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改正の概要
「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)」が成立し、複数事業労働者への労災保険および雇用保険の取り扱いが変わります。労災保険給付については、既に2020年9月1日から変更されており、雇用保険適用については2022年1月1日から変わります。
大まかにいうと改正のポイントは――
労災保険関係
- 給付額決定の基となる賃金額の合算
- 労災認定できるかどうかを判断する際の負荷の総合的評価
雇用保険関係
- 65歳以上の労働者について、複数事業所での労働時間を合算しての雇用保険適用
上記の改正によって、複数事業労働者の生活保障が充実することになります。
複数事業労働者とは
一般にいう副業・兼業者、すなわち複数の事業場で働いている労働者のことです。厳密には被災した(業務や通勤が原因でけがや病気などになった、または死亡した)時点で、事業主が同一でない複数の事業場と労働契約関係にある労働者をいいます。
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改正のポイント「労災編 (1)賃金額の合算」
まずは賃金額の合算、すなわち保険給付額の算定方法の変更について説明します。
全ての会社の賃金額を基に給付額を算定
労災保険の給付算定基礎となる「給付基礎日額」は、これまで災害が発生した会社の賃金額を基に算出していました。今回の改正によって、複数事業労働者については、各就業先の会社で支払われている賃金額を合算した額を基礎として給付基礎日額が決定されることになりました。
給付対象
業務災害や通勤災害など災害の種類に関係なく、複数事業労働者であれば対象となります。従って複数業務要因災害(後述)の場合にあっても同様の取り扱いがなされます。
変更される給付
改正によって保険給付額の算定方法が変更されるのは、給付基礎日額を使用して保険給付額を決定する以下の給付です。
休業補償給付、休業給付、複数事業労働者休業給付
障害補償給付、障害給付、複数事業労働者障害給付
遺族補償給付、遺族給付、複数事業労働者遺族給付
葬祭料、葬祭給付、複数事業労働者葬祭給付
傷病補償年金、傷病年金、複数事業労働者傷病年金
【事例1】
A社とB社の2社に、それぞれ月給制で就業している場合(B社で負傷)
〈 賃金額 〉
A社では月給27万円、B社では月給18万円
〈 計算方法 〉
A社 27万円×3カ月÷90日=9,000円
B社 18万円×3カ月÷90日=6,000円
A社+B社 9,000円+6,000円=15,000円
→給付基礎日額:15,000円
ちなみに改正前であれば、負傷をしたB社の賃金のみで算出することとなり給付基礎日額は、6,000円でした。
【事例2】
A社とB社の2社で就業していて、A社では月給制、B社では日給制の場合(B社で負傷)
〈 賃金額 〉
A社では月給36万円、B社では日給12,000円で10日/月勤務
〈 計算方法 〉
A社 36万円×3カ月÷90日=12,000円
B社 12,000円×10日×3カ月÷90日=4,000円
A社+B社 12,000円+4,000円=16,000円
→給付基礎日額:16,000円
この場合、B社について通常行う平均賃金の最低保障額(労働日数で割ったものの60%)の計算をすると――
12,000円×10日×3カ月÷(10日×3カ月)×0.6=7,200円
となりますが、賃金額を合算する場合には、この最低保障額を用いずに計算した日額を合算します。ただし、各事業場の平均賃金の最低保障額が合算後の額より高い場合には、給付基礎日額は各事業場の平均賃金の最低保障額のうち最も高い額となります(このケースでいうと、「7,200円」と「16,000円」を比較して、16,000円の方が高いので、最低保障額は用いません)。
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改正のポイント「労災編 (2)負荷の総合的評価」
全ての会社の業務上の負荷を総合判断
労災認定について、これまでは一つ一つの会社(事業場)の業務上の負荷(労働時間やストレス等)を個別に評価して判断されていました。しかし、改正後は、複数の会社の業務上の負荷を総合的に評価して判断されるようになりました。
複数業務要因災害
今回の改正により、複数の事業の業務を要因とする傷病等(負傷、疾病、障害または死亡)が、新たに労災保険給付の対象となりました。新しく支給事由となるこの災害を「複数業務要因災害」といいます。なお、対象となる傷病等は、脳・心臓疾患や精神障害などです。
新設された保険給付
「複数業務要因災害」への保険給付として、以下の給付が新設されました。複数の事業場等の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定される場合に支給されます。
複数事業労働者休業給付
複数事業労働者療養給付
複数事業労働者障害給付
複数事業労働者遺族給付
複数事業労働者葬祭給付
複数事業労働者傷病年金
複数事業労働者介護給付
【事例】
ホテルの清掃業務をしていたAさんは仕事中に胸が苦しくなり、勤務先のX社に連絡を取って早退しました。しかし、帰ってからも苦しさが治まらず、救急搬送されることに。病名は心筋梗塞ということで2週間程度の入院安静が必要と診断され、会社を1カ月ほど休むこととなりました。
Aさんが仕事中に体調不良を訴えたことからX社が勤務状況を確認したところ、1日7時間、週4日勤務で、残業・休日出勤もほとんどなく、業務上災害と認定されるとは考えづらいとの判断を下しました。ところが、後日、家族から労災申請の相談がありました。Aさんは実は副業をしていて、ほかにY社、Z社の2社で同様の働き方をしていたとのことでした。
そこでX社は今回の法改正で新設された「複数業務要因災害」による労災を申請。数カ月後、労災認定されることとなりました。
このように、会社側で労働者の副業を把握できていない場合は、本人や家族の訴えがなければ労災申請すべきかどうかの判断が難しいといえます。本人の勤務状況に疑問がある場合は、副業の有無や勤務状況について聞き取りをして確認する必要があるといえます。
なお、通常の業務災害(1社での業務負荷)により業務災害の認定を受けた場合には「複数業務要因災害」とはなりませんが、給付額の基礎となる賃金額は全ての会社の分が合算されます。
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改正のポイント「雇用保険編」
現在、雇用保険の被保険者として取り扱われる条件は以下の2点となっています。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること
上記の要件は1社ごとに確認することになっているため、労働者が副業をしている場合、通算することはできません(注1)。しかし今回の改正によって、65歳以上の労働者については、本人の申し出があった場合、例えばA社の雇用関係では被保険者要件を満たさない場合であっても、B社の事業所の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が2022年1月より試行的に開始されることとなっています。
- (注1)現在は、複数の会社で要件を満たす場合、給与の多い会社(主たる勤務をしている会社)でのみ加入できます。
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まとめ
複数業務要因災害の事例に登場したX社は、労働者が「副業している事実」を把握できていませんでした。X社のように従業員の副業を認めていても、労働者本人が申告してこないケースも多々あります。また、そもそも副業を禁止している会社も少なからずあると考えられます。
しかし、使用者は、労働者からの申告等によって、副業・兼業の有無・内容を確認することが求められています。労働者本人からの申告がなければ把握できないのが現実とはいえ、労基法の順守だけでなく、労働者の安全を確保するうえでも、従業員の副業の現状を積極的に把握していくことが望ましいといえます。
就業規則、労働契約等に副業・兼業に関するルールを定めることはもちろんのこと、契約更新の際や毎年定期的に、労働者の兼業の有無を確認する機会を設けることなどを検討すべき時代になってきているといえるでしょう。
なお、副業・兼業の届け出については厚生労働省より様式例が案内されています。
副業・兼業(厚生労働省)
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