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未払い残業代に潜むリスク
労働者の権利意識の高まりやインターネットによる情報の浸透、さらには「残業代請求」をうたう弁護士が増えたこともあり、未払いの残業代を巡る訴訟件数は年々増加しています。中堅・中小企業の場合でも数百万円単位で残業代支払いを命じられることは珍しくありません。未払い残業代問題は会社にとって大きなリスクとなるのです。
残業代請求を受けたときのリスク
会社側が敗訴する可能性が高い
裁判所は弱者である労働者側の保護に、より重きを置いて労働審判・訴訟を進める傾向があります。このため、一般的には、裁判所は会社側にとって不利な判断をする可能性が高い傾向にあるといえます。
遅延損害金・付加金が加算される
労働審判や訴訟になると、未払い残業代に加えて遅延損害金を従業員から請求されたり、悪質な残業代不払いに対してはペナルティとして付加金の支払いを裁判所から命じられたりする場合も。裁判が長引くと残業代を上回る額を支払わねばならないケースが出てきます。
ほかの従業員からの残業代請求
ある従業員が未払い残業代を請求したことが周囲に知れると、それまでサービス残業をしていたほかの従業員からも請求され、支払総額が何倍にも膨れ上がる可能性があります。
企業イメージの低下
従業員(特に複数)から未払い残業代を求めて訴訟を提起されると、その事実が世間に広まり、企業イメージの低下を招きます。人材募集にも悪影響を及ぼす可能性があります。
以上のリスクがあることを認識すれば、日々の労働時間の管理がいかに重要か、経営者は身に染みて感じることができるはずです。
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問題解決までの流れ
残業代請求を受けて解決に至るまでの過程には「任意交渉」「労働審判」「裁判」などがあります。大まかな流れは次のとおりです。
(1)初期対応での注意点
残業代請求の前段階として、タイムカード等の開示請求を受けることもあります。会社側にタイムカードの開示を義務付ける法令はありませんが、開示義務を認めた裁判例はあります(その裁判例では開示しなかったことについて会社側に慰謝料の支払いまで命じています)。さらに、開示を拒否し続けると、後に労働審判・通常訴訟に発展した際、裁判官の心証を悪くします。従って、これらのリスクを念頭に置いたうえで対応を決める必要があります。
(2)交渉における注意点
いち早く対応すること
タイムカードなどの資料を基に、当該従業員の正確な労働時間を割り出し、残業代の有無・金額等を算出します。先延ばしにすればするほど遅延損害金が加算されていきますし、交渉、労働審判、通常訴訟と進むにつれ和解金額が高額になる傾向もあるので、無視・放置は厳禁です。早期対応のためには、普段からきちんと労働時間管理を行っていることが肝心です。
専門家に相談すること
収集した正確な情報を基に対応方針を決めます。方針の決定に当たっては、会社側・労働者側どちらの主張に分があるのかという見通しが不可欠なので、早い段階で労働問題に詳しい専門家に相談することです。素早く、正しい対応を取れば会社の負担を減らせる場合もあるのです。
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労働審判について
2006年4月から制度化され、近年幅広く利用されているのが労働審判です。通常の訴訟に先んじて行われることが多いので知っておくとよいでしょう。
労働審判とは
従業員と会社のトラブルを通常の裁判より簡略的な手続きで解決する裁判所の手続きです。未払い残業代だけでなく、不当解雇のような労働者との間に起こるトラブルについても扱います。労働審判では調停の成立する率が8割弱と高く、労働審判の件数は通常訴訟の件数を上回ってきました。近年では、労働審判が残業代未払い問題解決手段の主流になってきているといえます。
労働審判と通常訴訟の違い
両者の違いについて要点を整理すると下表のようになります。
| 労働審判 | 通常訴訟 |
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期間 | 短期間(平均70日程度) | 長期間(1年以上を要することも) |
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手続き | 簡略的な手続き | 正式な訴訟手続き |
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効果 | 最終的な強制権限がなく、労働審判の結果に対していずれかから異議が出れば通常訴訟に移行する。 | 最終的な強制権限がある。 |
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労働審判は短期間で終了し、低コスト
2018年の労働審判の平均審理期間は80.7日(約2カ月半)。一方、2018年に終結した通常訴訟における労働事件の平均審理期間(注)は14.5カ月(最高裁調べ)なので、労働審判は通常訴訟の5分の1という短さです。また手続きが簡略化されているため、訴訟費用が安く済むのも特長です。
- (注)労働審判は原則3回以内で審理を終結しなければならないと法律で定められています。
一般的な労働審判の流れ
- 従業員側が裁判所に申立書を提出
- 裁判所から会社に申立書が郵送される
- 指定された期日までに答弁書や反論の証拠を提出
- 第1回期日→裁判官や労働審判員が当事者に直接質問するなどして審理
- 第2回期日・第3回期日→裁判所から調停案が提示され、双方で検討
- 調停がまとまらない場合は審判に進む
調停不成立で審判に異議が出れば通常訴訟へ
「労働審判」は裁判所による判断(公権的判断)なので、確定すれば判決と同一の効力を持ちます。しかし、調停が成立することなく「労働審判」が言い渡され、これに不服がある場合は通常訴訟に移行することになります。一般に、通常訴訟になると労働審判よりも和解額は高額化する傾向にあります。
注意! 第1回期日まではすぐ
労働審判の場合、申し立てから第1回期日までの期間が短い(答弁書の提出期限まで3週間程度)ので、申し立てられたらすぐに専門家に相談する必要があります。
注意! 残業代請求権の時効は3年に延長
民法改正の影響を受け、残業代請求権の時効期間は2020年4月より「2年」から「3年」へと延長されました。すなわち2020年4月1日以降の勤務分の賃金については3年の時効期間が適用されることになります。
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まとめ
残業代請求時の対応のコツは一にも二にも早く手を打つこと。タイムカードの開示請求への対応、従業員の残業代の有無・金額等の算出、対応方針の決定、答弁書の作成……等々、やるべきことは多く、与えられる時間は限られているからです。早い段階から専門家の助力を得ることが重要になってきます。
ただ、これらはあくまで残業代支払請求を受けてからの「対症療法」となります。残業代問題を根本から解決するには、労働時間をきちんと管理し、無用な残業を抑止する体制、もし残業が発生すれば残業代をきちんと支払う体制を構築することに尽きます。
時効期間の改正(延長)により未払い残業代を請求された場合の会社側の負担はさらに大きくなりました。今後は残業時間管理をより一層厳格に行っていく必要があるといえます。
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