2014年 6月 1日公開

【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

【アーカイブ記事】以下の内容は公開日時点のものです。
最新の情報とは異なる可能性がありますのでご注意ください。

「年金事務所の定時決定時調査」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

ここ数年、年金事務所が定時決定(算定基礎届の提出)の際、事業所を指定して呼び出す「調査」が行われています。どんな事業所が調査の対象になるのか? 調査で気をつけるポイントは? ……などなど、今回は、年金事務所の「定時決定時調査」について基礎から勉強しておきましょう。

「年金事務所の定時決定時調査」の巻

【お知らせ】がんばる企業応援マガジン最新記事のご紹介

年金事務所の「定時決定時調査」とは

定時決定時調査の形

調査といっても年金事務所の担当官が突然訪ねてくるということはありません。画像1のような通知書が郵送されてきて、指定の日時に必要な書類などを持参するよう求められます。
郵送されてくる時期は、6月中旬ごろで、算定基礎届の提出期限である7月10日の1カ月ほど前が目安です。

算定基礎届提出についての書面例

画像1:算定基礎届提出についての書面例
(出典:日本年金機構)

調査の背景

年金事務所はこれまでも事業所をアトランダムに選んで調査を実施してきました。「適正な手続きができているか」を確認するのが狙いでしたが、アトランダムに実施するとなると調査から外れる企業も多く、不正や怠慢を防ぐ「抑止」効果が見込みにくいということで、3年ほど前から、どの事業所も4、5年に1回は必ず調査対象となる現在の呼び出し調査を実施することになりました。この調査は、毎年行われる算定基礎届の提出時期に合わせて実施されます(注)。

(注)管轄する事業所が多い年金事務所の場合は、算定基礎届の提出期限である7月10日を過ぎても(7月いっぱいくらいまで)、調査を実施していることがあります。

調査対象となったときは

現在の形での呼び出し調査は3年ほど前から始まったばかりなので、これまで一度も呼び出しを受けていないという事業所もあるはずです。年金事務所によって管轄する事業所が多すぎると、なかなか順番が回ってこないこともあります。
逆に言うと、これまで調査がなかった事業所はここ数年のうちに呼び出される可能性が高いということです。どの事業所にも必ず回ってくるので、通知書が届いたからといって不安に感じる必要はありません。何か不正を働いたから、何か問題があるから、調査対象に選ばれたわけではないのです。

目次へ戻る

調査で求められるもの

調査の主な目的は、a.社会保険の加入漏れのチェック、つまり加入義務のある労働者を未加入にしていないかどうか、b.社会保険料の計算の基になる報酬を正しく申告しているかどうか、c.社会保険の加入日が適正かどうかなどを確認することにあります。

持参するもの

調査で求められるものは、おおよそ次の7、8種類です。

  1. 算定基礎届
  2. 厚生年金保険70歳以上被用者.算定基礎届(対象者がいる場合)
  3. 算定基礎届総括表
  4. 算定基礎届総括表附表(雇用に関する調査票)
  5. 賃金台帳、出勤簿(タイムカード)
  6. 源泉所得税領収証書
  7. 提出済の適用関係諸届(注)
  8. 事業主印

算定基礎届総括表サンプル

算定基礎届総括表サンプル

源泉所得税領収証書サンプル

源泉所得税領収証書サンプル

(注)資格取得届・資格喪失届・月額変更届などの決定通知書(事業所控え分)でコピーでも可。

このうち年金事務所が重視するのは、5と6です。以上のほかに、労働者名簿、雇用契約書、就業規則などの社内規則が求められる場合もあります。

源泉所得税領収証書を提出する意味

源泉所得税領収証書にはその月に賃金を支払った従業員の総数や支払総額が記載されています。例えば、社会保険未加入であるフルタイム労働者の賃金台帳などを外して持参したとしても、領収証書の数字を突き合わせれば人数や金額が合わないため、「これはおかしい」と分かってしまうのです。こういった賃金台帳などのごまかしを防ぐ意味もあって、年金事務所は「源泉所得税領収証書」の提示を求めているのです。

チェックされるポイント

調査の際にチェックされるのは、主に次の四つの事項です。

  1. 社会保険加入者の数

    社会保険に加入させるべき従業員を適正に加入させているかどうか。特に、パート、アルバイトの労働時間・人数については賃金台帳や出勤簿を確認し、加入条件を満たしているのに加入していない者がいないかどうかを念入りにチェックされます。

  2. 社会保険の計算の基礎となる報酬

    社会保険の計算の基礎となる報酬が適正かどうかチェックされます。通勤手当や残業代なども計算の基礎に含まれるので、届出に記載されている報酬額にそういった金額が含まれているか確認します。
    また、報酬変更の届出(月額変更届)や賞与の届出の提出漏れがないかどうかもチェックされます。賃金に大幅な変動があったときは、月額変更届の提出をしなければなりません。
    なお、年4回以上支給される賞与は、報酬額に含めることになっています。

  3. 社会保険の加入日

    社会保険の加入日が適正かどうかチェックされます。新規採用者は、試用期間であっても採用日から社会保険に加入させなければなりません。

  4. 社会保険料の控除額

    社会保険料の控除額が適正かどうか、毎月の賃金から多く控除しすぎていないか、少なく控除していないかチェックされます。

目次へ戻る

調査で違反が見つかったら

調査で違反が見つかり、年金事務所から是正命令が出された場合でも、いきなり罰則が適用されることはまずありません。もちろん加入の義務がある従業員の未加入が発覚すれば本来の取得日まで(最長 2年間)にさかのぼって加入手続きをさせられることもあります(注)。

(注)命令に従わないと、罰則が適用される場合もあります。健康保険法208条および厚生年金保険法102条により6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

社会保険料の追加納付

年金事務所からの是正命令の結果、社会保険料を追加で納付しなくてはならない場合もあります。最長過去 2年にさかのぼって追徴されるので、数百万円単位の負担となることもあり得ます。

例えば、月額20万円の報酬がある人の社会保険料の会社負担分は、1カ月27,090円(平成26年6月現在、協会けんぽ東京支部、40歳未満)となります。この人の加入手続きを怠っていた場合、2年間さかのぼると65万円ほどの負担が発生します。社会保険料の徴収は、会社に請求され、年金事務所は従業員に直接請求することはありません。従業員負担分に関しては、もちろん従業員に支払ってもらうべきものなのですが、現実にはそう簡単にいかないケースもあります。そうなると事業所負担分と合わせて計130万円超の負担となってしまうのです。

復習! 社会保険の加入条件

念のために社会保険の加入条件をおさらいしておきましょう。「パートさんは社会保険に入る必要がない」などと勘違いしている人がたまにいますが、パートやアルバイトなどの短時間労働者も以下の条件に適合する場合は加入しなければなりません。

  • 1日または1週間の所定労働時間が一般社員のおおむね4分の3以上の場合
  • 1カ月の所定労働日数が一般社員のおおむね4分の3以上の場合

【短期雇用の場合は?】

短期雇用の場合でも契約期間の更新により、当初の予定の期間を超えて雇用される場合は、雇い入れ当初から社会保険の加入対象になります。

なお、以上の基準は、あくまで目安の一つです。これに該当しない場合であっても、就労の形態や内容などを年金事務所が総合的に判断して、「常時使用される者」にあると認められれば被保険者となります。

目次へ戻る

調査に応じなかったら

呼び出し調査を無視していると、年金事務所から電話があり、ついには担当官が会社まで調査に来ることになりかねません。会社は年金事務所の調査を拒否することはできないのです。

ただし、指定された日時に出向けない場合は電話などで連絡することにより日程の変更は対応してもらえます。
また、書類の量が多すぎて段ボール箱で何箱にもなるような場合は、年金事務所まで持参するとなるとなかなか大変です。そういった場合は相談すれば、「それでは直近の○カ月分にしましょう」などといった形で、ケースバイケースですが、応じてもらえる可能性はあります。

目次へ戻る

今後に備えて

年金事務所の調査は何年後かに必ずあると考え、普段からパート、アルバイトの働き方を整理し、適正に社会保険の加入手続きを行っていくよう心掛けておく必要があります(注)。
例えば、雇用契約書上「1日6時間以上かつ1カ月15日以上勤務する者」は、必ず社会保険に加入させるなど会社としての加入条件を明確にして運用していくことが重要です。

(注)今後、平成28年10月より社会保険の加入基準が見直され、500人超の企業においては、1週間の所定労働時間が20時間以上など、被保険者の範囲を拡大することが予定されています。

従業員に対しても説明を

社会保険料は、会社と従業員の双方が折半するものです。事業所側が加入を勧めても、「毎月の収入が減るのが嫌だ!」と従業員の側から反対されるケースも考えられます。「今まで加入しなくてよかったのに急に言われても困る」という従業員が出てきて、基準通りにはうまくいかないことも考えられます。
しかし、社会保険は強制加入であり、加入手続きを行うことは事業主の義務となっています。本来、会社や従業員の意思で加入するかどうかを判断することはできないものなのです。従業員にはこのことをしっかりと説明し、納得してもらう必要があるでしょう。
従業員の「嫌だ!」に合わせて社会保険未加入であっても、後に指摘された場合に社会保険料を支払うのは会社なのですから。

目次へ戻る

【お知らせ】がんばる企業応援マガジン最新記事のご紹介