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約款とは?
約款とは、銀行、保険、通販、電気やガスの契約など、事業者が不特定多数の消費者と画一的な取引をする際、事業者側が用意する定型的な契約条件のセット(総体)のことをいいます。
約款の意義
通信販売でも銀行預金でもソフトウェアのダウンロードでもそうですが、事業者と顧客が事前に契約内容を一つ一つ検討し、労力を費やして交渉することが考えにくい分野があります。こうした取引の場合、あらかじめ約款という形でその細目を定めておき、これをそのまま契約内容とすることが、当事者双方にとって合理的かつ効率的となるのです。大量の取引を合理的、効率的に行える、それが約款の意義です。
約款の問題点
多数の消費者を相手にするため定型的な約款を作成して同意を求めるという手法そのものの必要性や、個別に消費者の同意を得て変更するのは現実的でないので一方的に変更したいという事業者側のニーズは否定できません。
しかし、これまで約款と呼ばれてきたものは……
- 約款の個別の条項について合意したわけではないのになぜそれに拘束されるのか不明確であること
- 中には消費者に一方的に不利な条項も散見されたこと
- 事業者側が一方的に変更できるとの条項も散見されたこと(なぜ事業者が一方的に変更できるのか明確でないこと)
といった理由から消費者との間でトラブルが生じるリスクを抱えていました。そこで今回の民法改正で、約款について新たなルールが設けられることになったのです。
改正の背景
民法が制定されたのは明治29年(1896年)のことです。ですがその民法には約款についての規定は存在せず、法的に不安定な状態が続いてきました。また、近年はインターネット取引が普及、消費者保護が重視されるなど社会の仕組みや価値観が大きく変化しています。そうした背景から、約款についてのルールを明確化する改正が行われました。
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新しい約款ルール
改正民法は、事業者の便宜に配慮して、約款が契約内容に組み込まれるための条件を比較的緩やかに設定しています。例えば、インターネット通販で「利用規約(約款)に同意する」ボタンをクリックすれば原則としてその約款は契約内容に組み込まれるといったことです。しかし他方で、「消費者に一方的に不利な条項は無効となる」ということも明記し、消費者保護とのバランスを図っています。また、改正民法では、事業者が約款を変更できる条件もルール化しました。
定型約款制度の創設
大量の同種取引を迅速・効率的に行うために作成・利用されてきた約款ですが、これまでは法律上規定がなかったため、改正民法では新たに「定型約款」として創設し、その定義と適用範囲を次のように定めました。
1)定型約款の定義
改正民法は「定型約款」を次のように定義付けました。
「定型取引」において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体(改正民法548条の2第1項)。
定型約款の要件は二つです。
A.「定型取引」において用いられること
「定型取引」とは「ある特定の者(主に事業者)が不特定多数の者を相手方として行う取引で、その内容の全部または一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なもの」をいいます。例えば、銀行に預金する行為(預金取引)などがこれにあたります。
B.契約内容とすることを目的として「定型取引」の一方の当事者が準備していること
銀行に預金するときに提示される「普通預金規定」や、ソフトウェアをダウンロードするときに同意を求められる「利用規定」のように、「定型取引を行う際、取引当事者が守るべきルールとすることを目的として作られたもの」というのが定型約款の第2の要件です。
定型約款の具体例
- 鉄道・バス・航空機などの旅客運送約款
- 電気供給約款
- 保険約款
- インターネットの利用規約
- 普通預金規定
注意! 約款≠定型約款
改正民法はこれまで「約款」と呼ばれてきたもの全てに適用されるわけではなく、この定義に妥当する約款(定型約款)についてのみ適用されることに注意してください。
定型約款に該当しない契約書
一般的な事業者間取引での契約書のひな型や、就業規則、労働契約書は定型約款に該当しません。言い換えれば、定型約款の要件である定型取引はいわば没個性的な取引だということです。他方、労働契約は相手の個性に着目して個別になされる取引なので定型取引には当たりません。
なお、事業者間取引でも定型取引に当たる場合と当たらない場合があるので注意が必要です。
2)「定型約款の内容」=「契約内容」となる条件を規定
定型約款の内容が契約内容であるための条件は次のように定められています。
- 当事者の間で定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき
- 定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ顧客に「表示」して取引を行ったとき
上記いずれかに当たる場合、当事者は個別の条項について合意をしたものとみなされます(改正民法548条の2第1項)。すなわち、条件のいずれかを満たす場合には、定型取引を行う当事者は、定型約款に従わなければならないということになります。
この「みなし合意」の要件として、定型約款準備者(企業側)が相手方(消費者側)に定型約款の内容を示すことは必要とされていません。不特定多数者との取引であるため、定型約款を個別に開示することは現実的に不可能だからです。従って消費者が定型約款にどのような条項が含まれるのかを認識していなくても、定型約款の条項が契約内容になり、契約当事者はその条項を守らなければなりません。ただし、定型約款準備者(事業者)が定型約款の開示を求められた場合には開示義務があります。
他方で、消費者保護の観点から、信義則に反して顧客の利益を一方的に害する不当な条項はその効果が認められません(改正民法548条の2第2項)。
3)定型約款の変更が可能となるための要件を規定
本来であれば、消費者との個別の合意がなければ約款の内容は変更できないはずです。しかし、それではルールが厳格すぎて、不特定多数者と取引をする事業者にとって現実的でないことはこれまで述べてきたとおりです。そこで、今回の民法改正では、どんな場合なら消費者との個別の合意なくして定型約款の変更が可能なのか、新たにルールが定められました。すなわち、以下の場合であれば、事業者は消費者との個別の合意なくして定型約款の変更が認められます(改正民法548条の4第1項)。
- 変更が顧客の一般の利益に適合する場合
- 変更が契約の目的に反せず、かつ、変更に係る諸事情に照らして合理的な場合
変更が合理的であるかどうかは、
- 変更の必要性
- 変更後の内容の相当性
- 変更を予定する旨の契約条項の有無やその内容
- 顧客に与える影響やその影響を軽減する措置の有無
などに照らして判断されます。変更の合理性について法的な争いになった場合は、上記の項目が検討されるものと考えられます。
事業者は、上記の条件のいずれかに当たる場合には、定型約款を変更する旨および変更後の定型約款の内容ならびにその効力発生時期をインターネットなどにより周知することで変更を実施することができます。
経過規定
改正民法施行日前に締結された契約(約款)にも、改正民法のルールがさかのぼって適用されます。ただし、経過措置として、平成30年(2018年)4月1日から、施行日前(平成32年<2020年>3月31日まで)に、反対の意思表示をすれば、改正民法の適用を排除することが可能です(改正法附則第33条第2項・第3項)。もっとも、これまでに述べてきた改正経緯からすれば、事業者としては改正民法が新設したルールにできるだけ従うことが望ましいといえるので、反対の意思表示を行うかどうかは慎重な検討が必要でしょう。
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まとめ
「約款」という用語は、実際の契約において広く使われてきたのですが、その意味については明確な定義がなく、民法にも規定がなかったため、今回の改正で制度化されることになりました。
これを機に、事業者は定型約款における契約内容が適正かどうか、再度確認する必要があります。特に一方的に消費者に不利になるような条項は無効になるリスクがあることにあらためて注意しておきましょう。
ただ、今回の改正においても要件の解釈として明確でない面も残っています。今後の事例や議論の蓄積を見つつ、専門家の意見を聞きながら対応するのがよいでしょう。
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