2020年 2月18日公開

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「定年退職と社会保険手続き」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

定年後も働き続けることが珍しくない現在。多くの企業で、定年を迎えた後も再雇用で働ける制度が導入されています。そこで今回は、定年に関連する社会保険の手続きについて説明します。

定年制度の基本

定年のルール

高年齢者雇用安定法により、定年に関する大枠のルールは次のように定められています。

  • 定年を定める場合には、60歳を下回ることができない(高年齢者雇用安定法第8条)
  • 定年年齢を65歳未満に定めている場合、事業主は65歳までの安定した雇用を確保するため以下のいずれかの措置を講ずる必要がある(高年齢者雇用安定法第9条)
    1. 65歳までの定年の引き上げ
    2. 65歳までの継続雇用制度の導入(多くの会社で導入しています)
    3. 定年の廃止

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継続雇用制度のポイント

継続雇用制度とは

定年となった高年齢者が希望した場合、定年後も引き続き雇用する制度です。定年到達後も退職の形を取らず継続して雇用する「勤務延長制度」と、退職後再び雇用する「再雇用制度」があります。勤務延長制度の場合には労働条件の変更がなく、定年時点での社会保険手続きもないので、ここからは再雇用制度を中心に説明していきます。

経過措置について

経過措置として、会社が2013年3月31日までに、労使協定によって対象者を限定する基準を設けていた場合、その基準に該当しない者の雇用は終了させることができるようになっています。

再雇用後の労働条件

労働時間、賃金など再雇用後の労働条件は、従前と異なるものでもよいとされています。労使で協議し、再雇用対象者の健康状態、能力、希望に応じた労働条件を締結することが望ましいといえるでしょう。

70歳までの継続雇用が義務化?

政府は2019年5月、希望する高年齢者が70歳まで働けるようにするための高年齢者雇用安定法改正案の骨格を発表しました。70歳まで定年を延長するだけでなく、他企業への再就職の実現や起業支援も促すという内容で、企業は努力義務として取り組まなければなりません。現在のところ、70歳までの雇用は企業の負担増になるとの懸念があることから義務付けられてはいません。ただし、将来的には義務化される可能性があることは認識しておく必要があります。

65歳超雇用推進助成金

政府は「生涯現役社会」を実現するため、65歳以上への定年引き上げや高年齢者の雇用管理制度の整備等、高年齢の有期契約労働者の無期雇用への転換を行う事業主に対して助成金を交付する制度を設けています。助成金は、次の3コースで構成されています。事業の性格や雇用状況に応じて選択するとよいでしょう。

  • 65歳超継続雇用促進コース
    →定年年齢を65歳以上とする、もしくは希望者全員を対象とする定年再雇用制度(66歳以上を再雇用するもの)を設けることが要件となるため、高年齢者が持つ技術の伝承など、高年齢者が従事する業務がある事業所などに適しています。
  • 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース
    →高年齢を対象とする人事考課制度を導入するなど、雇用管理を整備することになるので、高年齢者にもやりがいを持たせて勤務してもらいたいと考える事業所などに向いています。
  • 高年齢者無期雇用転換コース
    →無期雇用の高年齢者が多く働く事業所などに適したコースです。

制度の詳細は以下にてご確認ください。

65歳超雇用推進助成金(厚生労働省のWebサイトが開きます)

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60歳定年再雇用時の手続き

60歳定年から再雇用する場合の手続きをまとめました。

社会保険(健康保険、厚生年金保険)

健康保険は75歳、厚生年金保険は70歳まで加入のため、労働条件・賃金ともに定年前と変更がない場合は、手続き不要となります。

確認すること

再雇用後の労働条件が、引き続き社会保険適用の基準である「1週間の所定労働時間および1カ月間の所定労働日数が正社員の4分の3以上」を満たすかどうかチェックします。

  • 満たさない場合
    資格喪失手続きが必要です。
  • 満たす場合
    継続再雇用となりますが、賃金が低下した場合、通常は3カ月後の随時改定(月額変更)によって標準報酬月額(社会保険料)の見直しが行われます。

同日得喪の特例

60歳以上で継続再雇用となった場合、随時改定を行わずに定年の時点で社会保険の資格喪失手続きを行い、同時に再雇用後の賃金で資格取得することができます。これを「同日得喪の特例」といいます。同日得喪を行うことにより、3カ月たたずに再雇用時点から標準報酬月額(社会保険料)を変更することが可能となります。給与が大幅に下がるときは保険料がすぐに下がるので「お得」といえるでしょう。同日得喪を行った場合、現在の健康保険証を返納し、新たな保険証の交付を受けます。

在職老齢年金について

60歳以降、厚生年金に加入しながら受け取る老齢厚生年金を「在職老齢年金」といいます。60歳以上の厚生年金被保険者が「特別支給の老齢厚生年金」(注1)を受給している場合は、賃金・賞与額に応じて、在職老齢年金の支給が一部または全部停止されることになります。

  • (注1)「特別支給の老齢厚生年金」は、基礎年金の支給開始が60歳から65歳に引き上げられたときに、制度が変わったことによる影響を和らげるために設けられた年金。

なお、2019年4月2日~2020年4月1日に60歳となった人の「特別支給の老齢厚生年金」の受給開始年齢は、
男性:64歳
女性:61歳
となっています。

60歳から65歳までの在職老齢年金の計算

在職老齢年金は「基本月額」と「総報酬月額相当額」を算出したうえで、下のチャートに基づいて計算します。

基本月額=加給年金額を除いた特別支給の老齢厚生年金の月額
総報酬月額相当額=(その月の標準報酬月額)+(その月以前1年間の標準賞与額の合計)÷12
標準報酬月額=被保険者の報酬を等級区分された表に当てはめ算定された報酬月額
標準賞与額=被保険者が受けた賞与の1,000円未満を切り捨てた額

計算方法1 基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2
計算方法2 基本月額-総報酬月額相当額÷2
計算方法3 基本月額-{(47万円+基本月額-28万円)÷2+(総報酬月額相当額-47万円)}
計算方法4 基本月額-{47万円÷2+(総報酬月額相当額-47万円)}

雇用保険

雇用保険は、一定の年齢で喪失することがないため、労働条件・賃金とも定年前と変更がない場合、手続きは不要です。

確認すること

再雇用後の労働条件が雇用保険適用の基準「週所定労働時間が20時間以上」を満たすかどうかチェックします。

  • 満たさない場合
    資格喪失手続きが必要です。
  • 満たす場合
    手続きは不要です。

高年齢雇用継続給付金

60歳時点での賃金と比べた再雇用後の賃金が75%未満に低下した場合には「高年齢雇用継続給付金」を受けることができます。低下率に応じて給付金の支給率が変わり、最も高い支給率は低下率が61%以下となった場合です。
高年齢雇用継続給付金を受給することにより、在職老齢年金の支給停止に加えて年金の一部が支給停止となります。その場合、最大で賃金(標準報酬月額)の6%が支給停止となります。

申請に当たって

支給申請書に事業主印と本人印を押印し、賃金台帳を添付し、原則2カ月ごとにハローワークに申請します。手続きに必要な書類は次のとおりです。

  • 雇用保険被保険者60歳到達時の賃金月額証明書(初回申請時)
  • 希望の振込金融機関指定届(初回申請時)
  • 免許証のコピーなど被保険者の年齢が確認できるもの(初回申請時)
  • 高年齢雇用継続給付支給申請書(2カ月ごとの申請)
  • 賃金月額証明書等の記載内容が確認できるもの(賃金台帳、出勤簿など)

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65歳退職時の手続き

社会保険(健康保険、厚生年金保険)

通常の正社員の退職時と同様、社会保険の資格喪失手続きを行います。

資格喪失後の健康保険

社会保険の資格喪失後の健康保険は下記のいずれかとなります。

  1. 加入していた会社の健康保険の「任意継続被保険者」となる
  2. 住んでいる市区町村の「国民健康保険の被保険者」となる
  3. 家族の健康保険の「被扶養者」となる

資格喪失後の手続き

資格喪失後手続き
「任意継続被保険者」となる場合本人が加入していた保険者(協会けんぽ、健康保険組合)に退職日の翌日から20日以内に「任意継続申請書」を提出(退職前に2カ月以上被保険者期間があることが必要)
「国民健康保険の被保険者」となる場合退職日の翌日から14日以内に本人が市区町村で手続き
家族の健康保険の「被扶養者」となる場合家族の勤務する会社経由で、「被扶養者異動届」を保険者へ、退職日の翌日から5日以内に提出

厚生年金の受給手続き

65歳からは「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」が支給されます。年金機構より年金の請求書が送付されるので、退職者は会社の所在地を管轄する年金事務所(遠方にある場合は、住所地を管轄する年金事務所)で手続きをすることになります。

雇用保険

通常の正社員の退職時と同様、雇用保険の資格喪失手続きを行います。

失業給付

65歳以上で退職した者には、失業給付は一時金(高年齢求職者給付金)で支払われます。
高年齢求職者給付金の額は、

  • 被保険者期間1年以上
    基本手当日額の50日分です。
  • 被保険者期間1年未満
    基本手当日額の30日分です。

基本手当日額は、賃金日額の50%~80% 上限6,815円となっています(2019年11月時点 毎年8月に改定)。
なお、高年齢求職者給付金を受けても老齢厚生年金の支給調整(減額)は行われません。

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