2018年 9月11日公開

【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

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「無期転換社員の労働条件見直し」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

2018年4月から、雇用期間が5年を超える契約社員との労働契約が有期契約から無期契約へ変更されました。この「無期転換ルール」で契約変更する社員にはどのような労働条件を提供すればよいのでしょうか。今回は無期転換社員の労働条件見直しに当たっての基本的な考え方や取り得る選択肢について解説します。

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無期転換ルールと労働条件

無期転換ルールの基本

2013年4月1日以前より継続雇用されている「有期契約労働者」は、2018年4月1日以降、通算で5年を超える労働契約となるため、自らの労働契約を「無期契約」(契約期間の定めのない契約)に変更するよう申し出ることができます。この申出を、使用者は拒否することはできません。従って労働者の申し込みで「無期契約」は成立することになります。

無期転換ルールの基本についてはバックナンバー「契約社員のルールが変わる!」の巻を参照ください。

「契約社員のルールが変わる!」の巻

以上が「無期転換ルール」の概要です。計算期間が始まる2013年4月1日から数えて5年目、2018年4月1日に5年を超える社員から対応を迫られることから、「2018年問題」といわれてきました。とはいえ2018年4月を過ぎた今も、無期転換後の社員(以下、「無期社員」)の労働条件をどう改めるべきか、まだ見直しができていないという中堅・中小企業も多いのではないでしょうか。実は、この対応の問題、もはや手遅れということでもないのです。

まだ間に合う、「無期社員」の労働条件見直し

無期契約の開始日は、現在の契約満了日の翌日です。例えば、2018年4月1日から1年契約の労働者が「無期転換」を申し出た場合は、契約満了日の翌日である「2019年4月1日」から無期契約の労働者となります。つまり、実際に無期社員が発生するのは、今の契約期間が満了した後となるのです。従って契約満了時期によっては「無期転換後」の労働条件を整備する時間は残されているということになります。

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労働条件見直しのポイント

長期雇用を前提とした労働条件に

無期転換後の契約期間は「有期」から「無期」に変わるものの、使用者にはその他の労働条件を変更する義務はありません。つまり、無期社員を「正社員」と同等の処遇にしなければならないわけではなく、現行の労働条件の契約期間の定めだけ有期契約から無期契約に変更すればよいのです。とはいえ、無期契約となると長期雇用を前提とした労働条件を考えなければなりません。

見直しのポイント

長期雇用を前提とした労働条件へと見直すときに、どんなことに気を付ければよいのでしょうか。検討に当たっては次のようなポイントが参考になるでしょう。

以上が代表的な見直しポイントです。全てを正社員と同レベルにそろえることも一つの考え方ですが、逆に正社員とそろえないのであれば、そのことを納得してもらえる合理的な理由が必要だといえます。

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活用したい助成金制度

労働条件を向上させたいけど予算がない――。そんな企業を応援する制度が、厚生労働省が提供する「キャリアアップ助成金」です。

キャリアアップ助成金とは

パート・アルバイトなど有期契約労働者の企業内でのキャリアアップ等を促進するために厚生労働省が力を入れている制度です。この制度を活用しながら、非正規労働者の労働条件を整備することが可能です。

助成の対象となる会社

従業員が中長期的に働くことのできる環境を整えて、雇用関係が継続するよう計画的に努力している会社です。そのために「キャリアアップ計画書」の提出が求められます。助成金の利用には次の二つのコースが設けられています。

正社員化コース

有期契約労働者等を正規雇用する際、もしくは多様な正社員(注1)等に転換する際に助成するもの。

処遇改善コース

有期契約労働者等の賃金規定等の改定、健康診断制度の導入、賃金規定等の共通化、週所定労働時間を延長し、社会保険に加入できるようにする際に助成するもの。

  • (注1)多様な正社員とは、いわゆる正社員(従来の正社員)と比べ、配置転換や転勤、仕事内容や勤務時間などの範囲が限定されている正社員のことをいいます。正社員と非正規雇用労働者との二極化を緩和するために導入が推奨されています。

事例紹介

工場を持つA社では、30人ほどの契約社員が在籍しています。このたび、契約社員のモチベーションアップと能力アップを目的とする「正社員転換制度」を創設。毎年9月に希望者を対象とする正社員登用試験を実施し、合格者は10月から正社員とします。新制度により、この10月には、5名の契約社員が正社員となりました。

同時に、正社員にのみ支給対象としていた「家族手当」を契約社員にも支払うこととし、4人の契約社員が新たに支給対象となりました。

この事例では、キャリアアップ助成金の支給申請を行うと、「正社員化コース」で285万円、「諸手当制度共通化コース」で42万5,000円の助成金が支給される予定です(中堅・中小企業の場合)。

ほかにも健康診断制度を設ける場合、有期契約労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、延べ4人以上実施した場合、1事業所あたり40万円が助成されるなどの例もあります。

なお、助成を申請するにはさまざまな書類や要件などが必要になります。必要に応じて社労士(注2)などの助けを借りながら手続きを進めていくとよいでしょう。

  • (注2)労働社会保険諸法令に基づく助成金の申請書の作成および行政機関への提出を代行できるのは、社会保険労務士のみとなっています。

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労働条件の見直しに当たって

人手不足の時代に入り、企業間における人材確保の競争が始まっています。無期社員に、良いパフォーマンスで働いてもらうためには、「長い間、気持ち良く働いてもらえる環境」を整える必要があります。

「同一労働同一賃金」時代を視野に

無期社員の処遇を、理由なく正社員より低く設定することは、これからは難しくなるでしょう。今後、法改正が予定されているいわゆる「同一労働同一賃金」を念頭に置けば、無期社員として長期雇用する場合に、正社員と「同一労働」となる可能性が否定できないからです。同一労働であるかどうかは、単に業務が同じかどうかというだけでなく、職務内容、配置の変更範囲などを考慮して判断するものとされています。また、この機会に賃金だけでなく、休職制度や慶弔休暇、福利厚生の制度、研修等についても見直しを図るとよいでしょう。

公平性のあるルールを作成・説明すること

これまで契約社員を選択していた無期社員の中には、「限られた時間だけ働きたい」「土日は働けない」「この時間帯・この地域だから働ける」……といった事情を抱えた人も多いことでしょう。無期化は歓迎するけれど正社員になりたいわけではないという労働者もいるのです。多様な働き方が求められる中、どれだけ納得感のある選択肢が提供できるか、働き方とバランスのとれた処遇を考えていく必要があります。労働者の定着を促すのは、何も処遇を良くすることだけが正しい道とは限りません。公平性のあるルールを作成し、十分に説明することが大切なのです。

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