2022年 1月11日公開

【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

「トラブルを回避できる『入社誓約書』の書き方」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

春の年度替わりを控えて、入社手続きに関する書類の準備作業が増えることでしょう。今回はとりわけ弁護士事務所への相談が多い「入社誓約書」の書き方について、トラブルを未然に防ぐという観点から具体的に解説します。

入社誓約書とは

入社時には、労働条件通知書など会社が社員に法律上交付しなければならない書類があります。一方で、会社の利益を守るために、本人の承諾の証しとして社員からサインをもらっておくべき書面もあります。その主たるものが身元保証書と入社誓約書(以下、誓約書)です。今回は誓約書にフォーカスして、その中にどんな内容を盛り込むべきか考えてみましょう。

誓約書とは

採用に当たって、会社の方針やルールを順守するよう、社員との約束を取り付けるための書類です(注)。社員が守るべき事項を最初に示し、これを順守する旨の本人の署名を得ておくことで、入社後の労務管理がしやすくなります。

  • (注)内定者の入社の意思を確認するための書類(入社承諾書、内定承諾書等)を「入社誓約書」と呼ぶ場合もありますが、本稿では上記の趣旨で使用しています。

就業規則との整合性

誓約書は、就業規則に定めた内容を社員本人に再認識してもらうための書類です。このため就業規則と整合性がとれる内容にしておく必要があります。例えば、就業規則に懲戒に関する規定がなければ、誓約書の内容を破ったとしても、そのことを理由に懲戒処分を科すことはできません。

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誓約書に盛り込むべき内容

誓約書に盛り込むべき主な内容として、一般的には以下のような項目が挙げられます。

1. 服務規程の順守

服務規程は社員が守らなければならない「最低限のルール」です。業務命令、上長の指示命令に従い誠実に勤務するなど、職場のルール徹底を図るうえでも服務規程順守に関する内容は重要です。

2. 経歴・資格の確認

採用に当たって提出した職務経歴や保有資格など、能力に関する事項について、うそ偽りがない旨を誓約してもらいます。介護事業などのように資格保有を条件に雇用するケースの多い業種では特に重要です。

3. 秘密保持

会社の秘密情報や、業務上知り得た顧客・利用者等の秘密を漏らさない、そして目的外利用しない旨を誓約してもらいます(次項を参照)。

4. 人事異動

入社後の人事異動でトラブルとならないよう、勤務地の異動や職種転換等の配置転換に従う旨を誓約してもらいます。

5. 損害賠償

故意または過失により会社に損害を与えた場合、その責任を負う旨を誓約してもらいます。ただし、「罰金○○○万円」というように具体的な賠償額を記載することは労働基準法で禁止されているので注意が必要です。

6. 社員の個人情報提供

労務管理や賃金管理および業務上必要となる社員の個人情報について、会社に提供することを誓約してもらいます。

秘密保持誓約書

前項の(3)秘密保持について、より詳細な定めが必要な場合は「秘密保持誓約書」を別途作成することもあります。特に社員が営業秘密や会社独自のノウハウ・技術などに触れる可能性がある場合は必須といえるでしょう。

秘密保持誓約書に盛り込む内容としては――

  • 秘密保持の誓約
  • 秘密の報告および帰属
  • 退職時の秘密情報の返還義務
  • 退職後の秘密保持
  • 損害賠償

などの項目が一般的です。近年では、秘密情報のSNSへの投稿禁止を明記するケースも増えています。

競業避止義務条項について

退職後、「競合企業への転職」「競合する企業の設立」などの競業行為を禁止するかどうか、禁止するとして禁止期間・禁止範囲をどのように設定するかは、退職者の待遇や仕事内容等に照らして広すぎると無効になる恐れがあります。一概には決められない部分もあるので、作成に当たっては専門家に相談するのが望ましいといえます。

競業避止義務については以下のバックナンバーを参照ください。

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追加的に盛り込むべき内容

前項では一般的な内容を紹介しました。そのうえで、会社の業種や事業内容によって盛り込むことを検討すべき内容があります。例えば従業員に不正の疑い等が生じたとき、円滑に調査できるように、以下のような条項を盛り込んでおくことが考えられます。

  • 私物、電子メール、インターネット閲覧履歴等の調査への事前了承
  • 防犯カメラ設置への事前了承

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誓約書の効果

誓約書の法的効力

誓約書は互いの合意事項等について行き違いをなくし、トラブルを防止する目的で作成されるものです。内容が違法にわたるものでない限り、誓約書は法的に有効なものとなります。

社員に対する心理的効果

誓約書を作成することによって、口約束と比較して「会社との約束を守らなければならない」という意識を社員に持たせるという意味での心理的な効果が期待できます。また、もしも社員が誓約書の内容を破るような行為をしたときや、しそうなときなどは、誓約書を示して注意指導することができます。

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まとめ

誓約書は、社員の地位や職種によってその内容等が変わってくるものです。役職が高くなれば会社の重要な経営情報に触れる機会も増えるので、退職後に禁止したい競業範囲も増えることになります。

従って誓約書は入社時に一度きりでなく、社員の昇格や新規プロジェクト参加など適切なタイミングで、そのときの地位・職種等に応じて結び直すことが望ましいといえます。特に秘密保持や競業避止の項目については、しかるべき節目に見直していきましょう。

誓約書は会社と社員の双方で交わす約束の覚書です。万が一、社員との関係がこじれると、せっかく誓約書を改定してもサインしてもらえなくなる恐れがあります。社員と良好な関係を保ち、誓約書を更新し確認・署名をもらうようにしましょう。

誓約書雛型の一例(一部)

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