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2015年 7月 1日公開
【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与
【アーカイブ記事】以下の内容は公開日時点のものです。最新の情報とは異なる可能性がありますのでご注意ください。
テキスト: 梅原光彦 イラスト: 今井ヨージ
中堅・中小企業でも海外での勤務が当たり前になりつつあります。では、海外駐在員を派遣する場合、社会保険についてはどのように扱えばよいのでしょうか。今回は原則的な事柄についてご説明します。
目次
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社会保険(健康保険、厚生年金保険、労働者災害補償保険、雇用保険)の適用を受けるのは原則として日本国内に所在する事業所です。従って、国内企業であったとしても、日本国外で設立された支社等は社会保険の適用事業所とはなりません。例えば、東京に本社を置く企業が大阪と札幌とソウルに支社を置いた場合、社会保険の適用事業所となるのは東京、大阪、札幌だけで、ソウル支社については社会保険が適用されません。
労働者が社会保険の適用を受けるかどうかは、日本国内の事業所との使用関係があるかどうかで判断されます。「使用関係があるかどうか」の判断はすなわち、日本国内の事業所から給与の支払いがあるかどうかで決まります。
日本の社会保険資格は継続します。給与の一部のみが出向元から支払われる場合は、原則として国内給与を基に社会保険に加入するため、国内で勤務していたときよりも本人の保険料負担額は減少することがあります。
給与を全額現地法人から社員に支払う場合は、出向元との雇用契約は継続していないとみなされて「使用関係」が認められないことがあります。この場合は健康保険、厚生年金保険、雇用保険等の被保険者資格は喪失します。出向の前に管轄の年金事務所へ確認しておく必要があります。
転籍出向、現地採用については以下のとおりです。
転籍出向の場合、出向元の国内企業との雇用契約を終了させて出向先の現地法人等との雇用関係のみとなります。従って、在籍出向で出向元から給与を得ていない場合と同様に、日本での被保険者資格は喪失します。この場合、労災保険の特別加入もできません。
現地採用者については、日本から出向する、いわゆる海外派遣には該当しないため、社会保険の適用はありません。あくまでも現地の法令に準じて現地の社会保険等に加入しなければなりません。たとえ現地採用する者の国籍が日本であっても同様の扱いとなります。
ここからは種類別に海外駐在員の社会保険の扱いについてご説明します。
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健康保険の被保険者は「適用事業所に使用される者」と定められています。すなわち出向元の国内企業と出向者との間で使用関係(注)が継続している限りは海外駐在員も被保険者となります。つまり海外勤務になったことをもってただちに被保険者資格を喪失することはありません。
(注)「使用関係」についての明確な定義はありませんが、実務的には賃金の支払いの有無や労務管理の有無などにより判断されます。
日本の「健康保険」に加入したい場合は、下記の選択が可能です。ただし、いずれの場合も加入には条件があります。
健康保険の被保険者であっても、現地の病院では健康保険法は適用されないので日本国内のように健康保険被保険者証が使えません。従って、いったん現地で全額自己負担したうえで「海外療養費」として健康保険組合などの保険者に請求することになります。ただし、支給額は、日本国内の保険医療機関で、同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額(実際に海外で支払った額の方が低いときはその額)から自己負担相当額(患者負担分)を差し引いた額をとなります。そのため、海外で支払った医療費の総額から自己負担相当額を差し引いた額よりも、支給額が大幅に少なくなることがあります。 なお、外貨で支払われた医療費については、支給決定日の外国為替換算率(売レート)を用いて円に換算し、支給額を算出します。
海外療養費の支給申請には、次の書類が必要になります。
a~cは日本国内の社会保険事務所や健康保険組合にあります。海外赴任時に持参するとよいでしょう。
厚生年金も健康保険と同様に使用関係が継続しているのであれば被保険者となります。この場合、被扶養配偶者が国民年金第3号被保険者となっているのであれば、海外勤務後も引き続き第3号被保険者となることができます。
日本と社会保障協定を締結している国(注1)に社員を赴任させる場合は、赴任期間が5年以内であり、かつ、その者が日本の年金制度に加入していることを条件に、相手国の年金保険料等を免除してもらうことができます。逆に社会保障協定が締結されていない国に出向する場合は、二重で年金に加入することになります。
(注1)2014年10月現在、社会保障協定の発効状況は以下のとおりです。日本は18カ国と協定を署名済みで、うち15カ国分は発効しています(未発効の3カ国については順次国内の手続きを経たうえで効力が生じます)。「保険料の二重負担防止」「年金加入期間の通算」は、日本とこれらの国の間のみで有効となっています。なお、イギリス、韓国およびイタリアについては、「保険料の二重負担防止」のみです。
社会保障協定の発効状況(2014年10月現在)
国民年金に任意に加入することができます。
加入要件
(注2)国内に本人に代わって納付してくれる協力者がいなくても日本国民年金協会に手続きの代行を依頼できます。
社員として厚生年金保険に加入することはできませんが、国民年金には任意加入することができます。将来的に日本に帰国して生活するようなビジョンがあるのであれば、国民年金の任意加入をするとよいでしょう。
労働者災害補償保険(労災保険)については、原則として対象になりません。出向先の国に労災保険の代わりとなる保険制度がある場合にはそちらで保護を受けることとなります。
赴任先の国によっては業務上災害に対する補償制度がそもそもない場合や、あったとしても非常に給付水準が低いことも考えられます。また、通貨そのものの価値や生活水準の違いから、被災後に日本で生活するには不十分な給付になることも考えられます。従って、業務上災害に関しては、労災保険の特別加入をするか、民間の保険に加入しておくことが望ましいと言えます。
なお、海外出張の場合は、海外勤務時も労災保険の対象になっているため、特別加入の手続きは必要ありません。
海外出張者に関して何ら特別の手続きを要することなく、所属する国内の事業所の労災保険により給付を受けられます。
海外出張者とは
単に労働提供の場が海外にあるに過ぎず、国内の事業所に所属し、その事業所の使用者の指揮に従って勤務する労働者。
海外派遣者に関して特別加入の手続きを行っていなければ、労災保険による給付を受けられません。
海外派遣者とは
海外の事業所に所属して、その事業所の使用者の指揮に従って勤務する労働者(使用者本人も含む)。
「海外出張者」と「海外派遣者」のどちらに当たるかは、勤務の実態によって総合的に判断されることになります。それぞれ、以下のような実態例が挙げられます。
「海外出張」と「海外派遣」の比較表
労災保険には「特別加入」という制度があります。この特別加入を事前に申請しておくことにより、海外事業所での勤務中の災害に対しても給付を受けられます。実際に労災事故が発生した場合、特別加入申請時に記載された業務内容を基に業務上かどうかが判断されます。
下記に該当する人については、日本国内の企業から海外派遣され、一部でも国内企業から給料が支払われていれば加入できます。
中小事業と認められる規模
保険料は、保険給付計算の基となる給付基礎日額(3,500円~25,000円)によって異なり、年間3,831円~27,375円となります。
健康保険がいったん全額を個人負担しなければならないのに対して、海外旅行傷害保険(注)は保険会社が契約を結んでいる病院であれば現金不要で治療を受けられます。
治療費が高額になる欧米などでは特に海外旅行傷害保険が重視されています。通常は企業が包括契約で加入し、個人が加入するケースはあまりありません。会社の命令で赴任するため、個人に不利益がないようにとの配慮から、社会保険の不足分を民間の保険で埋めるという発想で利用されます。
(注)海外旅行傷害保険は、持病を含む既往症、妊娠・出産費用、歯科治療については対応していないことが多く、これらは健康保険で賄うことになります。
保険料は1人につき年間十数万円~二十数万円(保険会社・契約内容によって異なります)。
介護保険の被保険者は、原則として「国内に住所を有する40歳以上の者」となっています。従って、海外勤務をする際に「介護保険適用除外届」を保険者に提出すれば、海外に転出した月から介護保険料は、発生しません。ただし、国内に住民登録を残したままの場合は、適用除外にはならないため保険料が発生します。
雇用保険は、出向元である国内の事業主と出向者との間に雇用関係が継続していると認められる場合には引き続き被保険者となります。
なお、健康保険や厚生年金保険と異なり、賃金支払いの実態がないような出向であっても、在籍出向として社内に籍さえ残っていれば被保険者資格を喪失することはありません。例えば、社員個人の理由で長期間海外に留学する場合で、社内規定上は私的休職として籍を残しておくが、賃金の支払いが一切ないようなケースでも、雇用保険は「雇用関係」が継続しているものとして被保険者資格を喪失しません。
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