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指摘事項とは
調査の最終日は会社と税理士に調査官から指摘事項をまとめて示されます。指摘事項とは、会社の経理上、解釈ミス・計算ミス・不正などがあったことにより税金が本来より少なく(または多く)計算されている、という税務署からの問題点の指摘のことです。
指摘事項は調査終了後すぐに提示されることが多いのですが、個々の事情により後日になる場合もあります。
指摘事項があった場合
会社側として意見を述べます。受け入れるべきところは受け入れ、主張すべきところは主張することになります。指摘事項については改善し、次回からの税務調査に備えましょう。
指摘事項に納得した場合
修正申告書を提出し、追加の税金を納付します。納得していないのに、その場の成り行きでうっかり修正申告書を提出すると、その後不服申し立て等はできません。修正申告書は納得の上、提出しましょう。
指摘事項に納得できない場合
税務署が職権により更正処分を行います。それを受けて会社側は2カ月以内に不服申し立てを税務署に行います。更正処分とは、税務署が指摘事項について計算し、本来の申告すべき税額を示した「更正通知書」を納税者に交付することです。
何も指摘事項がなかった場合
元の申告に不正や誤りがないということなので、何の処理も発生しません。この場合は、是認(ぜにん)と言われ、税務署から「更正決定等をすべきと認められない旨の通知書(是認通知)」を受け取ります。通知書は後日、郵送されてきます。
以上、大まかに解説しましたが、詳しくは第3回で取り上げます。
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指摘事項 case.1 社員旅行
社長の個人的な領収書を会社の経費にするというのは、指摘事項の中でも、ありがちなケースです。衣服や家族旅行などを経費にしている場合がこれに当たります。以下、具体的なケースを取り上げ、解説していきます。
問題となった社員旅行の概略
社長の改善四郎さんと専務の経理ママ、改善尚未さんの2人だけで行った1泊2万円の温泉旅行の費用を、改善商事では社員旅行として福利厚生費に計上していました。しかし、このときの経費扱いが調査官によって否認されました。
- 社長:「えええ~~! これ、1泊2万円で、そんなぜいたくな旅行と違いますよ。それに家内は専務なんやから、ちゃんとした社員旅行と違うんですか?」
- 中川先生:「社員が行きさえすれば社員旅行になるわけではありません。ちゃんと決まりがあるんです。」
社員旅行については所得税基本通達に下記のような規定があります。
- 旅行の期間が4泊5日以内であること
海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内であること - 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること(注)
(注)工場や支店ごとに行う旅行は、職場ごとの人数の50%以上が参加することが必要です。
- 社員旅行費用は社会通念上一般的に支出される程度の範囲(注)
(注)具体的な規定はありませんが、私見では1人70,000円程度
税務署の見解
- 全従業員の半分以上が参加していない
- 改善四郎さんと改善尚未さんという夫婦だけの家族旅行の延長で行っている
今後の対策
- 所得税基本通達に規定されている範囲で社員旅行を行う
- 旅行の参加名簿を作成し、保存しておく
- 旅行会社が作成した日程表、または社内で作成した日程表を保管しておく
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指摘事項 case.2 寄附行為
この寄附のケースも、社長の個人的な領収書を会社の経費にするという例に当てはまります。
問題となった寄附行為の概略
改善四郎さんの母校である大阪府立高校の野球部は、創立40年目にして甲子園に出場しました。府立高校は野球部の予算が限られているので卒業生、PTAが発起人となって後援会をつくり、出場のための寄附を集めて、形式的に学校に贈呈しました。このとき、会社名義でその後援会に対して行った50万円の寄附を「特定寄附金」(注)として計上した処理が否認されました。
注:国、地方公共団体に対する寄附金のこと。何が特定寄附金に当たるかは国税庁が明示しています。
- 社長:「ええええ~~! 寄附した先は府立高校、つまりは大阪府やのに? ちゃんと領収書もこのとおりあるのに……」
- 中川先生:「『採納』という公式の承認がないと特定寄附金として扱われないんです。」
国または地方公共団体への寄附金は通常、「特定寄附金」に該当するため、全額損金算入となります。ただし、有志で行った特定の高校の特定の使途に充てられた寄附については、地方公共団体がそれを「採納」していないケースがほとんどです。採納というのは地方公共団体がそれを寄附金として正式に認めて受け取るということで、従ってこの場合は特定寄附金とは認定されません。
税務署の見解
府立高校の設置者である地方公共団体が正式に採納していれば、特定寄附金に該当します。ただし、卒業生、PTAがつくった後援会が寄附金を受け取って、部員の交通費や宿泊代に充てているケースについては、後援会がその裁量で支払っているにすぎません。
仮に寄附金の領収書が学校長の名義、運動部の名義で作成されていたとしても、地方公共団体としての正式な採納とは言えず、受領しているのは運動部や後援会だったりするのが実状です。また、地方公共団体が発行する「募金趣意書」もないことから特定寄附金に該当せず、今回のケースは一定の限度範囲しか認められていない「その他の寄附金」で処理することになります。
今後の対策
- 地方公共団体が発行する採納証明書および領収書、特定寄附金募金趣意書を保管しておく
- 上記書類がなければ、「その他の寄附金」で処理する
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指摘事項 case.3 未払従業員賞与
決算期前後の取引で、本来決算期に上げていなければならない取引が翌期に計上されていたり、逆に翌期に上げなければいけない取引が決算期に上がっていたりすることを総称して「期ズレ」と言います。 税務調査で必ずチェックされる「期ズレ」は次のような従業員賞与でも問題となります。
問題となった未払従業員賞与の概略
改善商事は従業員に決算賞与を支給しました。改善商事の決算日は12月31日なのですが、支給したのは平成27年1月30日。しかし、社長の改善四郎さんが保管していた賃金管理ファイルから賞与額決定通知書が発見されます。これをチェックした税務署から、「未払従業員賞与は今期(平成26年度)の経費には該当しない」として否認されました。
- 社長:「ええええ~~! やっぱりあかんかったか~……」
- 中川先生:「なんですか、それ! 通知という行為が実はポイントなんですよ。」
税務署の見解
今期の未払決算賞与については、支給をする全ての従業員に対して、決算日である平成26年12月31日までに支給額を通知していなければなりません。けれども、発見された下記の賞与額決定通知書によると、従業員である鈴木さんに対して決算賞与額の通知が行われたのは平成27年1月25日であったことが分かりました。従って、未払決算賞与は今期の損金に算入することはできません。
【従業員賞与の損金算入時期】
| 賞与の種類 | 損金算入時期 |
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原則 | 従業員賞与 | その支払いをした日の属する事業年度 |
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例外 | 就業規則等により定められる支給予定日が到来し損金経理している賞与(使用人にその支給額を通知している場合に限る) | 下記のいずれか遅い日の属する事業年度 その支給予定日 その通知をした日
|
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未払決算賞与 下記の全ての要件に該当する場合には未払賞与として通知した日の属する事業年度で処理することができます。 支給をする全ての使用人に対して各人ごとに支給額を通知すること 通知をした支給額を、通知をした全ての使用人に対し、通知した日の属する事業年度終了の日の翌日から1カ月以内に支払うこと 通知した日の属する事業年度において損金経理をしていること
| 通知した日の属する事業年度 |
損金算入時期については、従業員に対する賞与は原則、支給日の属する事業年度となります。ただし例外もあって、法人税法で上記の表のように規定されています。
今後の対策
- 全ての従業員に対して、決算賞与額の通知を事業年度末までに行う
- 従業員からは決算賞与額の通知を受けた旨を確認するサインをもらい、通知日と共にまとめて保管するのがベスト
- 決算賞与は、通知した日の属する事業年度終了の日の翌日から1カ月以内に支払う
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指摘事項 case.4 棚卸資産
問題となった棚卸資産の概略
改善商事は、平成26年12月25日に大阪商事からコンパスと急須の納品を受け、現金で支払いました。その旨は当日、仕入帳に記録しています。そして納品された商品は倉庫に搬入せず、事務所の隅に保管していました。その後、改善商事は、平成26年12月25日から決算日である平成26年12月31日までの間にコンパスと急須を販売していませんでした。また事前に棚卸資産の評価方法の届け出書も提出していませんでした。このため税務署から棚卸表の計上漏れと計上単価の不備を指摘されました。
- 経理ママ:「ええええ~~! 今期にちゃんと支払いも済ましてるのに今期の経費にならへんの~~~?」
- 中川先生:「ちゃんとルールに従ってやらなきゃいけないんですよ。」
ルールというのは購入した商品などの在庫品、すなわち棚卸資産は適正に棚卸表に記載されたものだけが損金として計上できる、ということです。
【棚卸資産とは】
法人税法上に規定する棚卸資産とは次に挙げるものを言います。
商品・製品(副産物・作業くずを含む)
半製品
仕掛品(半成工事を含む)
主要原材料
補助原材料
消耗品で貯蔵中のもの
その他上記に準ずるもの
上の例のコンパスと急須は改善商事の主力販売商品であるため、上記1の「商品・製品(副産物・作業くずを含む)」に該当します。
【棚卸資産の評価】
次に棚卸資産の評価単価を算定する必要があります。
法人税法上に規定する評価額の算定方法は下記のとおりです。
これらの方法については税務署に対して届け出等をすることにより会社が選択できます。
事前に届け出等の手続きを行わなかった場合には「最終仕入原価法」により評価することになります。最終仕入原価法とは、「期末から最も近い時期に仕入れた棚卸資産の一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法」です。
棚卸資産の評価方法 |
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原価法 | 個別法 |
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先入先出法 |
総平均法 |
移動平均法 |
最終仕入原価法 |
売価還元法 |
低価法 | 上記原価法で評価した価額と事業年度終了時における価額とのうちいずれか低い価額で評価する方法 |
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税務署の見解
改善商事は、平成26年12月25日から平成26年12月31日(決算日)までの間にコンパスと急須を外部に販売した形跡はありませんでした。一方、棚卸明細書には平成26年12月25日に株式会社大阪商事から仕入れたコンパスと急須が入っていませんでした。
今後の対策
- 倉庫以外に保管している棚卸資産があれば期末に個数を数える
- 委託販売を行っている場合には商品の委託先にも棚卸作業を求める
- 商品単価については、最終仕入れ原価法の場合、最後に仕入れた請求書を確認する
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