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課税方法の判定プロセス
所得税法では、所得税の納税義務者を「居住者」「非永住者」「非居住者」に分けて、それぞれ納税義務を定めています。対象者がどの居住ステータス(納税義務者の区分)に該当するかで課税方法(税金がかかる所得の範囲)が異なるので注意が必要です。
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居住ステータスの判定
「居住者」なのか、「非居住者」「非永住者」なのか、対象者の居住ステータスによって課税範囲が異なります。居住ステータスの判定は慎重に行いましょう。
居住者と非居住者
居住者・非居住者に対する税務で重要なのは、対象者がどちらの居住ステータスなのかを理解することです。「非居住者」というと、海外から来日した人をイメージするかもしれませんが、所得税法では、日本国籍の人が非居住者になる場合もあります。逆に外国籍の人が「居住者」になる場合もあるのです。
居住者とは
国内に住所を有し、または現在まで引き続いて国内に1年以上居所を有する人
非居住者とは
国内に住所も1年以上の居所も有しない人
ここでいう「住所」とは、各人の生活の本拠をいいます。それが生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定されます。同一人については同時に2カ所以上の住所はないものとされています。
居住者と非居住者の違い
国内に居住することとなった個人が、国内において継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合などには、国内に住所を有する者(居住者)と推定されます。また、国外に居住することとなった個人が国外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合などは、国内に住所を有しない者(非居住者)と推定されます。
非永住者
非永住者とは
居住者のうち日本国籍を有しておらず、かつ過去10年以内において国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年以下である個人
なお、租税条約では、わが国と異なる規定を置いている国との二重課税を防止するため、個人や法人がいずれの国の居住者になるかの判定方法を定めています。
個人については――
- 恒久的住居の場所
- 利害関係の中心がある場所
- 常用の住居の場所
- 国籍
という順で判定し、どちらの国の「居住者」となるかを決めます。
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課税される範囲
居住者が課税される範囲
居住者は原則として、日本国内はもちろん国外において生じた所得も課税対象とされます。つまり「全世界所得」に対して課税されることになります。
非永住者が課税される範囲
国内源泉所得はもちろん、それ以外の所得で国内払いまたは国内に送金されたものについて課税されます。例えば、非永住者が海外で仕事をして、その給与が日本国内で支払われた場合は課税対象となります。
国内源泉所得とは
例えば、国内で仕事をして給与等をもらった場合
国外源泉所得とは
例えば、国外で仕事をして給与等をもらった場合
非居住者が課税される範囲
国内源泉所得のみとなります。例えば、非居住者が海外で仕事をして、その給与が日本国内で支払われたとしても、日本では課税されず、海外で課税されます。
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Q&A事例集
Q 海外子会社に出向予定です。準備しておくことは?
社員Aが来月から海外子会社へ出向することになりました。出向期間は3年間の予定です。それまでに経理担当者がしておくべきことはありますか?
A 次の二つのことを済ませておきましょう。
- 社員Aが出国する日までに年末調整をしておくこと
- 社員Aが毎年確定申告をする必要がある場合には、「納税管理人」の届け出をするようアドバイスする
【解説】
所得税法では、出国した日の翌日から非居住者になるので、それまでの間に国内勤務で得た給与には日本の所得税が課税されます。従って、非居住者になるときまでに日本国内で得た給与について年末調整を行い、所得税を精算する必要があります。また確定申告をする場合は、居住者として行うか、非居住者として行うかでやるべきことが異なります。
「居住者として」確定申告をすべき場合
年末調整の対象となるその年中に支払うべきことが確定した給与等の額が2,000万円超の人や不動産所得などほかの所得がある人は、出国の日までに「居住者として」の確定申告をする必要があります。
「非居住者として」確定申告をすべき場合
非居住者になったとしても、国内にある不動産から賃料収入などを得ている場合には、毎年「非居住者として」の確定申告をする必要があります。従って、出国時までに所轄の税務署長宛てに「納税管理人」の届け出を行い、毎年確定申告書の提出と納付を行う必要があります。
Q 家族が日本にいて、単身で世界を飛び回る社員は「居住者」?
国際業務部に所属する社員Bは業務の性質上、年間を通じて国内滞在よりも国外滞在期間の方が長い生活を送っています。ただし、家族は日本国内に残し、単身で世界を飛び回っている状況です。このような場合、社員Bは居住者でしょうか、それとも非居住者でしょうか。
A 家族が日本にいるなら「居住者」です。
居住者か非居住者かどうかは、生活の本拠地がどこにあるかで判断します。従ってこの場合は居住者となります。
【解説】
居住者か非居住者かどうかは、職業、資産の状況等および配偶者その他生計を一にする親族の居住している地がどこであるか等によって総合的に判断することになります。質問者の場合は、家族が日本にいるので生活の本拠地は日本にあると考えられます。従って居住者として取り扱われることになります。
Q 外国人留学生を雇用するときに気を付けることは?
当社は来春から4年間の予定で大学に通う中国人留学生をアルバイトとして雇用する予定です。気を付けなければいけないことはありますか?
A 源泉徴収が必要な場合があります(不要の場合も)。
- 国内源泉所得なので、居住者・非居住者の区分によって源泉徴収が必要
- 租税条約を参照し、免税措置の適用の有無を確認する
【解説】
日本国内で役務提供がなされた場合、アルバイト留学生が居住者であれば給与所得として源泉徴収が必要となります。また、非居住者の場合であっても、国内での役務提供なので20.42%の税率で源泉徴収が必要となります。
ただし、アルバイト留学生がわが国との間で租税条約を締結している国からの学生である場合には、租税条約の定めるところにより免税となることがあります。例えば、中国と日本の租税条約では、「専ら教育を受けるために日本に滞在する学生で、現に中国の居住者である者又はその滞在の直前に中国の居住者であった者が、その生計、教育のために受け取る給付又は所得は、免税とされます」(日中租税協定21条)。
従って、中国から来日した大学生の日本での生活費や学費に充てる程度のアルバイト代であれば免税とされます。
注意!
源泉徴収の段階で免税措置を受けるためには、給与等の支払者を経由して「租税条約に関する届出書」をその給与等の支払者の所轄税務署長に提出する必要があります。
Q 海外赴任社員の自宅を社宅として借りる場合の注意点は?
社員Cが海外赴任になったため、その社員の自宅を社宅として当社が借りることになりました。家賃を支払うときに注意すべきポイントはありますか?
A 会社・社員双方に次の手続きが必要です。
- 支払家賃の20.42%の税率で源泉徴収が必要
- 社員C(貸主側)は、不動産所得として確定申告が必要なので、出国時までに納税管理人の届け出をしておくこと
【解説】
非居住者から国内にある不動産の貸付けを受け、その対価を支払っている場合には、原則として支払対価の20.42%の税率で源泉徴収が必要となります。
ただし、不動産の賃料のうち、土地、家屋等を自己またはその親族の居住の用に供するために借り受けた「個人」が支払うものについては、源泉徴収の必要はありません。今回のケースでは、「法人」が家賃を支払うので、源泉徴収が必要となります。仮に海外赴任者の自宅を「個人」が借りて自宅として使用している場合には、「個人」が家賃を支払うことになるので、家賃支払いの際に源泉徴収の必要はありません。
Q 非居住者の社員が日本の自宅を売却する際、納税は?
今年で海外赴任10年目になる社員Dですが、家族も海外生活に慣れてきたので、日本にある自宅を売却することにしました。非居住者に当たるDは売却に当たって日本に納税する必要はありますか?
A 非居住者であっても、国内源泉所得については課税対象
- 国内源泉所得となり、売却対価の10.21%の税率で源泉徴収が必要
- 社員Dは売却した年の翌年3月15日までに確定申告が必要
- 社員Dは(それまでに納税管理人を選任していない場合)、土地売却による申告義務が生じた時点で速やかに納税管理人の届け出を行う
【解説】
非居住者であっても、国内源泉所得については課税対象となります。従って、非居住者が国内の土地を売却して得た利益は国内源泉所得になります。売却対価の10.21%の税率による源泉徴収のうえ、譲渡所得として確定申告が必要です。一方、譲渡損失の場合は申告しなくてよいと思いがちですが、売却代金から源泉税が差し引かれているので、この源泉税を取り戻すべく申告した方が有利になります。なお、出国するまでに納税管理人の選任を行っていなければ、申告義務が生じた時点で速やかに納税管理人の選任をする必要があります。
Q 海外在住の個人事業主への報酬について課税は?
当社で開催した記念セミナーに海外から特別講師(アメリカ在住)を呼びました。講演費を直接支払うのですが、日本での課税関係はどうなるでしょうか?
A 個人事業主であっても、国内源泉所得については課税対象
特別講師は個人事業主であり、また非居住者に該当します。従って日本での講演活動による所得に対しては、役務提供地国である日本で源泉徴収(税率は20.42%)されることとなります。
【解説】
本稿では従業員の給与所得を中心に解説していますが、個人事業主に対する報酬の支払いに当たっても同様に、居住者と非居住者、非永住者という居住ステータスが問題となります。従って、上記回答のように、支払う相手がアーティストや専門家などで個人事業主である場合は「非居住者」として、国内源泉所得については課税対象となります。
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まとめ
以上のように、居住者・非居住者に対する税務は、納税義務者がどの居住ステータスに区分されるかによって取り扱いが異なってきます。また、居住者になるのか、非居住者になるのかの判定は、業務の性質や家族の状況などによって総合的に判断されるので、どちらに区分されるのか判断に迷うこともあるでしょう。経理担当者は、納税者の状況をしっかりヒアリングして、その現況をよく確認することが非常に大切です。
また社員が非居住者になった場合、国内源泉所得(土地の売却収入や家賃収入など)がある場合は入金される前に源泉徴収されています。その際、会社から受領した「支払調書」が確定申告の基礎資料となることも当該社員に注意喚起しておくとよいでしょう。
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