2022年 3月15日公開

専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

「会社・役員間での金銭貸し付けではここに注意!」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

中堅・中小企業、特にオーナー企業では、会社と役員との間でお金を融通し合うことは少なくありません。そんな場合、会社側・役員側の会計や税金はどのように扱うのが適切なのでしょうか。今回は、会社と役員との間で金銭貸し付けをするうえで注意すべきポイントを解説します。

みなし役員

会社から役員への貸し付け、あるいは役員から会社への貸し付けの問題に入る前に、まず大前提となる「役員」の定義について考えておきましょう。

法人税法における「役員」

役員とは一般に、企業や組織において社長や専務などのように中心的な役割を持ち、管理監督を行う者のことをいいます。一方で、法人税法には「役員」と「みなし役員」の2種類が設けられています。

役員とは

「法人の取締役、執行役、監査役、理事、監事及び清算人」など、役員として選任された者。

みなし役員とは

法人税法においてのみ役員と同じ扱いをされる者のこと。役員として登記されていませんが、次の(1)、(2)に該当する者をいいます。

(1)法人の使用人以外の者でその法人の経営に従事している者(顧問、相談役など)
(2)同族会社の使用人のうち、「特定の株主」に該当し、経営に従事している者

みなし役員と認定されるか否かは、法人の経営方針について発言できる立場にあるかどうかで判定され、その際は、その人の経験、年齢、法人内での力関係等が併せて考慮されます。

みなし役員を理解するためのポイントは次の五つです。

ポイント(1)「経営に従事している者」

法人の業務執行方針を決定すること、当該業務を執行することです。具体的には、販売計画、仕入・製造計画、人事政策(従業員の採用、主要な人事、給与、賞与の額の決定)、資金計画、設備計画などに参画することをいいます。

ポイント(2)「特定の株主」

持ち株割合が50%超となるまでの第3順位までの株主グループに所属している者で、その者の属する株主グループの持ち株割合が10%を超えており、その者とその配偶者などの持ち株割合が5%を超える者。

ポイント(3)みなし役員への制限

従業員の給与・賞与は「給与手当」として全額損金となりますが、みなし役員に認定されると、その給与や賞与は役員報酬として扱われます。すなわち役員賞与の損金不算入、定期同額給与などの制限を受けることになります。

ポイント(4)同族会社は要注意

同族会社では、親族を役員として起用する場合もあれば、従業員として雇用している場合もあります。同族経営の場合、少数の特定株主による意思決定で法人税や所得税の負担を回避できるので、みなし役員には税務調査の目が向けられやすいといえます。

同族会社とは

経営者一族が会社の出資持分の全部またはほとんどを所有している会社のことです。正確には会社の株主の3人以下、ならびにこれらと特殊な関係(親族や婚姻関係など)にある個人や法人が議決権の50%超を保有している会社をいいます。税法上は、次の三つの基準のいずれかに該当する会社になります。

(1)持分基準
発行済株式数のうち、上位3人以下で50%以上の株式を保有している場合
(2)議決権基準
その会社の議決権につき、上位3人以下でその総数の50%超の数を有する場合
(3)社員数基準
持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)では、「社員」(注1)の総数の半数超を占める場合

  • (注1)「社員」(=出資社員)のことで、一般にいう社員(従業員)ではありません。

事例Q&A

Q.社長の娘婿は役員とみなされる?

当社は同族会社ですが、社長の娘婿が使用人として勤務しています。その娘婿は役員とみなされますか?

A. 職務内容と特定株主かどうかで判定されます

娘婿は将来の取締役候補として期待されていることが多いといえます。ただし、みなし役員かどうかは、娘婿の職務内容によって判定されます。法人の経営に従事していて、特定の株主に該当していれば、みなし役員となります。一方で、娘と娘婿の二人分の持ち株割合が5%以下で法人の経営に従事していない場合はみなし役員になりません。

Q.社長の息子はみなし役員?

今年新卒で入社した当社の社長の息子は使用人として勤務し、部課長の指揮命令の下、業務を行っています。また、取締役会や銀行との折衝、人事や給与の決定などには一切関わっていません。この場合、社長の息子はみなし役員になりますか?。

A.経営に従事していなければ一般社員

使用人として勤務していて、会社の経営に従事しているとはいえないので、みなし役員にはなりません。しかし、この後、経験を積んで資金計画や販売計画、人事や給与面についてその決定に影響する立場になると、取締役の肩書はなくとも「経営に従事しているもの」と考えられます。その場合は、みなし役員と判定されるでしょう。

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会社から役員への貸し付け

会社は営利を目的に活動する営利法人です。従って、営利目的の法人が役員(個人)に金銭を貸し付ける場合は、「一定の利息」を徴収しなければ、その利息との差額は経済的利益を与えたものとみなされ、役員に課税されるリスクがあります。

一定の利息とは

次の(1)、(2)をいいます。
(1)その金銭を法人がほかから借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には、その借入金の利率(「ひも付きの利率」といいます)
(2)その他の場合は、貸し付けをした日の属する年に応じた利子税特例基準割合(注)

  • (注)銀行金利を基準に国が定めた金利。特例基準割合は毎年変わるので、国税庁のWebサイトで確認が必要です。令和3年中に貸し付けたものについては「1%」となっています。

例外事項

無利息、低利の貸し付けであっても、次のような場合は経済的利益として課税されません。
(1)災害、疾病等により臨時的に多額の生活資金(結婚、入学等のための資金は該当しない)が必要になった役員への貸し付け
(2)役員に貸し付けた金額につき、会社の借入金の平均調達金利(注2)など合理的と認められる利率

  • (注2)会社が役員に貸し付けをした事業年度の、前事業年度の借入金平均残高と支払利息を基に計算した金利。平均調達金利の計算式は以下。

(前事業年度の支払利息合計)÷(前事業年度の借入金平均残高)=平均調達金利

会社が役員に対して金銭を貸し付ける場合は、次のポイントに注意しましょう。

ポイント(1)会社が役員に対して金銭を貸し付ける場合、ほかから借り入れたときの金利(「ひも付きの利率」)を使わない場合は、平均調達金利と特例基準割合のどちらの金利が有利か事前に検討するとよいでしょう。

ポイント(2)会社が役員に対して低利や無利息で貸し付ける場合は上記「例外事項」にあるような相当の理由が必要になります。

ポイント(3)会社が貸し付けた役員から適正な利息を徴収していないと、税務調査時、「一定の利息」分と実際に徴収した利息の差額が「役員報酬」として認定されるため、源泉所得税を追加納付しなければなりません。

事例Q&A

Q.自社株買い取り資金を社長に貸し付ける場合の利息は?

当社はこの度、株主Aから当社株の買い取り計画の一環として、社長に対して買い取り資金の貸し付けを行う計画を立てています。貸付金に対する利息は何%が適正でしょうか。また、できるだけ低い利率で貸し付けできる方法も教えてください。
なお、当社の借り入れ状況は以下のとおりです。

  • 令和3年3月期(前事業年度):12カ月 3月決算
  • 前事業年度の借入金状況
  • A銀行:期首残高2,000万円 月額20万円返済
  • B銀行:期中新規借入3,000万円 月額30万円返済
  • 前事業年度支払利息合計:30万円
  • 貸し付け実施日:令和3年12月

A.平均調達金利を計算し、利子税特例基準割合と比較します。

  • 前事業年度借入金年間合計額:42,810万円
  • 前事業年度月数:12月
  • 借入金平均残高:3,567万円
  • 30万円÷3,567万円×100=0.8%

令和3年中の利子税特例基準割合は1%ですが、平均調達金利0.8%の方が低いので、0.8%を採用します。

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役員から会社への貸し付け

役員は私人として生計の維持は必要ですが、稼ぐことだけが目的ではありません。そこが営利を目的に活動する会社との違いです。従って役員が会社に金銭を貸し付けた場合、必ずしも利息を徴収すべきということにはなりません。

役員からの貸付金は無利子でも問題なし

役員が会社に金銭を貸し付けた場合は、たとえ無利息であったとしても、税務上直ちに問題にはなるとは考えられません。なお、役員が会社から利息を徴収した場合は、雑所得として総収入金額に算入することになります。

貸付金は相続税の対象に

役員が死亡した場合、会社に貸し付けた貸付金は相続税の課税対象となります。不動産など換金性の高い財産と違い、貸付金は直ちに資金化することは困難といえるでしょう。貸付金が多額である場合は、その解消方法も併せて検討しておくことが肝要です。

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まとめ

役員には登記されている表面上の役員と、実質的に役員とされる「みなし役員」があることを押さえておきましょう。同族会社の場合、社長の親族は特に注意が必要です。親族を社員として給与・賞与を支払っていると税務調査で「みなし役員」と指摘され、追徴課税を課される例も多く見られるからです。「みなし役員」に該当するかどうかは、その実態で判定されるため、詳しくは専門家に確認することをおすすめします。

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ライター紹介

梅原光彦

ライター歴30年超。新聞、雑誌、書籍、Web等、媒体を問わず多様なジャンルで書き続ける。その一つが米原万里著『打ちのめされるようなすごい本』に取り上げられたことが勲章。京都在住。

監修/田中章仁(たなかあきひと)

プロフィール

1974年生まれ。神奈川県出身。東京税理士会渋谷支部所属。個人事業主から中小企業まで幅広くサポート。モットーは「共に悩み、共に喜ぶ」。週末は少年野球の監督も務める。4児の父。

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