2022年 4月12日公開

【連載終了】専門家がアドバイス なるほど!経理・給与

「改正育児・介護休業法、始まる!」の巻

テキスト/梅原光彦 イラスト/今井ヨージ

  • 経理

2022年4月1日から改正育児・介護休業法が施行されています。今回も含め、育児・介護法については改正が続いているため、対応が遅れている中堅・中小企業も多いことでしょう。今回は義務化項目の多い育児休業を中心に、あらためて改正のポイントを整理してみました。

労働者への個別周知を義務化

政府は、男性の育児休業取得率を、2025 年に30%まで引き上げることを目標に掲げています。2020 年度の取得率は12.65%まで上昇しており、これを目標値まで引き上げるべく新たな改正を行いました。2022年4月1日施行の改正法では、以下のことが事業主に義務付けられました。

個別周知の義務化

妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者個人に対し、事業主は育児休業制度等について周知しなければなりません。その方法については、面談での制度説明、書面による制度の情報提供等、幾つかの選択肢の中から実施することになります。

周知事項

(1)育児休業・産後パパ育休に関する制度
(2)育児休業・産後パパ育休の申し出先
(3)育児休業給付に関すること
(4)労働者が育児休業・産後パパ育休期間に負担すべき社会保険料の取り扱い

上記の周知事項を個別に説明するのは当然ですが、そのためには前もって自社の制度について整理をし、書類にして準備しておく必要があります。

参考書式:厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例」

育児休業給付金について

制度説明の際には、

  • 社会保険料は免除されること
  • 賃金が支払われないなど一定の要件を満たす場合には、育児休業給付金が雇用保険から支給されること

などの説明が必要です。

休業期間中に賃金が支払われないなどの場合は、雇用保険から育児休業給付金が支給されること、そしてその給付金は非課税であり、期間中の社会保険料も免除されます。そのため、手取りで比較すると下の表のように、最初の半年は給与の8割ほどの額が支給されることも加えておくと、より丁寧な説明になるでしょう。

【通常の給与と育休中の給付金支給との手取り額の比較(例)】

産後パパ育休とは

産後パパ育休とは、男性の育児休業取得を促進するため新設される「出生時育休制度」のことです。産後パパ育休は2022年10月1日から創設。雇用環境整備、個別周知・意向確認は、2022年4月1日から義務化されます。詳しくは回をあらためて別途解説します。

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休業取得意向の確認を義務化

労働者から妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出を受けた事業主は、その労働者個人に対して、育児休業取得の意向があるかどうかの確認をしなければなりません。

育児休業の取得意向の確認

育休等の取得意向の確認については、以下のいずれかの方法により行う必要があります。

  • 面談(オンライン面談でも可)
  • 書面交付
  • FAX(労働者が希望した場合のみ)
  • 電子メール等(労働者が希望した場合のみ)

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育児休業を取得しやすい環境の整備を義務化

事業主には、研修の実施、相談窓口の設置等、育児休業を取得しやすい雇用環境を整備することも義務付けられます。

育児休業を取得しやすい環境整備の義務化

義務化されるのは、次の4項目です。

(1)育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施
(2)育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備等(相談窓口の設置)
(3)自社の労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・提供
(4)自社の労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

上記のいずれかの措置を講じることが義務付けられており、できれば複数の措置を講じることが望ましいとされます。

育児休業等に関連する不利益な取り扱いの禁止・ハラスメント防止措置

育児休業等の申し出・取得を理由に、事業主が解雇や退職強要、正社員からパートへの契約変更等の不利益な取り扱いを行うことは禁止されています。今回の改正では、妊娠・出産の申し出をしたこと、産後パパ育休の申し出・取得、産後パパ育休期間中の就業に同意しなかったこと等を理由とする不利益な取り扱いも禁止されます。

また、事業主には、職場における上司や同僚からのハラスメントを防止する措置を講じることが義務付けられています。

【ハラスメントの典型例】
  • 育児休業の取得について上司に相談したら「男のくせに育児休業を取るなんてありえない」と言われ、取得を諦めざるをえなかった。
  • 産後パパ育休の取得を周囲に伝えたら、同僚から「迷惑だ。自分なら取得しない。あなたもそうすべき」と言われ、苦痛に感じた。

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有期雇用労働者について休業取得要件の緩和

有期雇用労働者が育児休業を取得する場合の要件が次のように緩和されます。

現行

(1)引き続き雇用された期間が1年以上
(2)1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない

改正後

(1)の要件を撤廃する(ただし、労使協定の締結により除外可)

改正により、「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上ある者」という要件が廃止されます。従って、2022年4月1日以降に有期雇用労働者が育休を取得する場合は、「1歳6カ月までの間に契約満了することが明らかでない者」のみが適用され、無期雇用で働いている人と同様の扱いが受けられます。

労使協定で対象外に

改正法による要件緩和で休業取得の対象者が広がりますが、多くの企業ではこの対象者について労使協定で制限を設けています。労使協定による制限は法改正後も認められるため、労使協定を締結している場合は影響がありません。

なお、改正に伴って育児休業規程にある「対象者」の見直しが必要になります。

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まとめ

これまで育児休業取得の実績がない会社で、労働者が育児休業の申し出をするのは勇気の要ることかもしれません。ましてや、男性社員からとなると言い出しづらいものです。事業主としては、まずは「おめでとう!」と伝えるべきです。
もちろん、会社として貴重な戦力が欠けるのは大きな損失といえるでしょう。規模が小さい企業であればなおさらです。けれども、規模が小さい企業ほど、貴重な戦力である社員に辞められてしまう方が困るのではないでしょうか。
一人一人の社員にできるだけ長く勤めてもらうためには、社員のライフスタイルに合った働き方を提供できるよう社内環境を整えていく必要があります。復職したらこれまで以上に頑張ってくれるという期待も込めて、育児休業の申し出を快く受けることが重要です。そのための環境の整備、就業規則の見直しを始めましょう。

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