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売買契約の主要な改正ポイント
2017年5月に成立した「民法の一部を改正する法律」が2020年4月1日から施行されます。民法が定めている契約の類型は13種類。中でも、メジャーかつ身近な契約の一つが「売買契約」です。
購入した商品に欠陥があった、約束した日に商品が入ってこない……などなど、売買契約にまつわるトラブルは身近なところにもあふれています。民法はそうしたトラブルの解決ルールを定めていますが、今回の改正のポイントは、買主側が売主側の責任を追及しやすくなったということです。
売買契約に関する主要な改正ポイントは次のとおりです。
それでは、売買契約の新しいルールを紹介していきましょう。
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契約不適合責任制度の創設
改正民法では、新たに「契約不適合責任」という制度が創設されました。
創設の経緯
改正前の民法では、例えば購入した家や中古車などに欠陥があった場合、「瑕疵(かし)担保責任」という制度で対応していました。しかし――
- キズ、欠点を意味する「瑕疵」(注1)という言葉が一般には分かりにくいこと
- 「瑕疵」であるかどうか判断するための明確な基準やルールが民法に書かれていないこと
という理由から、国民に分かりにくく、裁判所によって判断がまちまちになってしまうことが問題視されてきました。そこで、新たに「契約不適合責任」という制度が創設されたのです。「契約不適合責任」とは文字どおり、欠点のあるなしに関係なく、契約内容に適合していないことに対して責任を負うという意味です。
- (注1)本来あるべき機能・品質・性能・状態が備わっていないこと。
「契約不適合」とは
文字どおり「契約の内容に適合しないこと」です。改正前の「瑕疵担保責任」の制度では「瑕疵」は「隠れていること」が要件とされていました。つまり、瑕疵が隠れていない=外形上明らかな場合には、瑕疵があっても解除や損害賠償請求等はできなかったのです。けれども、今回の改正により「隠れた」という要件は不要となり、契約に適合しているかどうかだけが問われるようになりました。
契約に適合するかどうかの重要な判断要素
「契約不適合責任」の要件である、「契約の内容に適合しない」かどうかは、契約の内容などを総合的に考慮して判断されます。この際、重視されるのが次の要素です。
- 当事者の合意
- 契約の趣旨
- 契約の性質
- 契約の目的
- 契約に至る経緯
後からも述べますが、契約書を見直す際は、上記の要素に注意するとよいでしょう。
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新たな救済手段「追完請求」と「代金減額請求」
改正民法では救済手段のメニューが増えました。改正前の「瑕疵担保責任」では、「解除」「損害賠償」だけが救済手段でしたが、改正後の「契約不適合責任」では、「契約内容に適合しない」と判断できる場合に、その他の解決方法も選ぶことができます。
買主が取り得る手段
救済手段 | 改正前 | 改正後 |
---|
追完請求 | できない | できる |
---|
代金減額請求 | できない (数量指示売買<注2>を除く) | できる |
---|
解除 | できる (ただし、契約をした目的を達成できない場合のみ) | できる (ただし、不履行が軽微である場合は除く) |
---|
損害賠償 | できる (信頼利益に限定) | できる (履行利益まで可) |
---|
- <注2>数量を基づいて価格が決定されている売買のこと。例えば「100平方メートルを1,000万円で」というように、数量(平方メートル数など)を決めて、代金額を定める場合の売買をいいます。
改正後に新しく加わった救済手段は、追完請求、代金減額請求の二つです。
追完請求
追完請求とは、引き渡された売買の目的物が種類・品質・数量に関して契約内容に適合しない場合に、買主が売主に対して契約の完全な履行を求めて、目的物の補修、代替物の引き渡し、または不足分の引き渡しを請求することです。「追完」とは法的に効力が未確定な行為について、後から行為を有効にするという意味になります。
なお、追完請求は不適合部分について売主側に過失がない場合でも認められます。
追完の方法は、第一次的には買主が選択できることとされていますが、買主に不相当な負担を課するものでないときは、売主は買主が請求した方法と異なる方法で追完することが可能です。
代金減額請求
改正前は、数量指示売買を除き、代金減額請求は認められていませんでしたが、改正後はできるようになりました。代金減額請求は、履行の追完をまず催告し、催告期間内に履行の追完がない場合に行うことができます。
また、代金減額請求は追完請求と同様、売主側に過失がない場合でも認められます。
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従来の救済手段「解除」と「損害賠償」
従来あった「解除」と「損害賠償」については改正後も認められますが、要件が変更され、債務不履行の場合の一般的なルールに従って行うこととなりました。
解除
解除とは、契約当事者一方の意思表示によって契約の効力をさかのぼって消滅させ、契約が初めからなかったと同様の法律効果を生じさせることです。改正前は「契約をした目的を達成できない場合のみ」という限定がありましたが、改正後はこの限定がなくなり、解除のハードルが下がりました。
ただし、解除を行うためには、原則として履行の追完の催告が必要となります。
損害賠償
損害賠償についても改正後は、債務不履行の場合の一般的なルールに従って行うこととなりました。このため、改正前は売主の帰責事由が不要でしたが、改正後は必要となりました。
また改正後は、損害賠償請求できる「損害」の範囲が、「信頼利益」から「履行利益」に広がりました。
- 信頼利益→その契約が有効であると信じたために発生した損害のこと
- 履行利益→その契約が履行されていれば発生したであろう利益のこと
土地の売買を例に取ると、信頼利益は土地の検分に要した費用や契約締結費用、登記費用などのこと、そして履行利益は買主が土地を転売することによって得られたであろう利益(転売利益と購入代金の差額)のことです。改正後は、この履行利益までも損害賠償請求できることになったということです。
権利行使期間
「瑕疵担保責任」は、事実を知ったときから1年以内に「契約の解除または損害賠償の請求」をしなければならないとされていました。しかし、損害賠償請求をするには損害額の調査等も必要なことから、1年以内ではあまりに期間が短すぎて買主に不利であるとの批判もありました。他方で、だからといっていつまでも責任追及される恐れがあるというのでは売主にとって酷です。
そこで、改正後の「契約不適合責任」では、前述の救済手段を行使できる期間が変更されました。大まかにいうと――、
- 契約不適合を知ったときから5年以内は行使可能(※例外あり)
- ただし、「種類または品質」に関する契約不適合の場合に限っては、契約不適合を知ったときから1年以内に売主に対して「契約不適合である旨の通知」を出しておかないと救済手段を行使できなくなる(一種の予告のようなものといえるでしょう)
という扱いに変わりました。
買主が1年内に行わなければならないことが「契約の解除または損害賠償の請求」から「契約不適合である旨の通知」に緩和されており、これは買主にとって有利です。他方で、「種類または品質」の契約適合性が問題になるようなケースでは、前述の通知が1年間出されなければ、売主とすれば「自分が売った品物には種類または品質上の問題はなかった」と信じるでしょうから、売主側の利益にも配慮したといえます。
もっとも、会社間の売買の場合には前述した権利行使期間のルールは適用されず、改正商法が適用されます。会社間の売買では、買主も「会社」であることから、改正民法に比べて買主の負担が重くされています。具体的には、改正前と同様、買主が契約不適合を発見したときは、直ちに売主に対しその旨を通知しなければならないとされ、直ちに発見することができない「契約不適合」であっても、買主が6カ月以内にその不適合を発見してその旨通知したときでなければ、契約不適合責任を追及できない、と定められています。
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売買契約に当たって今後の注意点
今回の売買契約についての改正は、基本的には買主に有利な変更となっています。とはいうものの、民法の定める売買のルールのうち、一部は当事者間の合意によって変更できるため(そのようなルールを「任意規定」といいます)、買主は売買契約締結の際にそのような変更を求められることも考えられます。逆にいえば、契約書内でそのような変更が定められていなければ法律とおりに扱われてしまうということになります。
従って、売主側は改正に備えて契約書の見直しが必要となりますし、買主側も売主側から出てきた契約書に漫然と同意することがないよう気をつけなければなりません。
では、どんなことに注意すればよいのでしょうか。考え得る対応例を以下にまとめてみました。
1)売買対象物の品質等を明確に書く
「契約不適合責任」についての争いを避けるためには、契約書に品物の品質や仕様、数量などを具体的に定めておくことが大切です。売主と買主とが契約で合意した品物が引き渡されたかどうか検証しやすくするためです。ただし、実際に紛争となった際には、契約書の文言だけではなく、契約の目的や契約締結の経緯、取引通念なども考慮されます。従って、契約に至った経緯、目的などを書くことも有益です。
それ以前に、まずは契約書の文言に「瑕疵」と書いてあるものは、全て「契約不適合」と修正しておくのがよいでしょう。
2)任意規定の修正
任意規定については、前述のとおり、必ずしも民法の規定に全て従わなければならないわけではありません。民法のルールを理解したうえで、そのうちどの範囲で従い、どの範囲で自社に有利になるよう修正するかを、取引の実情、リスク発生の程度・規模、取引相手との関係などを考慮しながら、あらためて吟味することをお勧めします。
3)改正前の契約に関する注意
改正前に締結した契約に自動更新条項などがあって、改正後に更新された場合、改正前後どちらの民法が適用されるのかという問題が生じます。この問題については、現時点で定説はなく、明確な答えがないのが現状です。今回の改正をきっかけに、双方が協議して契約書を見直すのがよいでしょう。
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