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資本的支出と修繕費
修繕費で落とせるかどうかは、資産に「なる」か「ならない」かで分かれるのですが、慣れないとその線引きが悩ましいものです。まずは基本となる「資本的支出」と「修繕費」の考え方の違いから理解してください。
資本的支出とは
資産計上しなければいけない支出のことを「資本的支出」といいます。例えば、法人が所有するオフィスや工場など固定資産の修理や改良等のために支出した金額のうち、その固定資産の価値を高め、またはその耐久性を増すこととなると認められる部分に相当する金額が資本的支出となります。これには、建物、建物附属設備、工具器具備品、車両運搬具、ソフトウェアなどの資産科目があります。
資本的支出となるもの
- 建物の避難階段の取り付けなど物理的に付加した部分に係る費用
- 用途変更のための模様替え等、改造または改装に直接係る費用
例:事務所を倉庫に改良した場合に要した費用など - 機械のパーツ等を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合のその取り替えに要した費用のうち、通常の取り替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額
例:スチールサッシから高品質のアルミサッシへの取り替えに要した費用など
修繕費とは
法人が所有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち、その固定資産の通常の維持管理のため、または毀損(きそん)した固定資産について、その原状を回復するために要したと認められる部分の金額が修繕費となります。
修繕費となるもの
- 建物の移えい(注1)または解体移築をした費用
- 機械装置の移設費用(解体費含む)
- 地盤沈下による復旧地盛り費用
- 建物機械装置等の浸水防止用床上費用および移設費用
- 使用中の土地の水はけ用砂利、砕石等敷設費用など
- (注1)建築物をそのままの状態で移動する建築工法のこと。「曳家(ひきや)」ともいいます。
ソフトウェアについて
法人がソフトウェアについてプログラムの修正等を行ったとき、その修正がプログラムの機能上の障害除去、現状の効用の維持等に該当する場合はその修正等に要した費用は修繕費に該当します。しかし、新たな機能の追加、機能の向上等に該当する場合は資産計上となります。
以上が、法人税法が定める資本的支出と修繕費の基本的な考え方です。しかし、実務上これだけでは資本的支出になるのか修繕費になるのか判断に迷うケースも出てきます。そこで、法人税法では次項のとおり幾つかの判断基準を明示しています。
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修繕費にできるかどうかの判断基準
修繕費になるか資本的支出になるか、法人税法には次のような判断基準が定められています。修理、改良等がその固定資産の価値を高め、またはその耐久性を増すことになる部分が認められても修繕費とすることができるケースがあります。具体的には以下の場合です。
少額(20万円未満)の場合
支出した額が20万円に満たない場合は、その修理、改良等がその固定資産の価値を高め、またはその耐久性を増すことになる部分が認められても、資本的支出とする必要はなく、修繕費とすることができます。
「20万円」についての判定法
会社が税込経理の場合は税込20万円で判定し、税抜経理の場合は税抜20万円で判定します。例えば税込219,000円を支出した場合、税込経理では資産計上(20万円以上)となりますが、税抜経理では税抜199,090円(消費税率10%の場合)で判断するので修繕費(20万円未満)とすることができます。そのほかの金額基準についての考え方も同様です。
周期の短い費用の場合
修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることがこれまでの実績、その他の事情からみて明らかな場合は、その固定資産の価値や耐久性を増すことになる部分が認められても修繕費とすることができます。
形式基準による修繕費の判定
修理、改良等に要した費用が資本的支出か修繕費であるかが明らかでない金額がある場合、その金額が次のいずれかに該当するときは、修繕費とすることができます。
(1)その金額が60万円に満たない場合
(2)その金額がその修理、改良等に係る固定資産の前期末における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
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修繕費にできる特例
法人税法では次のような場合も修繕費とすることができる特例が認められています。
資本的支出か修繕費か明らかでない場合の特例
修理、改良等に要した費用が資本的支出か修繕費であるかが明らかでない金額がある場合において、法人がその金額の30%相当額とその修理、改良等をした固定資産の前期末における取得価額の10%相当額のいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理を継続的に適用している場合は、これも認められています。
この特例は、その支出区分が不明な支出額である場合にのみ適用されるものです。また継続して適用しなければならず、都合の良いときだけこの特例を適用することはできません。この特例を適用する場合は、上記の少額または周期の短い費用の損金算入、形式基準による修繕費の特例を受けていない場合に限られます。
<具体な計算例>
修理、改良等のための費用:100万円
修理等をした資産の前期末取得価額:800万円
100万円×30%=30万円……(A)
800万円×10%=80万円……(B)
(A)と(B)を比べて少ない方が修繕費となる。
よって修繕費30万円、資産計上70万円となる。
災害の場合の特例
災害により被害を受けた固定資産については、以下のような費用を修繕費にすることが認められています。
(1)被災資産の原状回復をするための費用
(2)被災資産の被災前の効用を維持するために行う補修工事、排水または土砂崩れの防止等のために支出した費用
上記(1)(2)のほか、資本的支出か修繕費かの区分が不明な場合は、支出額の30%を修繕費とし、70%を資本的支出とすることができます。
- * 法人が被災資産の復旧に代えて新たに資産の取得をした場合は資産計上となります。
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実務上の判断Q&A
修繕費なのか資本的支出なのか、より具体的なケースで実務上の判断例を紹介しておきましょう。
Q. トイレを洋式にする費用は?
当社では、和式トイレを洋式トイレに交換することにしました。トイレは男女各1台ずつで計2台交換しました。なお、1台当たりの交換費用は180千円、総額360千円でした。この費用は修繕費ですか。それとも資本的支出でしょうか。
A. 修繕費となります
交換費用は総額で360千円かかりましたが、1台当たり180千円です。トイレは1台で独立して使用することが可能ですので1台当たりの金額で判定します。従って200千円に満たない少額費用に該当し、修繕費として処理することができます。
Q. 事務所移転に当たって原状回復に要する費用は?
当社は、テレワークを推進した関係で広いオフィスが不要となり、面積を半分にした事務所へ引っ越しを検討しています。また、当社が入居時に設置した電気設備や間仕切り(簿価1,000千円)などを撤去する必要があり、原状回復に要する費用は3,500千円かかります。これらの費用は修繕費ですか。それとも資本的支出ですか。
A. 修繕費となります
賃貸借契約において賃借人に原状回復義務がある場合、原状回復費3,500千円は修繕費となります。また、撤去した電気設備や間仕切りについては、簿価1,000千円を固定資産除却損として計上することができます。
Q. 総額120万円のソフトウェアのバージョンアップ費用は?
当社は以前より使用してきたソフトウェアのバージョンアップを検討しています。バージョンアップにかかる費用は1,200千円(1台120千円×10台)です。この支出は修繕費ですか。それとも資本的支出ですか。
A. 修繕費となります
バージョンアップにかかる費用1,200千円は修繕費とすることができます。ソフトウェアはパソコン1台当たりにインストールすることによって機能するものですから、金額の判定は1台当たりの金額で判定します。従って、1台当たりの金額が20万円未満ですので、少額費用に該当し修繕費として処理することができます。仮に1台当たりのバージョンアップ費用が20万円以上である場合には、資本的支出となりソフトウェア勘定で処理することになります。
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実務上のポイント
修繕費になるか資本的支出になるかの判断は、実務上迷うことが非常に多いと思います。会社としては、できるだけ修繕費で処理したいと考えるのが本音でしょう。購入や発注に先立って、次のポイントに気を付けてください。
ポイント1
まずは見積りの段階で1台当たりの支出が20万円未満になるように金額交渉すること
ポイント2
修繕費になるもの、資本的支出になるものを区分しやすいように、見積書、請求書はできるだけ細かく記載してもらうこと
税務はエビデンス主義です。修繕費として判断したプロセスも保存しておくと税務調査時に検討したプロセスを明示することができ、立証に役立ちます。
なお、これまでの説明をフローチャートにまとめました。まずはこの形式的基準による判定チャートを参考に、修繕費か資本的支出かを判断してください。
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