2015年 4月 1日公開

【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

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「契約社員の雇用管理」の巻

テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ

近年では雇用形態が多様化し、契約社員のように有期契約で雇用することも珍しくありません。しかし、雇用にまつわるルールを知らないまま採用してしまったことで労使トラブルも増えています。そこで今回は「契約社員の雇用管理」について解説します。

「契約社員の雇用管理」の巻

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労働契約書の作成

「労働契約書」とはどういうものなのでしょうか。同じような意味で使われる「雇用契約書」という言葉もあります。これは背景となる法律が、前者は労働基準法、後者は民法であるために用語が違っているだけで、実際上はほぼ同じと考えてよいものです。(注)ここでは便宜上、労働契約書ということで統一します。

(注)同居親族のみの事業やお手伝いさんなどのように、労働基準法の適用範囲外である場合は労働契約とはなりません。

労働契約とは

労働契約とは、「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」(労働契約法第6条)と定められています。つまり労働契約は、当事者の「合意」により成立し、書面を取り交わす義務は課せられてはいません。
このため、労働契約書なんて見たことない、そんな書類は交わしていないなどという経営者、労働者が多く、こうした実態がトラブルを生む原因になっているのが事実です。トラブル防止のためにはまず労働契約書を作成することが第一歩となります。

労働契約書の作成に当たって

労働契約書には以下のような労働条件について定める必要があります。 中でも1~6の太字の部分(昇給に関する事項を除く)は書面による明示が義務付けられています。

<労働条件の明示事項>

  1. 労働契約の期間に関する事項
  2. 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
  3. 就業の場所および従事すべき業務に関する事項
  4. 始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
  5. 賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金を除く)の決定、計算および支払いの方法、賃金の締め切りおよび支払いの時期ならびに昇給に関する事項
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  7. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払いの方法ならびに退職手当の支払いの時期に関する事項
  8. 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与等ならびに最低賃金額に関する事項
  9. 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
  10. 安全および衛生に関する事項
  11. 職業訓練に関する事項
  12. 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
  13. 表彰および制裁に関する事項
  14. 休職に関する事項

労働契約書を作成したら、それを説明すること

労働トラブルが発生した際に従業員がよく言うセリフがあります。

「就業規則なんて見たことない」
「労働契約書についても、ここにサインしてと言われただけ」
「そんなルール聞いたこともないし、知らない」

このように、せっかく労働契約書を作成しても、その内容が従業員に伝わっていなければ意味がありません。契約に当たっては、従業員一人一人に、労働条件を丁寧に説明することが肝心です。説明して理解と納得を得ること。そうすれば従業員の信頼が得られ、トラブル防止につながります。労働契約は最初が肝心なのです。

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有期労働契約の問題点

ここでは一般的に「契約社員」という言葉に代表される「有期労働契約を結んだ労働者」の雇用管理について解説します。

契約社員とは

「契約社員」とは、一般的に企業との間で、1年契約、6カ月契約など期間の定めのある労働契約、すなわち「有期労働契約」を結んだ労働者を言います。契約社員のほかに、臨時社員、期間社員、パート、アルバイト、嘱託など、さまざまな呼び方がありますが、いずれも法的な呼称ではありません。有期労働契約を結んでいれば、呼称にかかわらず、労働契約法の下で一定の権利が保障されています。

契約社員は、

  1. 月給制あるいは日給制+残業代+諸手当となるケースが比較的多い
  2. 正社員と同様、フルタイムでの勤務を求められる場合が多い
  3. フルタイム勤務ということで、社会保険に加入することが多い

といったイメージですが、「有期」という点を除けば正社員と雇用形態はほとんど変わらず、労働契約を結んでいるという点も同じです。契約を結ぶということは書面にサインしてはんこを押す行為だと想像している人も多いのではないでしょうか。しかし、雇用管理上はさまざまな問題点があります。

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契約社員の雇用管理上の問題点

契約社員は「有期」と言いながらも、実際は長期にわたり継続して契約更新されているケースが多く見受けられ、このことがトラブルの原因ともなっています。

労働契約の更新とは

直前の労働契約が満了することに伴って、あらためて労働契約を締結することです。契約更新は、理想を言えばプロ野球選手の契約更改と同じで、「これまで」を振り返り、「これから」の期待を語る場であるべきです。「更新」とはいえ、あらためて労働契約を結ぶのですから、ここでも「最初が肝心」であることに変わりはありません。

「契約更新」が招くトラブル

契約社員(有期契約労働者)については「契約更新」についてのトラブルが増えています。期間の定めがあるにもかかわらず何度も更新を繰り返し、長期間にわたって雇用されているケースでは、次回の更新を会社が拒否したときに、それが解雇になるのか契約期間の満了、いわゆる雇止め(注)になるのかで双方の言い分がぶつかる場合も少なくないからです。
そこで、近年、雇用の安定を図るための労働契約法の改正などが行われています。

(注)契約更新をせずに期間満了をもって退職させること

改正労働契約法の三つのルール

1. 無期労働契約への転換(第18条)

有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申し込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールです。

2.「雇止め法理」の法定化(第19条)

最高裁判例で確立した「雇止め法理」が、そのままの内容で法律に規定されました。一定の場合には、使用者による雇止めが認められないことになるルールです。

3.不合理な労働条件の禁止(第20条)

有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルールです。

厚生労働省「労働契約法改正のポイント」より

これらの法改正を考慮すると、契約社員の安易な雇止めはトラブルの原因になり、できれば避けたいところです。労働契約を長期間にわたって反復更新している場合、企業側の一方的な都合による雇止めには、相当の理由が明示できるようでなければならないでしょう。

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契約社員の採用に当たって

契約社員を採用する場合は、本人にまず「有期」という期間を限定した労働契約であることを本人に対して明確に伝える必要があります。
そのうえで、期間を更新する可能性があるとしたら、どういう場合は更新して、どういう場合は更新できないのか、その判断基準についても明確に示さなければなりません。

労働基準法では、以下の事項を明示して書面によって交付することが義務付けられています(第15条、労働基準法施行規則第5条)。

<有期労働契約で明示すべきこと>(前述の「労働条件の明示事項」に加えて)

  1. 契約期間の明示(期間の定めの有無、定めがある場合はその期間)
  2. 更新の有無の明示(自動更新する、更新する場合がある、契約更新はしないなど)
  3. 更新の基準の明示(契約期間満了時の業務量を勘案して判断する、労働者の勤務成績、能力、態度を勘案して判断する、会社の経営状況により判断するなど)

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契約期間についての注意

契約期間中は解雇できない

契約期間中は「やむを得ない事由がある場合」以外は解雇できません。労働契約書に記載した契約期間は、労働者と使用者の「合意」によって決定したものです。さらに契約期間中の雇用は保障されるべきだという考え方から、「やむを得ない事由がある場合」についても、かなり限定的に解釈されています。このため、よほどの理由(注)がない限り、契約期間中の解雇は難しいと考えておいた方がよいでしょう。

(注)解雇権の濫用法理、すなわち「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」よりも狭い範囲と考えられます。

適正な契約期間であること

途中で解雇するのが難しいなら、短い契約期間にして、これを繰り返し更新すればよいのではという考え方も出てくるかもしれません。しかし、労働契約法第17条第2項により「必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう」配慮することが求められています。契約更新の回数そのものを減らすことが、トラブルの減少につながると考えられているのです。
このため、短期間の有期労働契約を反復更新することは避け、本来業務上必要とする期間を契約期間とすることが求められています。従って、必要以上に契約期間を短くすることは避けなければなりません。継続して業務は存続するにもかかわらず、短い期間で契約するようなことがないよう配慮しなければならないのです。

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契約社員の5年ルール

先に記したとおり、労働契約法の改正により、有期労働契約の適正な利用のためのルールが整備されました。その大きなものが「契約社員の5年ルール」と呼ばれるもので、2013年4月1日から施行されています。

無期労働契約への転換義務

契約社員については、契約期間の満了時に雇止めされて「退職」となるケースがある一方、労働契約が反復更新され、有期労働契約のまま長期間にわたって雇用が継続されるケースも数多く見られます。この場合、契約社員は、いつ雇止めとなるか分からず不安な状況に置かれたままになってしまいます。
このような雇用の不安定性を解消するために、有期労働契約が通算で5年(注)を超えて反復更新された場合は、契約社員の申し込みにより期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換させる義務が使用者に課せられています(労働契約法第18条)。

(注)大学等および研究開発法人の研究者、教員などは10年。
5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く高度に専門的な知識などを有する契約社員は最長10年、定年後に有期契約で継続される者については継続雇用期間中は無期転換申込権が発生しません(2015年4月1日改正)。

「5年ルール」が適用されるのは

このルールは、2013年4月1日以後開始する有期労働契約から適用されます。従って、2013年3月31日以前に開始した有期労働契約は通算しません。
例えば、2012年4月1日から開始する労働契約を1年ごとに反復更新しているとすれば2018年4月1日以降に締結する労働契約から、その従業員には無期転換申込権を行使する権利が生じます。

この無期転換申込権は、通算契約期間が5年を超えることとなる有期労働契約の契約期間の初日から契約期間満了日までの間に行使することができるものです。例えば、3年契約を更新している場合は、図1のとおり一度契約を更新した時点で通算契約期間が5年を超えることになるのです。

図1

5年ルールの図解

契約社員の5年ルール

なお、無期転換申込権が生じている有期労働契約の契約期間中に権利を行使しなかった場合でも、再度有期労働契約が更新された場合は、新たに無期転換申込権が生じます。この場合は、図2のように更新後の有期労働契約が満了するまでの間に行使することが可能です。

図2

更新時に無期転換申込権を行使しなかった場合の5年ルールの図解

更新時に無期転換申込権を行使しなかった場合の契約社員の5年ルール

無期転換申込権を行使されたら

従業員がこの無期転換申込権を行使すると、使用者はこの申し込みを承諾したものとみなされます。その場合の労働条件は、原則として、現に締結している有期労働契約の労働条件と同一(契約期間は無期としたうえで)となります。
もちろん、この無期転換申込権を行使しないことや放棄することを契約更新の条件とすることは認められません。

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雇止めのルール

雇止めには一定のルールが定められています。使用者はこのルールに反して一方的に雇止めをすることはできません。

雇止めの予告義務

雇止めをするときは、以下の場合については、少なくとも契約期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければなりません。

  1. 3回以上更新されている場合
  2. 1年以下の契約期間の有期労働契約が更新または反復更新され、最初に有期労働契約を締結してから通算して1年を超える場合
  3. 1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合

雇止めの理由について

長期にわたって契約を反復更新しているのに、雇止めの理由が「能力不足」だけでは筋が通りません。当然ながら雇止めをするには客観的に適切と認められる理由と適正な手続きが求められます。

証明書の交付義務

従業員が雇止めの予告後、または退職後に雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付する義務が使用者に課せられています。
また雇止めに当たっては、客観的な理由を明示できるように準備をしておかなければなりません。

雇止めの理由の説明

雇止めの際の理由として挙げられるのは「能力不足」や「勤務態度不良」が一般的ですが、これは誰しも言われたくないこと。言われた側にしてみれば反発したくなる気持ちになることも多いと言えます。従って、こうした理由を納得してもらうためには、いつのどんな行為がそれに該当するのかを明らかにしたうえで、その行為に対して再三指導、改善を求めているにもかかわらず改善されなかった事実を具体的に示す必要があります。

無期労働契約とみなされるケース

以下の場合、有期労働契約は形式的なものとみなされる可能性があります。「有期」の意味が薄れてしまい、場合によっては無期労働契約とみなされます。となると、「雇止め」=「解雇」となってしまうのです。解雇となると、これを不服とする労働者との間で、解雇無効の争いが生じることがあります。

  1. 契約満了日が過ぎているにもかかわらず、更新手続きをせずに従前どおり労働させている
  2. 「条件も変わらないし、いつもと同じように契約書にサインしておいて」などと契約更新を済ませてしまう

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契約更新前の面談

労働契約において大切なことは労使間のコミュニケーションです。契約更新は雇用する側・される側が互いの要望や限界について率直に意見を交わすための絶好の機会だと考えましょう。

契約更新・雇止めの前にコミュニケーションを

契約更新・雇止めの前にはしっかり面談を行い、以下のことを踏まえ、労使双方が納得したうえで契約を更新したいものです。

  1. 前年度を振り返ること
  2. 次年度に従事する業務や役割を伝えること
  3. 課題点や問題点があれば改善を求めること
  4. 従業員の意見や希望を聞くこと

面談のタイミング

更新前の面談のタイミングは、雇止めという選択肢も考えられることから、契約満了日の2カ月ほど前から面談を開始したいところです。最終的な判断は、遅くとも契約満了日の30日前までには伝えなければならないのですから。

「有期」で採用する意味とリスク

契約社員などの有期契約労働者が安心して働き続けることができるようにするために労働契約法が改正されたことで、有期労働契約は極めて堅固に保障されるようになりました。経営者は、安易に「有期」で採用することは許されません。
有期労働契約を締結するに当たっては、「有期」であることの必要性、必要とする期間などを十分検討して契約期間を定める必要があります。考えなく人を採用したり、惰性で契約更新していると、不必要な人材を将来にわたって抱え込んでしまうリスクに発展する可能性もあります。逆に有能な人材を逃してしまってもいけません。この際、あらためて「有期」で労働者を雇用する意味について考え直してみてはいかがでしょうか。

有能な人材は無期労働契約に

ある程度長期にわたって雇用する可能性が高いのであれば、当初は有期労働契約として採用した後、必要な人材であると判断したときには無期労働契約への転換を検討することが望ましいでしょう。この場合に、「有期」のまま通算5年を超えてしまわないように「有期」としての契約期間の上限を最長5年以内としておく必要もあります。

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