2019年 8月20日公開

【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

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「残業時間の上限規制について」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

働き方改革の一環として、時間外労働の上限規制が始まりました。中堅・中小企業の場合は2020年4月からの導入となりますが、早めに備えておくことが肝要です。そのための基本ルールと方法について解説します。

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残業時間の上限規制(改正の前と後)

「働き方改革関連法」(2018年7月成立)が、2019年4月に施行されました。その一環として、改正労働基準法による、残業時間の上限規制が始まることになります。

残業、すなわち時間外労働の上限規制は、以前からありました。ただし、それは労働基準法ではなく「限度基準告示」に定められていたため法的拘束力がありませんでした。会社と労働者の間で定める「36協定」といわれる合意さえあれば、どんな長時間の延長労働も定めることが可能だったのです。しかし、今回の改正で、法律にしっかりと上限が組み込まれることとなりました。

「36協定」の詳細は、「労働時間の管理」の巻をご覧ください。

改正前後の違いは以下のとおりです。

【改正前】→基準はあるものの法的拘束力なし

「1日」「1日を超えて3カ月以内の期間」「1年」について残業できる時間を36協定で定めることとしていました。また、法定休日に関する事項として、「1カ月における法定休日に労働できる日数の上限」とその場合の始業・終業の時間(もしくは労働時間)を定めることとしていました。

【改正後】→「1カ月45時間」「1年360時間」が限度

「1日」「1カ月」「1年」について残業できる時間を定めることとし、「1カ月45時間」「1年360時間」を限度時間とすることが法律に明記されました。

 改正前改正後
特別条項上限なし上限は単月100時間/
複数月平均80時間
(休日労働も含む)
時間外労働36協定
月45時間/年360時間
(限度基準に法的拘束力なし)
36協定
月45時間/年360時間
(限度基準に法的拘束力)
法定労働時間1日8時間/1週間40時間1日8時間/1週間40時間

「特別条項」の場合も上限を設定

また、「臨時的な特別な事情」が生じ、この限度時間を超えて時間外労働を行わせる場合(特別条項)であっても、「1年720時間」を上限とします。

なお、特別条項の適用を受けるかどうかにかかわらず、時間外労働と休日労働の合計は常に、

  1. 1カ月100時間未満
  2. 2~6カ月までの複数月の平均で80時間以内

としなければなりません。

特別条項による時間外労働は1年間に6回まで

特別条項で時間外労働を行わせる回数は、1年間に6回までとなっています。
例えば、1カ月の時間外労働が44時間である場合であっても(特別条項の対象でなくても)、休日労働は56時間未満に抑えなければ法律違反となります。

限度時間と法定休日労働時間

限度時間と法定休日労働時間の関係は下の表のとおりです。法定休日労働時間を含む場合、含まない場合があるので注意してください。

 限度時間法定休日労働時間
原則1カ月45時間 1年360時間含まず
1カ月100時間未満含む
2~6カ月平均で80時間以内含む
特別条項
年6回まで
1年720時間含まず
1カ月100時間未満含む
2~6カ月平均で80時間以内含む

違反した場合

法律違反に対しては「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられることがあります。

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36協定の作成にあたって

36協定については、2019年4月(中堅・中小企業は2020年4月)以降に締結するものから新しい書式で所轄の労働基準監督署長に届け出ることになります。中堅・中小企業への上限規制適用は1年間猶予されていますが、この経過期間中であっても新書式による届け出は可能です。

作成支援ツールを活用

36協定の作成にあたっては厚生労働省から「36協定作成支援ツール」が公表されています。書式(注)のダウンロードもできるので活用するとよいでしょう。

  • (注)新書式において特別条項付き36協定を締結する場合には書式が異なります。

スタートアップ労働条件「作成支援ツールについて」(厚生労働省のWebサイトが開きます)

旧書式と新書式の違い

新旧書式の主な違いは以下のとおりです。

  1. 時間外労働+休日労働の合計とする場合
    「1カ月100時間未満、2~6カ月までの複数月の平均で80時間以内の要件を満たすこと」にチェックを入れること。
    36協定届の記載例(厚生労働省のWebサイトが開きます)
    36協定届の記載例(特別条項)(厚生労働省のWebサイトが開きます)
  2. 特別条項を適用する場合
    「限度時間内の時間外労働についての届出書」と「限度時間を超える時間外労働についての届出書」の2種類が必要となること。
  3. 「限度時間を超える時間外労働についての届出書」の場合
    1カ月の延長できる時間については「時間外労働+休日労働」について定めること。

特別条項付き36協定の場合

臨時的な特別の事情があるため、原則となる時間外労働の限度時間を超えて時間外労働を行わせる場合については、以下の事項についても協定が必要です。

  1. 時間外労働+休日労働の合計
    →「1カ月100時間未満、2~6カ月までの複数月の平均で80時間以内の要件を満たすこと」にチェックを入れること
  2. 1年の時間外労働を720時間以内とすること
  3. 限度時間を超えることができる回数を年6回以内とする
  4. 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康および福祉を確保するための措置
  5. 限度時間を超えて労働させる場合における手続き
    →「労使協議の上、通告」「労働者代表に対する事前申し入れ」等の手続きが挙げられます。この手続きを経ないで限度時間を超えてしまうと法律違反となるので注意が必要です。

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法改正後の労働時間管理

改正前の36協定においては「残業時間」の上限時間と「法定休日」に労働させることのできる日数の上限を定めていました。すなわち、「時間」と「日数」の管理となっていました。しかし、法改正後は、「残業時間」+「法定休日時間」を把握することが必要となります。

では、法改正後の労働時間管理はどのようにしていけばよいのでしょうか。次の表に挙げた具体例で解説します。以下に4月から9月までの時間外労働等の実績を例示しました。

残業時間上限規制のシミュレーション

 残業時間法定休日労働合計
4月45時間40時間85時間
5月40時間30時間70時間
6月50時間25時間75時間
7月42時間30時間72時間
8月60時間26時間86時間
9月65時間30時間95時間
  1. この表では、6・8・9月が、1カ月45時間を超えた「残業時間」となっているため、特別条項の適用を受けなければなりません。従って45時間を超える前に所定の手続きが必要となります。
  2. 各月の残業時間+法定休日労働<100時間、となっているので法違反ではありません。
  3. 2~6カ月の平均を見ると
    1. 95+86÷2=90.5H≧80H →×
    2. 95+86+72÷3=84.3H≧80H →×
    3. 95+86+72+75÷4=82≧80H →×
    4. 95+86+72+75+70/5=79.6H≦80H →○
    5. 95+86+72+75+70+85/6=80.5H≧80H →×

となります。なんとd以外は、平均で80時間を超えているので、法律違反となります。
実は、8月が終わった段階で、9月は少なくとも「残業時間+法定休日労働≦74時間」に抑えなければならないことを、労働者自身も管理職も知っておかなければならなかったのです。そして、この時間を超えないような業務配分をしておく必要があったのです。

計画的な業務配分を

残業時間の上限規制が始まった以上、管理職は部下の残業時間をリアルタイムで把握しておかなければ、残業を指示することができなくなります。事例に挙げた表の場合、9月に残業時間や法定休日の労働が多く予想されるのであれば、8月の労働時間を抑える工夫が必要だったのです。もちろん、10月も同様となります。

忙しい月があるなら、その前後月の残業時間等は抑えておくこと。なにしろ45時間を超える残業時間は年6回しかできないのです。今後は、労働時間を月単位、季節単位、年単位などで計画的に業務を配分することが重要となってきます。同時に、特定の社員に業務を集中させない仕組みづくりも必要です。

また、労働者も自らの業務の進捗状況を把握して、必要に応じて上司に報告・相談できるような体制を整えておくことが理想といえるでしょう。

事前申請の活用

残業や休日出勤を行わせる場合には「事前申請」の活用をお勧めします。
事前申請をすることで、

  • 本当に必要な業務であるのか?
  • 休日出勤や残業時間は今やらなければならない業務なのか?
  • だれかに協力を仰ぐことはできないのか?

などについて目を配ることが可能となり、業務配分の精度を高めていくことができます。

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ライター紹介

梅原光彦

ライター歴30年超。新聞、雑誌、書籍、Web等、媒体を問わず多様なジャンルで書き続ける。その一つが米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に取り上げられたことが勲章。京都在住。

監修/飯野正明

プロフィール

東京都社会保険労務士会中央支部所属。1969年生まれ。社労士業務歴28年目の経験と知識を活用して、労務問題における「相談者の用心棒」として活動中。

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