2018年 6月21日公開

なつかしのオフィス風景録

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勤務時間中の散髪もOK?昭和ビジネスマンのヘアスタイル事情

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現代からはなかなか想像できない、過去のオフィス風景や仕事のあり方を探る「なつかしのオフィス風景録」。第8回のテーマは、昭和ビジネスマンのヘアスタイル事情。1871年創業、日本で一番古いといわれるヘアーサロン喜多床様に取材を行い、4代目店主の舩越一哉さん(写真左)とその娘さんであり5代目店主の千代さん(写真右)に、さまざまなお話を伺いました。

勤務時間に散髪OKな会社も昔は多かった?

取材者
4代目の一哉さんがお店で働き始めた頃のお話を聞かせてください。
一哉さん
私が当店で働き始めたのは1958年ごろ。現在は渋谷で営業しておりますが、当時は丸の内の日本倶楽部ビルの地下にあり、お客様も日本倶楽部の会員、企業の重役や政治家、皇族など各界の名士の方々がよく訪れていました。もちろんオフィス街でしたので、ビジネスマンのお客様も多くいらっしゃいました。
取材者
当時は一哉さんも20代とお若かったと思うのですが、そうしたそうそうたるお客様を相手にされるときは緊張しましたか?
一哉さん
そうですね。時の衆議院議長や官房長官もよく来られていたのですが、そういった方がおいでになるとボディガード、今でいうSPがお店の出入り口に構えていました。普通のお客様とは違う、独特の緊張感がありましたね。
取材者
昭和の時代、ビジネスマンの髪型にはどのようなものが多かったですか?
一哉さん
七三分けかオールバックがほとんどです。耳はすっきりと出して、襟足はワイシャツの襟にかからないように、前髪も基本的には上げる。髪型に対して職場からの注文も厳しく、髪の毛が少しでも耳にかかるとダメというところも多かったようです。清潔感がとても重視されていた時代だったように思います。
千代さん
丸の内のビジネスマンは「床屋と歯医者は勤務時間中に行ってもOK」という会社も多かったらしいです。要はだらしない髪型をするくらいなら、仕事中でもいいから切りに行ってこいと。
取材者
なるほど。ということは散髪に行く周期も、現代と比べて短かったのでしょうか?
一哉さん
最近だと1カ月に1回でも行けば多い方かもしれませんが、昔は10日に1回、1週間に1回というペースが当たり前でしたから。5日、15日、25日と毎月5のつく日には必ず散髪に来られるお客様もいらっしゃいました。
銀行や大きい企業なんかだと、会社の中に床屋があるところも多かったようで、今よりずっと身近な存在だったように思います。

ビジネスマンの間で一般的だった髪型が掲載されている昭和の雑誌。

首相官邸まで髪を切りに行く

取材者
昭和のビジネスマンは髪型にかなり気を使っていたんですね。
一哉さん
そうですね。後はご自身の趣味嗜好(しこう)を求めて床屋にいらっしゃる方も多かった。例えばひげの濃いお客様が毎朝そりにいらっしゃったのですが、この方はカミソリでひげをそるときのシャーッ、シャーッという小気味良い音を楽しまれていたんです。ですから私も普通のカミソリではなく、あえて音がするものを選んで使っていましたし、きれいにそり過ぎると翌日の楽しみがなくなってしまうということで、あまり深くそらないよう気をつけていました。
取材者
なるほど。床屋にはそういった楽しみ方もあるのですね。
一哉さん
一般的な美容室ではカミソリを扱うことができないので、床屋ならではの楽しみ方だな、とは思います。
取材者
整髪料だと最近ではワックスが主流ですが、昭和の時代はどのようなものを使っていたのでしょうか。
千代さん
一番多かったのがポマード。後は「チック」という整髪料もよく使われていました。ポマードを全体につけてスタイリングし、刈り上げたサイドの髪の毛にチックを部分的につけてボリュームを抑えるようなイメージですね。今はボリュームを出すヘアスタイルが多いと思うのですが、昔はそうやって「つぶす」ようなスタイルが主流でした。
取材者
昭和の頃のお話で記憶に残っているエピソードなどはありますか?
一哉さん
官房長官をされていたお客様に呼び出されて、一度首相官邸まで頭を刈りに行ったことがありました。仕事道具を持っていくわけですが、入り口の警備がずいぶんと厳しくて、入念に身体検査をされたのを覚えています。入院中のお客様に呼び出されて、病室まで髪を切りに行ったことなんかは何度もありますね。
取材者
呼び出してまで散髪されるなんて、お客様も髪型にかなりのこだわりを持っていらしたのですね。
千代さん
「ほかの店に浮気はしないぞ」というお客様は多かった印象です。私どものお客様にも30年、40年にわたってごひいきにしてくださる方が多くいらっしゃいます。中には「出張先で切った2回以外は浮気していないぞ」と豪語される、50年近いお付き合いのお客様もいらっしゃいますよ(笑)。
一哉さん
本当に床屋冥利(みょうり)に尽きる話です。明治時代に創業したときから、一族代々で髪を切りに来られているお客様もいらっしゃいます。
取材者
入社から定年まで、ずっと髪を切り続けたようなお客様もいらっしゃいますか?
一哉さん
もちろん、いらっしゃいますよ。最初は平社員だった方が昇進したり役職付きになったりすると、やっぱりうれしいですよね。一方で「最近あまりいらっしゃらないな」と思っていたお客様が実はご病気をなさっていたとか、奥様が亡くなられたとか、そういう話を聞くと自分のことのように悲しくなります。最低でも月に一度は顔を合わせていたわけですから、本当にその方の人生と共に歩いているような、そんな思いがありますね。

昭和当時の一哉さん(写真右)

「頭を休める」場所としての床屋

取材者
昭和の髪型と現代の髪型を比べて、違いを感じることなどはありますか?
一哉さん
最近は美容室に行かれる方が多いと思うのですが、技術的なところでいいますと「刈り方」が我々の時代とは違うなとは思います。昔は一番下を1ミリで刈ったら、そこから2ミリ、3ミリとグラデーションをつけるように刈っていく。階段を上るように色彩の陰影をつけていくイメージです。
最近のツーブロックですと、下は1ミリに刈って上は極端に長くしてバサッとかぶせるみたいに、コントラストがはっきりしている。どちらが良い悪いという話ではなく、そういったところに違いは感じますね。
千代さん
昭和の感覚でいうと、特にビジネスマンの髪型は「その人の内面を表すもの」というふうに考える傾向が強かった気がします。おしゃれのためというよりも、自分がきちんとした人間であることを表すための手段。大げさな表現をするなら、みんなが画一的な髪型をすることで、組織への従属を表していたのかな、なんてことも考えます。
取材者
そう考えると、現代は髪型にも多様性がある時代ですね。
千代さん
まさにそうですね。でもその一方で、就活生なんかを見るとより画一的になっている印象も受けます。私が就活をしていた頃は、チェック柄やベージュ色など、さまざまなスーツを着ている人がいましたから。その辺りは逆転していて面白いですね。
取材者
喜多床さんの中で昭和から変化したこと、あるいは変わらないことがあれば教えてください。
一哉さん
「お客様に頭を休めにきてもらう場所」だということは、昔から一貫して大切にしていますね。ですから昭和の時代は店内BGMなんかもあえてかけていなかったし、こちらからビジネスのお話を振ることなども決してありませんでした。最近では若いスタッフも増えて、それぞれのお客様に合わせたコミュニケーションを取るようにしています。その辺りは変化した部分かもしれません。
取材者
最後に現代の若いビジネスマンに向けてお伝えしたいことなどありましたら、お願いします。
一哉さん
最近は床屋の数も少なくなっていて、私自身寂しさを感じることもありますが、床屋にしかできないことも多々ありますので、若い方にもぜひ頭を休めに来ていただけたらうれしいですね。
千代さん
そうですね。例えば床屋で顔そりをしてもらった経験がある方って、最近だと少なくなっていると思うんですけど、産毛までそれるので自分でやるより格段に肌がスベスベになります。シャンプーだけとか、ひげそりだけとか、それだけのご利用でも大丈夫なので、気軽な気持ちで来ていただけたらうれしいですね。10~15分だけでも、すごくリフレッシュできますから。

ヘアーサロン喜多床

1871年創業の日本で一番古いといわれる理髪店。文豪・夏目漱石も創業当時の得意客の一人で、その小説の中にも「喜多床」の名前がたびたび登場する。現在は渋谷の地にのれんを掲げている。

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