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2018年10月 9日公開
【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与
【アーカイブ記事】以下の内容は公開日時点のものです。最新の情報とは異なる可能性がありますのでご注意ください。
テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ
取引先が商品の代金を支払ってくれないといった問題は、しばしば起こりえるもの。こうした未収金がたまってくると、中堅・中小企業にとっては死活問題となります。今回は知っておくと役立つ債権の回収方法や回収に当たっての心構えについてご紹介します。
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ここでは取引先から売掛金が支払われないケースを想定した回収の方法を紹介します。いつか払ってくれるだろうと悠長に待っていると消滅時効になったり、債務者が倒産したりして回収不能になる恐れもあるので気をつけましょう。債権回収というと「裁判」を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、まずは初期段階として当事者同士でできる(やっておくべき)回収の方法から紹介します。
債権回収の第一歩は書面、または口頭での催促です。期限を超えたらすぐに催促することが肝心です。大事なお得意様だから多少遅れたくらいで催促はどうも……と放置しておくと、債務者に「後回しにしてよい債権者」と思わせてしまいます。督促はメールでも構いません。また督促状に代えて請求書を再送付する場合は、支払期限に遅れていることを指摘し、速やかな支払いを求める督促の一文を添えておきましょう。
内容証明郵便とは、「いつ、どういった内容の文書が誰から誰宛てに差し出されたか」ということを郵便局が証明してくれる制度です。文書の内容は、「支払わない場合には裁判に訴える」という強い意志を表明するものとなります。この段階で弁護士が入るケースが多いといえます。
債務者が分割による弁済や弁済の延期を求めてくる場合は、担保の提供を求めるのも有効です。担保で一般的なのは、保証人、不動産、株式など。ただ、お金に困っている会社はそもそも担保になり得るものがないケースが多いのが現実です。そういった場合、会社の在庫品や機械などの「動産」を担保に取る「動産担保(動産譲渡)登記」という制度があります。不動産担保に頼らない資金調達の一つの方法ですが、企業の売掛金を担保する方法としても利用できます。ただメリット・デメリットがあるので、制度に詳しい弁護士や司法書士など専門家に相談されることをお勧めします。
債務者との話し合いによって支払いを分割にする場合、公正証書を作成するのも有効です。「執行認諾文言」を入れておくことで、将来不履行があったときにすぐに強制執行でき、スピーディーな債権回収が可能になります。もしも公正証書がなければ、強制執行するには裁判を起こして判決等を得なければなりません。ただ、公正証書の作成に応じるかどうかは債務者次第となります。また、作成費用もかかるほか、公証役場に行くなどして手間がかかるというデメリットもあります。
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当事者同士の話し合いでらちが明かないときは、裁判に訴えるしかありません。ただし、裁判には費用も時間もかかるので、それなりの手順を踏んで進めていくことになります。
資産の有無を知ることが出発点
相手に資産がなければ裁判を起こしても回収できません。こちらの言い分が認められても、裁判にかけた費用も手間も、全ては無駄に終わるのです。このため、事前の資産調査が欠かせません。
事前調査では次のようなポイントを見ていきます。
私人による調査には限界がありますが、弁護士に依頼して弁護士会を通じて照会手続きをすると調査範囲は大きく広がります。例えば住民票を入手したり、生命保険契約の有無、預金の有無、預金の種類・変動・残高など(注1)を調べたり、さらには車のナンバーを元にした所有者情報の確認や、携帯電話番号を元にした住所・引落先口座の調査などが可能になります。
債務者の「資産隠し」に先んじて
裁判を起こして判決を得た場合は、相手の資産(不動産、動産、預金、売掛金など)を差し押さえる強制執行が可能となります(後述)。しかし、債務者の中には裁判中に資産を隠す者もいます。そこで、裁判前に不意打ちで債務者の資産を仮に差し押さえる制度が設けられています。
仮差押えに成功した場合のインパクトは大きく、取引口座を仮差押えされた債務者は慌てて弁済してくるケースが多々あります(注2)。とはいえ、預金や売掛金の仮差押えは債務者の信用を失墜させることにつながります。そのことがきっかけとなって債務者を一気に倒産に追い込む可能性もあるのです。このため仮差押えのタイミングは慎重に考えなければなりません。
なお、仮差押えは文字どおり「仮」に差し押さえる制度なので、通常、債権額の10~30%程度の金額を担保金として裁判所に納めなければなりません。仮差押えの後には通常訴訟を起こすことになり、その裁判に勝てば担保金は戻ってきます(注3)。
簡単な手続きで「話し合い」解決
民事調停は裁判所を間に入れて当事者同士で「話し合い」をする制度です。手続きが簡単で、かつ非公開なので、通常訴訟等に比べると双方にとって心理的抵抗の少ない制度といえます。
となっています。調停は、通常訴訟ほどではないにしろ、手続き上の決まりごとがあるので弁護士に依頼する方が苦労は少ないといえます。
書類審査のみで迅速に手続き
支払督促は、書類審査のみで行う迅速な手続きです。申立人の申し立てに基づいて裁判所書記官が金銭の支払いを命じます。これによって相手方からの異議の申し立てがなければ判決と同様の法的効力が生じます。債務者が債務の存在自体は争わないだろうという場合には簡易で有用といえます。ここで異議申立てがあると通常訴訟に移行することになります。
請求額が60万円以下なら
請求額が60万円以下と低額の場合には検討してよい制度です。訴訟は原則1回の審理で終わります。ということはそれだけしっかり事前準備しないといけないということになります。その意味では、決して「楽」な制度というわけではありません。
債務者が争う姿勢であれば
これまでに紹介してきた制度に比べれば費用も高く、期間も長くなる傾向にあります。しかし、債務者が債務の存在や金額を争ってくる可能性が高い場合は選択せざるを得ないこともあります。
通常訴訟は最終的には判決を目指して進められますが、途中で話し合いを行い、「和解」で終了することもよくあります。事案によっては最初から和解狙いで通常訴訟を提起することもあります。相手が交渉段階ではかたくなであったが、中立の立場にある裁判官に訴訟の中で和解を勧められることで、それを受け入れるというケースもままあるからです。
税務上のメリットも期待できる
請求を認める判決等が出た場合には、資産調査により判明した債務者の資産に対する強制執行を行います。
強制執行をして万が一「空振り」に終わった場合でも、事実上の貸倒れとして損金計上できる場合があります。回収できないことが客観的に証明されたことになるからです。こうした税務上のメリットを得るため、貸倒損失処理を目的として強制執行を行うこともあります。
債権回収に当たっては次のような心構えで臨んでください。
支払いの遅れている取引先はほかへの支払いも遅れていることが多いので後回しにされないように注意しましょう。それには「すばやく」「しつこく」請求して、相手に「面倒くさい債権者」と思わせることです。
一気に全額回収したいという気持ちは分かりますが、期待しすぎは禁物。全額弁済を求めて回答を先延ばしにされているうちに債権が時効によって消滅してしまいかねません。一部でもいいから先に返済してもらうことです。一部とはいえ返済を既成事実にすることは消滅時効を中断するという意味でも重要なのです。
普段の何気ない会話から相手のメインバンクや主な取引先など、資産に関係する情報を可能な限り聞き出しておきましょう。支払いが滞って、いざ回収の手続きが必要となったとき、スムーズに調査を始めることができます。
ただし、以上はいずれも対症療法であり、根本治療にはなりません。根本治療とは、不払いが発生しにくくなるような仕組みや、不払いが発生しても被害を最小限に抑える仕組みを事前に構築しておくことです。すなわち与信管理をしっかり行い、取引先の信用レベルに応じた規模・条件の取引を心掛けましょう。例えば初めての取引の場合には取引額を小さくするとか、代金の全部または一部を先払いにしてもらうなどといった対応が考えられます。また、取引先の「変化」に敏感になることも大切です。おかしな兆候がないかどうか、普段から取引先の動向を警戒しておくことが最大の防御策なのです。
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