2019年 9月10日公開

専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

【アーカイブ記事】以下の内容は公開日時点のものです。
最新の情報とは異なる可能性がありますのでご注意ください。

「民法改正で保証契約が変わる!」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

2020年4月1日から「保証」に関する民法の規定が大きく変わります。では、「保証」の何がどう変わるのか? 今回は、改正民法の中の「保証契約」に関する新ルールについて解説します

保証契約の基礎

2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」 が2020年4月1日から施行されます。これに伴い、保証について新しいルールが導入されます。保証は、債権者と保証人との間の契約(保証契約)です。次のような関係図式となります。

保証契約とは

借金の返済や代金の支払いなどの債務を負う主債務者が、その債務の支払いをしない場合に、主債務者に代わって支払う義務を負うことを約束する契約のことです。従って「保証する」とは、主債務者(借り入れをした人)と同じ責任を負うこと、と言い換えることができます。こうした保証の義務を負う人を「保証人」と呼びます。

根保証とは

主債務者の一切の債務を保証するものです。将来にわたって全ての取引に保証が付く状態なので、保証人は非常に重い責任を負うことになります。

連帯保証とは

通常の保証に比べて、保証しなければいけない範囲(金額)が広く、主債務者に代わって業者から督促を受けるタイミングが早いなど、かなり重い責任を課されるのが連帯保証です。金融機関などの債権者が保証人を求めるときは必ず連帯保証人にするなど、現実の社会でなされる保証の多くは連帯保証となっています。

改正の背景

義理人情など人間関係から断り切れず、保証人としての責任を十分認識しないまま安易に保証契約を締結する事例がこれまでに数多く見られました。保証人となった人は多額の債務を負い、ついには生活が破たんしてしまうところまで追い詰められてしまうことも珍しくありませんでした。そうした問題が起こるのを未然に防ぐため、保証人の保護を趣旨とする新たなルールを盛り込む改正に至りました。

目次へ戻る

新しい保証契約のルール 事業のための貸金債務について

従来は事業のための貸金債務について、個人保証は無制限に行われていました。今回の民法改正では、保証を必要とする会社(主債務者)と一定の関係にある個人以外の個人を保証人とする場合のハードルが大きく上がりました。すなわち、保証人となろうとする個人の保護を図るため、個人保証の意思を十分に確認することが必要となったのです(改正民法465条の6,465条の8,465条の9)。個人の意思確認のために、二つの「意思確認のルール」が設けられました。

意思確認のルール

  1. 保証契約の前1カ月以内に、保証人となろうとする者の保証意思が公正証書(注1)で確認されていなければ無効
  2. 事業のための貸金債務の保証人が有する「主債務者に対する求償権」を、個人が保証する場合も保証契約の前1カ月以内に、保証意思が公正証書で確認されていなければ無効
  • (注1)公証人によって作成された文書。私文書と比べて証明力が高いとされます。

以上、個人保証の意思を十分に確認する公正証書がなければ、保証契約は無効となります。ただし、例外規定も設けられています。例外となるのは、主債務者の経営状況・財産状況を知ることができ、想定外の責任を負うという恐れが比較的低い立場の人たちです。
以下の場合には、個人でもルールが適用されないケースもあります。

ルールの例外

  • 主たる債務者が法人である場合の取締役や理事・執行役・これに準じる者、株式を過半数有する者等が保証人となる場合
  • 主たる債務者が個人である場合の共同事業者、事業へ実際に従事している配偶者が保証人となる場合

目次へ戻る

新しい保証ルール 保証人への情報提供義務

債務の個人保証を個人に依頼するときは、「契約締結段階」「保証債務履行前の段階」「期限の利益喪失段階」の3段階で情報提供義務が課せられるようになりました。

1)契約締結段階の情報提供義務(改正民法465条の10)

保証契約を結ぶ前に、主債務者は保証人となる個人に対して、事業や自身についての正確な情報を説明しなければなりません。

情報提供のルール1

  1. 事業のために生じる債務の個人保証を依頼するときは、主債務者は、当該個人に対して主債務者の財産や収支、債務の状況、担保として提供するものがあるかなどを説明しなければならない
  2. 主債務者がその説明をしなかったり、事実と異なる説明をしたりしたこと(以下「不実の説明等」)によって個人が保証人となった場合、債権者が不実の説明等があったことを知ることができたとき、保証人は保証契約を取り消すことができる

注意事項

  • 事業のための貸金債務だけでなく、事業に使用する物件の賃貸借契約の個人保証人に対しては、賃借人が保証人となろうとする人に対して説明を果たさなければならない
  • 保証契約締結の際には、説明義務を果たしたことが分かるものを残しておくことが重要
    (債権者や賃貸人は所定の情報提供を受けた旨の表明保証を保証人に提出させることが考えられます。その内容としては、「保証人は、主たる債務者から、その財産や収支、債務の状況、担保等について○○との説明を受けたことを確認する。主たる債務者は、同内容が事実であることを確認する」といったものになります)

2)保証人の請求による情報提供義務(改正民法458条の2)

保証人から請求があれば、債権者は、主たる債務の元本、利息、損害賠償、その他、主たる債務に関する全ての債務について、不履行の有無、残額、履行期限が過ぎているものの債務額を知らせなければなりません。

情報提供のルール2

  1. 保証人から請求があれば遅滞なく上記事項の情報を提供する必要がある
  2. 保証人が個人でも法人でも適用される

3)期限の利益喪失についての情報提供義務(改正民法458条の3)

主債務者が「期限の利益」を喪失した場合、債権者は、そのことを保証人に伝えなければなりません。

期限の利益とは

期限が来るまでは債務の履行をしなくてもよいという利益のこと。契約書において、「○月○日までに本契約に基づく債務を支払う」と定められていた場合、債務を支払う側は「○月○日までは債務を支払わなくてよい」ことになります。この債務の支払いの猶予のことを、主債務者にとっての「期限の利益」といいます。

期限の利益喪失とは

主債務者が破産手続き開始の決定を受けたときなど一定の条件が認められる場合、「期限の利益」は喪失すると民法には定められています。また当事者の合意に基づき、契約書に「期限の利益喪失条項」と呼ばれる条項入れることもできます。
主債務者が「期限の利益」を喪失した場合、債権者はその事実を個人保証人に通知しなければ、遅延損害金(注2)を請求することはできません。

  • (注2)主債務者による借金の返済が遅れたために貸金業者が損害を被ったとして請求されるお金のこと。

期限の利益喪失についてのルール

  1. 主債務者が期限の利益を喪失した場合、債権者は個人保証人に対して、期限の利益喪失を知ったときから2カ月以内に、期限を喪失したことを通知しなければならない
  2. その通知を債権者がしなかった場合、債権者は、当該保証人に対しては、期限の利益喪失時から通知をするまでの間の遅延損害金を請求できない

目次へ戻る

新しい保証ルール 極度額(上限額)の設定

従来は貸金債務等を個人が根保証する場合(貸金等個人根保証)、極度額を定めなければ契約は無効とされていました。今回の改正では、個人保証人の保護をより広い範囲で行うことになりました(改正民法第465条の2,465条の4)。

極度額(上限額)のルール

  1. 個人が根保証する場合には、保証人が支払いの責任を負う金額の上限となる「極度額」を定め、かつ書面または電磁的記録(注3)で契約されなければ無効
  2. 保証人が破産決定を受けたときなどは保証の具体的な元本額が確定する
  • (注3)電子的方式、磁気的方式その他、人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの。

注意事項

  • 賃貸借契約や継続的な売買契約の場合にも適用されます。

施行時期

今回の保証に関する改正ルールは、2020年4月1日から施行されます。ただし、後述する「公証人による保証意思の確認手続」については2020年3月1日から施行されるため、施行日前から公正証書の作成が可能です。なお、施行日前に締結された保証契約に係る保証債務については、さかのぼって適用されることはありません。

目次へ戻る

まとめ

民法改正により、個人を保証人とする場合の要件は大きく変わりました。冒頭の関係図に立ち返り、例えば債権者となるAさんがB社やB社社長の信用を不安視して、Cさんも連帯保証人になるなら安心と考えてB社に事業資金を貸したとします。しかし、もし所定の手続きを踏まず、Cさんの保証が無効とされてしまうと、Aさんの回収のもくろみは大きく外れてしまうことになります。

また、継続的な商品販売取引契約を締結する場合などにおいても、売り主が買い主に対して連帯保証人を立てるよう求めることがあります。このような場合でも、もし事後に保証が無効とされてしまうと、回収不能のリスクが一気に高まります。

すなわち、改正民法の施行後は、保証を取る側はより一層慎重になって民法所定の手続きを踏むようにしなければならないということです。これまでと同様の感覚・考え方をしていると、保証が無効となってしまうリスクがあります。

改正民法が施行される2020年4月1日以降、保証契約を締結する際には、公正証書を作成する必要のあるケースなのか、保証人にきちんと情報提供がなされているか……など、これまで以上に入念な確認が求められます。

目次へ戻る

ライター紹介

梅原光彦

ライター歴30年超。新聞、雑誌、書籍、Web等、媒体を問わず多様なジャンルで書き続ける。その一つが米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に取り上げられたことが勲章。京都在住。

監修/堤世浩

プロフィール

東京弁護士会所属。1979年生まれ。堤半蔵門法律事務所代表。企業・個人にまつわる民事・商事案件、倒産・M&A案件、相続案件などを取り扱う。

ページID:00168709