機器や利用ソフトが異なる場合は、情報の取りこぼしがないよう、特に注意する必要があります。
物理的な機器だけでなく、ソフトウェアやそのライセンス、契約中のクラウドサービスも含めて一覧化することで、管理の土台が整います。
(2)IT資産管理ツールと台帳の活用
洗い出したIT資産を適切に管理するためには、管理台帳の活用が効果的です。管理台帳には、資産名、機種・型番、製造番号、設置場所、使用者、購入日、保証期限など、管理に必要な情報を網羅的に記載します。
台帳は資産の種類に応じて分けて作成するのが一般的です。例えば次のような管理台帳があります。
- ソフトウェア管理台帳(インストール先、ライセンス数など)
- ハードウェア管理台帳(端末情報、使用状況など)
- リース管理台帳(契約期間、返却期限など)
これらをExcelやスプレッドシートで運用する企業もありますが、資産情報の自動取得や更新通知などを行いたい場合は、専用の「IT資産管理ツール」を導入することで、管理精度と効率を高められます。
また、モバイル端末の管理には「MDM(モバイルデバイス管理)ツール」が有効です。MDMを活用することで、端末の遠隔制御や紛失時のロック・初期化、アプリの配信制限などを行え、セキュリティリスクを最小限に抑えることが可能になります。
(3)ライセンス情報の一元管理
ソフトウェアやクラウドサービスのライセンス情報も、IT資産として欠かせない管理対象です。ライセンス数や契約期間、インストール先、利用者情報などを正確にリスト化し、管理することで、無断使用や契約超過といったトラブルを防ぐことができます。
手作業でのライセンス情報の管理は、更新漏れやミスが起きやすいため、他の資産とあわせてIT資産管理ツールで一元管理するのがおすすめです。有効期限の通知や利用状況との照合を自動化することで、運用の負担軽減にもつながります。
(4)利用状況と契約情報の定期確認
IT資産を適切に管理し続けるためには、定期的な確認と見直しの運用が不可欠です。
ライセンスの有効期限切れやリース契約の満了、使用されていない端末やソフトの存在などは、放置しておくと法令違反や無駄なコストの原因になります。そこで、月次や四半期ごとにIT資産とその利用状況を点検し、不要な資産の削除や契約更新、再配置などを進めることが重要です。
IT資産管理ツールを導入している場合は、使用状況の可視化やアラート通知機能により、こうした点検作業も効率的に行えます。
まとめ
IT資産の管理は、単なる在庫の把握にとどまらず、セキュリティリスクの軽減やコストの最適化、法令順守といった観点からも非常に重要です。IT資産の種類や具体的な管理方法、管理不足によって発生し得るリスクを理解し、日頃から正確な資産把握に努めることが求められます。さらに、ライセンス情報や利用状況を定期的に確認することで、トラブルの予防にもつながります。
大塚商会では、IT資産の一元管理を支援する各種管理ツールをご用意しており、企業の課題や規模に応じた導入支援も行っています。また、IT資産だけでなく、ネットワーク機器やクラウドサービスまで含めた社内のIT環境全体をサポートできる「ITワンストップサポートデスク」も提供しています。
自社のIT資産を効率的に管理し、業務の安定運用とコストの最適化を図るため、この機会に管理体制の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
著者紹介:水無瀬 あずさ
現役エンジニア兼フリーランスライター。PHPで社内開発を行う傍ら、各メディアでコンテンツを執筆している。得意ジャンルはIT・転職・教育。生成AI×プログラミングでゲームを開発するための勉強にも励んでいる。(編集:株式会社となりの編プロ、ARC影山)
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