有期雇用契約の基本
「雇い止め」でトラブルを招くことのないよう、まず有期雇用契約の基本をしっかり理解しておきましょう。
有期雇用契約とは
有期雇用契約とは「契約期間の定めがある雇用契約のこと」です。「契約期間の定めがある」ということは、契約期間の最終日をもって雇用契約が終了し、退職となるのが本来の姿です。
雇用契約書の記載事項
有期雇用契約を締結する場合は、以下の項目について雇用契約書等に明示しておかなければなりません。
- 契約期間の開始日と終了日
- 契約期間満了後、契約更新をすることがあるのかないのか
- 契約更新をする可能性がある場合、何を根拠に更新するか否かの判断をするのか
契約更新の判断基準
上記(3)にある契約更新するかどうかの判断基準としては、労働者側の観点からは、能力、勤務態度、出勤状況、勤務成績等が挙げられます。また、会社の都合としては、業務量、経営状況、業務の進捗(しんちょく)状況などが考えられます。いずれも自社の実態に即した判断基準の記載が求められます。
いずれにしろ、「これで雇用契約は終了」とする際には、これらの判断基準を基に当事者に伝えることとなります。
トラブルを招く原因とは
定めた契約期間の最終日で退職する場合は、お互い同意のうえで決めたとおりなので問題は生じません。しかし実際には、契約期間満了後も雇用契約を更新して継続する、そして更新を何度も繰り返す、といった例は珍しくありません。このように度重なる契約更新が常態化している場合、雇用主の都合で「今回で雇用契約は終了」とするときに、トラブルへと発展するケースが多く見られます。労働者はこれまでと同様、次も更新があるものと期待しているからです。
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契約更新手続きの基本
契約更新の手続きは必ず行わなければなりません。万が一、同じ労働条件で更新するとしても「契約期間が変わる」のですから、あらためて雇用契約書の締結をする必要があります。そのうえで、契約更新手続きではどんな点に気を付ければよいのでしょうか。
望ましい更新手続きとは
プロ野球の契約更改では、一定のプロセスを経て、選手と球団が互いに納得して契約するという形を取っています。すなわち、今季の働きぶりについて評価し、それを基に来季の役割、期待度を伝えて年俸額を決定します。
これを会社に置き換えると、更新手続きの理想形が見えてきます。今期の社員の仕事ぶりを評価したうえで次期への期待を伝えるということです。例えば「今期は担当業務を安心して任せることができるまで成長したことを評価している。周りともうまくやっているようだし、来期も引き続き業務をお願いしたい。加えて、来年は後輩の指導もお願いしたいと考えているが、どうだろうか」といった感じでしょうか。今期は○○だったので、次期は○○を期待するというふうに、契約期間終了と次の契約更新を関係付け、有期契約であることを意識付ける伝え方が大切です。
避けるべき更新手続きとは
更新時にしっかりと面談せず、契約書に署名押印だけを求めるような「毎年恒例の契約更新」になることは避けましょう。こうした形だけの更新を続けてしまうと、トラブルになった際に、雇用契約書上「期間の定めがあり」となっていても、「実態は期間の定めのない契約」と判断されてしまうことがあります。
最悪の更新手続きとは
最悪なのは、期間満了日以降に雇用契約をバックデートで更新することです。「4月にさかのぼって契約書を作成してあるからサインしといて」という安易な更新が実際に見られます。こうしたケースで労働者が不当な雇い止めだと訴えた場合、新たな契約書にいくら契約期間の定めが明記されていても、前契約のうち「期間の定め」の部分が「定めなし」と解釈され、その他の労働条件をそのまま引き継いだ契約が自動的に更新されたとみなされてしまうことがあります。
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更新手続きのタイミング
契約更新手続きはいつまでにどのように行うのが適切でしょうか。
契約更新の流れ
契約更新に当たっては、契約満了日の2カ月ほど前に、更新するかどうかをその理由とともに考え最終的に判断します。
契約更新をする場合には、新たな「雇用契約書」を作成します。更新しない場合には「更新をしない理由」を整理し、1カ月前までには本人に通知するという流れになります。多くの有期契約労働者が在籍している場合は、毎年1月や4月などキリのいい月にまとめて契約更新の手続きをすると決めておくとよいでしょう。一人も取りこぼすことなく契約更新をするにはこういった工夫がおすすめです。
注意! 契約更新をしない場合
以下の従業員に対して「契約更新をしない旨」を伝える場合は「30日以上前」でなければなりません。
- 1年を超えて継続して雇用している者
- 3回以上契約更新を行っている者
短期契約について
労働契約法では、期間の定めのある労働契約について、「労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その雇用契約を反復して更新することのないよう配慮」しなければならないとされています。このため契約更新をする場合も、「契約の実態、本人の希望に応じて、できる限り契約期間を長くすること」が求められています。契約期間の定めがある契約は、労働者にとっていつ満了となるのか不安な状態であるため、これらの事項が定められているのです。
労働基準法によれば、有期雇用契約について期間の上限は「原則3年」とされていて下限についての定めはありません。しかし、法の趣旨と本人の希望に沿って、できるだけ長く期間設定することが望ましいといえます。それに契約期間が「3カ月」等の短い場合は、契約更新手続きを繰り返してばかりで事務も煩雑となってしまいます。
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無期転換ルールについて
労働契約法が改正され、2013年4月1日以降に締結・更新された有期労働契約には「無期転換ルール」が適用されることになっています。
契約更新で5年を超えた場合
有期契約を更新して5年を超えた場合に、労働者は「無期雇用への転換を申し出る権利」を手にします(注1)。労働者がこの権利を行使した場合、企業は「承諾」することが義務付けられています。
契約更新をして長期間勤続している契約社員は、企業にとって必要な戦力といえるでしょう。これらの契約社員については、正社員に転換する措置を速やかに講ずることを検討する必要があります。
正社員化を支援する制度
有期雇用労働者の正社員化を促すことを目的とした「キャリアアップ助成金」という制度があります。これは契約社員を「有期」という不安定な雇用形態のまま長期間置いてはならないという国からのメッセージです。正社員化に当たっては、こうした助成金の活用を検討するとよいでしょう。詳細は以下、厚生労働省のWebサイトをご参照ください。
参照:厚生労働省「キャリアアップ助成金のご案内」(令和3年4月1日版)
※厚生労働省のWebサイトから最新のものをご確認ください。
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まとめ
年度末を迎えるに当たって、契約社員の雇用契約更新を進めている企業も多いかと思われます。今年は、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、雇用契約の更新をするかどうかで頭を悩ませている経営者も多いことでしょう。
ただし、これまでに何度か契約更新をしてきた労働者に対しては、単純に「期間が終了したので」と「雇い止め」することはできません。まず契約書をしっかりと取り交わしていること、そして「契約更新をしない場合の基準」が契約書に記載されていることを確認しておきましょう。
「同一労働同一賃金」が施行されている中で、契約社員の位置付けをあらためて整理し、必要な人材はしっかりと戦力化することを検討するとよいでしょう。それには、適正な雇用契約書の作成、更新手続きがベースとなります。これを契約社員の労働条件を見直すきっかけとしてはいかがでしょうか。
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